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気がついたら家族離散していました【修正中/休載中】(目処がつき次第再開)  作者: 桜木彩
第一章 五年越しの再会篇

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05 理不尽に絡めとられる

 夫がいなくなってから、幾度となく頭に浮かんだ『離縁』の二文字。

 だが、離婚届を書いたところで、その相手(当の本人)がいない。帰ってこないのだからなす術もなく、気づけば名目だけの次期公爵夫人になってから、五年という月日が流れていた。


(正直、もはや離縁にこだわっているわけじゃない。とはいえ、どちらにしても一度顔を合わせる必要はあるのよね。わかってる。わかってはいるんだけど……)


 ただ、気が進まないだけだ。

 五年前にたった一度会ったきりの、内容すら覚えていないような会話をしただけの夫が突然帰ってきたと言われても――。

 なんなら赤の他人のほうがまだ話しやすいわ、とルイーズはひとりごちた。


(とりあえず、騎士たちにはしばらく近づかないようにしておこう)


 ただでさえ、魔術師団と騎士団の仲は最悪と言っていいほどなので、あることないこと文句をつけられてはたまらない。

 実際には、魔術師は騎士をなんとも思っていないのだが、その職務の性質上、冷静かつ知的好奇心を優先に考える魔術師たちは()()()()()()()()()()()()()()()()に見えるらしく、騎士の中には、王宮で魔術師を見かけるだけで突っかかってくる者もいる。

 理不尽な! と何度叫びそうになったことだろう。

 まあ、魔術師が実際に魔術を使っている場面など早々に見られるものではないので、自分たちのほうが国に貢献している、あるいは簡単に力で捻じ伏せられると思っているのも、強気に出てくる理由のひとつなのだが。

 なんなら、魔術など実在しないと信じている者もいるほどだ。そんな輩にとって、王宮勤めの魔術師とは『詐欺師』であり、また『税金泥棒』であるらしい。酷い難癖をつけられたものである。

 それが嫌なら、さっさと魔術(実物)でも見せて汚名を返上すべきだと思われるかもしれないが、魔術師の多くは、仕事や研究の邪魔さえされなければ外聞など気にしない。ゆえに、騎士が一方的に魔術師をこき下ろす、という方程式がいつの間にか出来上がってしまったのだった。

 だから、ほとぼりが冷めるまで騎士団には近づかないでおこう――。





(そう思っていた時期もありました)


 半ば諦めの境地で、ルイーズは辺りを見回した。

 すれ違う人たちが、一様にぎょっと目を剥いてこちらを二度見してくる。それもそうだろう。わかる。

 ルイーズは今、数名の騎士たちに囲まれて歩いていた。両手首を掴まれているのは逃げないようにとの配慮なのだろうが、痛いのでやめてほしい。

 そんなルイーズの願い虚しく、わずかに身じろぐとさらにきつく握り締められた。まるで罪人のような扱いだ。


「ねえ、わたくしはどこへ連れて行かれるのかしら?」

「黙ってついて来い!」


 ――よし、あとで鉄槌を下そう。

 そう心に決め、口を噤む。

 もうなんとでもなれという心持ちだった。





 しばらく歩いて(歩かされて)、たどり着いたのは騎士団が所有するグラウンド。

 自主的にトレーニングしているのか、中にはちらほらと騎士たちがいて、素振りをしたり走り込んだりと自由に過ごしているようだ。

 そんな中、ルイーズが引きずられるようにして現れると、どこからともなく悲鳴が上がった――ような気がした。

 しかし、ルイーズを囲む男たちはそれに気がつかない。あるいは、あえて無視しているのかもしれないが、中で訓練に励んでいた騎士たちの視線を()()()()()()()()()と、訓練場の片隅で、ようやくルイーズを解放した。

 いや、解放したというより投げ捨てたといった風情の乱暴な動作に、ルイーズの足元がよろめいた。


(なるほど……?)


 騎士団からの呼び出しだと聞いて、ついに夫から声が掛かったのだと思ったが、どうやら違うらしい。集団の中から、ひとりの女性騎士が進み出てきた。

 ルイーズより頭ひとつ分ほど背が高く、鋭い目つきをした女性だった。


「お前がルイーズ・エマニュエル・バルニエか」


 あまりに無礼な物言いではあったが、余所行きの笑みを貼り付けたルイーズは悠然と頷いた。思わず、これだから騎士は、と言ってしまいたくなる。集団で女性――しかも、次期公爵夫人を取り囲むなど、これこそ弱い者いじめをしているようではないか。第三王子行きの案件であることは間違いない。


「ええ、わたくしがルイーズ・エマニュエル・バルニエでございます。こんな場所に呼び出して、いったいどのようなご用件なのでしょう?」

「『こんな場所』だと……!」

「いえ、いいえ、みなさんがそれぞれ一生懸命訓練なさる、この場所自体はとても素敵ですけれど。人を招くなら、グラウンドの片隅ではなく、応接室にすべきだと思いますわ。せめて椅子のひとつでも用意するのがマナーかと」

「お前は客ではない。ゆえに、その必要はないと判断した」

「そうでしたか。――それはどなたが?」


 真紅の瞳が、ゆるゆると細められる。

 挑発するような笑みに、騎士たちは一層のこと殺気立った。


(そもそも、初手から喧嘩を売られる意味がわからないのだけど?)


 ルイーズを人目から隠しているのか、円を囲むようにして騎士たちが立っている。女性騎士は目の前のひとりだけで、あとは全員男性だった。

 みな一様に図体がでかいので、ルイーズの体など隠れてしまうだろう。


「誰でもいいだろう」


 なあなあにしようとした女性騎士に、「まあ、よくありませんわ!」と声を張り上げる。


「責任の所在ははっきりさせませんと。この格好から予想はつくかもしれませんが、わたくしは魔術師団に所属しています。あなたがたにこうして無理矢理連行されたことにより、現在、職務放棄をしている状態です。戻ったあと、何があったのか事細かに説明しなければなりませんもの」

「お前の都合など知らん!」


 ――なんて横暴な!

 と、言い返してもよかったが、あまりにも計画性がないので、ルイーズのほうもじわじわと楽しくなってきてしまった。これではあの腹黒王子に文句は言えないな、と胸中で苦笑する。

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