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気がついたら家族離散していました【修正中/休載中】(目処がつき次第再開)  作者: 桜木彩
第一章 五年越しの再会篇

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10 夫の可笑しな本音

(こんの……腹黒王子! どうあっても、わたくしと彼女を戦わせたいみたいね。しかも、騎士と魔術師どちらが、だなんて。そんなことを言ったら……)


 第三王子の言葉に、ふらりと立ち上がった女性騎士。俯き気味の顔はいまだ青ざめたままだったが、とんとんと靴の先で地面の感触を確かめている。やる気になっているらしい。


(ほらねえええええ!)


 ルイーズは、心の中で盛大に叫んだ。

 だいたい、騎士たちはただでさえ、王宮付きの魔術師と見れば所かまわず突っかかってくるのだ。こんな大義名分を与えられて、黙っていられるわけがない。


「ルーファス、それは承服できない」


 しかし、意外なことに、アルトンは断固拒否の姿勢を取ってみせた。確かに、この場で第三王子(最高権力者)の言葉に反論できるとしたら、彼しかいない――のだが。

 思わぬところからの反対に、騎士団一同はざわついた。


「隊長!? なぜです!?」

「騎士が魔術師より強いと思い知らせるいい機会ではないですか……!」

「だいたい、魔術師たちはたいした仕事もしていないくせに、汗水垂らして齷齪(あくせく)働いている俺たちを馬鹿にしているんだ!」

「副師団長だとかいうその女をシメれば、自分たちの行いが()()()()()()と気づくでしょう!」


 騎士は正義で、魔術師は悪。

 二つの組織が切磋琢磨するうち、いつの間にかそういう方程式が成り立ってしまっていたのだろう。

 自分たちを上に置くことで、安心を得ているのか。

 魔術師筆頭であるルイーズは、「ここまで嫌われているなんて悲しいわ」と形ばかりの憐れみを滲ませた。

 まるで他人事であるかのようなその態度に、ルーファスは苦笑する。やはり彼女も魔術師なのだな、と。


「なるほど。お前たちが『やる気』だというのは痛いほどわかった……が、アルトン。お前が決闘に反対する理由はなんだい?」

「……妻が騎士団員でないからと決闘を一度許可すれば、王宮内で他の魔術師と鉢合わせになったときにも、同じことが起きかねないだろう」

「あら? ですが、旦那さま。騎士の方々はすでに、普段から王宮内でも憚らずこのようなことをおっしゃっていますけれど?」

「なんだって?」


 騎士と魔術師の対立を知らなかったのか、アルトンは不愉快そうに眉根を寄せた。


「まあ、そういうこと。彼らはどうやら魔術師の存在が気に食わないようだからね。この際、一度ぐらい彼らの言うとおりにしてみてもいいんじゃないかな? こういった場合、口だけで『魔術師に絡むな』と言っても無意味だろう」


 基本的に、魔術師が騎士に言い返すことはない。

 たとえ気に食わないことを言われたとしても、そもそも好戦的な性格をしていないので、せいぜい()に愚痴を吐きにくるぐらいだ。

 そんな魔術師の態度もまた、騎士たちを助長させた原因のひとつなのだが。


「いや、しかし……」

「うん?」

「それは……妻でなくてもいいのではないか」


 アルトンの煮え切らない様子に、物珍しげな表情を浮かべるルーファス。事実、普段は公私をしっかり分けているアルトンが、『公』の部分で上司にあたる第三王子に意見するのは珍しい。

 無論、()()()()()()それに限ったことではないが、今はそう(こだわ)るべきときではない。少なくとも、騎士たちや第三王子にはそう見えた。

 ところが、当のアルトンは、何か苦いものでも飲み込んだかのような顔をしている。


「アルトン、お前――」

「け、怪我をしたらどうするんだ?」

「……は?」

「だから、決闘などという野蛮なことをしたら、妻が怪我をしてしまうかもしれないだろう」

「はあ!?」


 あら、とルイーズは目を丸くした。

 常に飄々とした態度を崩さない第三王子が、声を荒げ、さらには口を半開きにして呆然としている。


「ル……夫人が怪我をするかもしれないって、お前、どんなに危険な任務でも、そんなことを言ったことなんてなかっただろう!?」

「相手が部下の場合のことを言っているのか? 部下と妻とでは立場も気持ちもまったく違う。心配することはあっても、それだけだ。何か可笑しいことでも?」

「可笑しなことって、ああ、ええ……?」


 ――()()腹黒王子が言葉に詰まるなんて珍しい。

 ルイーズは一度目を瞬かせて、それから形式ばかりの夫に視線を移す。五年も放置していたのに、今さら夫(づら)するその気持ちがまったく理解できなかったのだ。

 そもそも、初夜にだって何を話したのか覚えていない。妻でさえそんな有様なのだから、ルーファスや騎士たちが驚くのも当然といえば当然だろう。

 それなのに、アルトンは周囲の様子に気づかないまま(とど)めを刺した。


「妻が怪我ひとつでも負ってみろ。傷付けた奴をうっかり殺してしまうかもしれない」


 真顔で告げられた言葉に、なんとも言えない沈黙が落ちる。ジョークなのか、本気なのか。アルトンとの付き合いが長いルーファスでさえ、判断しづらい台詞(セリフ)だった。


「……えーと、うん、まあ、アルトン、お前が奥方のことをうんと心配しているのはよく伝わってきたよ」


 さすが、踏んできた場数が違うとでも言うべきか、いち早く我に返ったのは第三王子。


「でも、彼女は()()()()国から認められた魔術師だからね。それなりに自衛の方法も持ち合わせている。少なくとも、お前の知っている五年前の彼女とは違うんじゃないかな」


 ルーファスは再度外向き用の微笑を浮かべて、話を続けた。

 この五年間の話を持ち出されると弱いのか、アルトンはわかりやすく口ごもり、それからルイーズにちらと視線を送った。


「まあ、そうね……」


 ――なるほど、これがわたくしを焚きつけるためなら正解だわ。

 その手腕に、思わず唸ってしまう。

 アルトン()が何を考えているのかはわからないが、どうやら嫌っているわけではないらしいので、空白の五年を話題に出されると耳が痛いことだろう。

 だが、それ以上に、まずなんの興味もない夫が、さも自分の理解者であるかのような口ぶりであるのが気に食わない。

 無論、腹黒王子のことだ。すべて承知のうえで()()()ルイーズのプライドを刺激しているのに決まっている。


「わかりました。その決闘、お受けいたします……が、結果如何(けっかいかん)によっては、今後、理由なく魔術師に絡んでくるのはおやめくださいませね」


 淑女の笑みを浮かべたまま、女性騎士に向き直る。「ルイーズ!?」とアルトンは叫んでいたが、無視である。


「よし、始めようか」


 王子自ら審判をするつもりなのか、手際よく騎士たちを観覧席にまで追いやったルーファスが、緩慢な動作で歩み寄ってきた。


「勝負は、どちらかの戦意が喪失するまで。あるいは、どちらかが『参りました』と言うまでということにしようかな。ただし、本気で命を取りにいくような真似は無しね」


 冗談交じりに付け足された最後の文言は、おそらく女性騎士に向けてのものだろう。ルイーズを真っ直ぐに睨みつける視線には、ともすれば命の危険が感じられるほどの怒気が入り混じっている。


「では――始め!」


 開始の合図がかかった途端、女性騎士はほとんど跳躍ともいえる速度で、ルイーズに飛びかかってきた。

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