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置き去り  作者: 大和香織子
第一章 京崎奈々
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京崎奈々4

 でも、男子も時々あのスペースに下りていたので、てっきり秋保だって何の問題もなく教室に戻っただろうと、そう思ったのです。

 あれは、事故なんだ、そう思い込んでしまえば楽なのに。しかし、そう思えば思う程、その時の事が昨日の様に鮮明に蘇ってくるのです。


 事件後、秋保の事を私たちは一切口に出しませんでした。多分皆、怖かったのだと思います。

 誰か一人でもあの事を口にしてしまえば、きっと私たちは殺人犯になってしまう―――と。


 秋保の事は、嫌いではありましたが、こんな事になったのは自分たちのせいなんだ。その罪の大きさに私はもがき苦しんで今までやってきました。


 秋保のノートをあの日見なければ、私は宿題を増やされようが、嫌いな秋保の無事を確認するまでまっていたのかもしれません。

 ですが、どうも日が悪かったのです。あの日、ノートを見てしまった私たち、そして自慢された紀子―――どうしても秋保を思いやるような気持ちにはなれなかったのです。

 こうやって秋保にされた嫌な事を蒸し返すのも、自分に罪はないと言う事をアピールしたいのかもしれません。


 しかし、警察にも同じように話しましたが、これ以上の真実はないのです。お姉さんの心の傷はよく分かります。


 そして、妹さんが亡くなってずっと辛かったことでしょう。

 しかし、秋保が自分で招いた結果とも言えるのではないでしょうか?

 お姉さんの気持ちも分からなくもないですが、私達もずーっとこうして罪の意識を感じながら生きてきたわけです。いつまでこうして苦しんでいないといけませんか。

 多分、これから先ずーっと消えることなく苦しみ続けて行くのだと、そう思います。

 あの日に帰れるなら、秋保を助けます。間違いなく。


 ですが、どんなに後悔したところで時間は戻ってきません。

 私は、あれからボランティア活動をしています。それはこうすることで少しでも秋保への償いになるとそう考えたからです。

 自分以外の誰か困っている人のお役に立てる事で、自分の苦しみが少しでも軽減されるような気がするのです。


 秋保のことをあの時、助けれなかった分、他の誰かを助けることで今の生きていられる自分があるのです。

 中学を卒業した後、私は警備員の仕事をする事にしました。周りは高校へと当たり前のように進学する中、就職することを選んだのです。それは、ノートを見たくないからです。文字のあるものが怖くて仕方がないのです。


 文字の書いてあるものを見ると、秋保が私を復讐しにきたのではないのかと思ってしまうのです。

 秋保の権力と言う物は、当時だけではなく、今も尚強く残っているのだ、とそう思ってしまうのです。

秋保が亡くなって以来、私は教科書を開くことすら出来なくなりましたから、両親には随分と迷惑をかけてしまいました。

 私が文字を目で追う事が出来ない分、両親が私の目の代わりをしてくれたのです。先生方には事情を説明して了解を取ったうえで、私はノートを取る代わりに、テープレコーダーで授業の内容を録音しました。


 唯一、目を見開いて見られるのは、自分で書いた文字だけです。それでも、最初のうちは文字を書くことすら、秋保の事を思い出し、また秋保が私をやっつけに来たと思ってしまっていましが、薬を飲み続けてから漸く自分の文字だけは平気になりました。


 今時、高校も出ずに就職するなんて、と親戚や周りからは避難轟々の嵐でしたが、秋保の事件の事を知っている両親だけは決して私を責めたりはしませんでした。

 警備員の仕事なら、最小限の文字だけで済むし、基本的に身体を動かすだけでいい仕事なので、その方が私には向いているのです。


 もし、秋保の代わりに私が死んでいたら、どうだったでしょうか?

 お姉さんだって、こんなに苦しんでいないでしょうし、あの時足を滑らせて落ちていたのが私なら、今頃秋保が警備員をやっていたかもしれません。

 それは、失礼ですか?でも、警備員を馬鹿にする方が私は失礼だと思いますよ?これでもかなり真剣に仕事をしていますから。



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