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【コミックス3巻発売】結婚前日に「好き」と言った回数が見えるようになったので、王太子妃にはなりません!  作者: 来栖千依


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9 策士は策に溺れるものです

「愚かな妹よ! 今さら十二夜から離脱しようなんて許されると思ったか! お前にはぜったいに王太子と結婚してもらうからな!! これでシザーリオ公爵家は安泰だ!!!」


 セバスティアンは、否が応でもキャロルとレオンの結婚式典を推し進めるつもりのようだ。キャロルは子猫のように唸った。


「セバスお兄様のいじわる! 冷血漢! レオン様のお幸せを願わないなんて、それでも親友ですの。そんな風に陰険だから、三ケタ止まりですのよ!」

「だから、三ケタって何の数字だ! 意味が分からないのに心が傷つくのはなぜだ!!」

「それは、お兄様の心が弱っちいからですわ! このヘタレ! 根性無し!!」

「止めろーーーー!」

「二人とも、落ち着いて」


 主にセバスティアンをいさめたレオンは、扉越しに優しい声を響かせた。


「キャロル、セバスティアンは君のことを心配しているんだよ。君がお供も連れずにお屋敷を出てしまったから、公爵家は大騒ぎになったんだ。エイルティーク王国は平和とはいえ、悪人はどこにでもいる。貴族令嬢がふらふら出歩いていたら誘拐されるかもしれない。彼らに迷惑をかけたことは反省しないといけないよ」

「はい……。ごめんなさい、セバスお兄様。わたくしが間違っておりました」


 キャロルが素直に謝ると、ふん!という鼻息が聞こえた。


「しばらくそこで反省するがいい。結婚式典を前向きに考え直すまで、おやつは抜きだからな!」


 そういう訳で、キャロルは王太子妃になったら自分が使うはずだった部屋に、閉じ込められてしまったのである。


「廊下側に鍵が取り付けられているから、内側からは開けられませんわね……」


 ふかふかのソファに座って、持ち帰ったクレープを食べながら、キャロルは休憩していた。

 どうにか脱出できないかと、辺りを一通り調べたので、昼食前にお腹が空いてしまったのである。


「支度部屋の方にも鍵がかかっていましたし、窓は10センチほどしか開かないように仕掛けが施されていますわ。バルコニーへ出るガラス戸も、強力な接着剤で固定されていました。きっとお兄様の浅知恵ですわね」


 軟禁して二夜目を迎えさせようという魂胆だろう。こんなねちっこい真似をレオンがするはずはないので、モテない兄の作戦に違いない。

 よりによって、身内がいちばん手強い敵になるとは困ったものだ。


「何とかして部屋を出ないと、レオン様が二輪目を持っていらっしゃるでしょう。王太子殿下から薔薇を差し出されたら、受け取らないと不敬になってしまいますわ。お兄様の策略をやりこめて、レオン様の手の届かない場所に行かなくては……」


 キャロルが悩んでいると、急にノブがガチャガチャと動いた。

 びっくりして扉に耳を当てると、廊下にいる侍女達の会話が聞こえてくる。


「あら? 開かないわ」

「そういえば通達があったわね。このお部屋には、安全のために鍵がかかっているから、開けるときは報せなさいって」

「鍵は誰が持っているの?」

「王太子殿下と侍女長だけだそうよ」

「それじゃあ、侍女長に報せて開けてもらわないと。お昼のスープが冷めてしまうわ」


 バタバタと遠ざかる足音を聞いて、キャロルは考えた。

 鍵を開けてもらわないかぎり、キャロルはこの部屋を出られないし、誰も入って来られない。スープの一杯も持ち込めない、いわば完全なる密室だ。

 

(分かりましたわ。これが狙いだったのですね、お兄様!)




「――――扉が開かない?」


 レオンは執務室で報告を受けた。今日はスケジュールにない朝駆けをしたので、山積みになった書類を悪戦苦闘しながら片づけているところだった。

 顔色悪く進言するのは、キャロルの世話を頼んである侍女長だ。


「はい……。昼食の際には私が代表で鍵を開け、キャロル様がお食事をお取りになるのを見届けたのちに、空いた食器を下げてまた鍵をかけました。午後のお茶をお届けしたときには、殿下のご命令通り、接着剤で止めていたガラスに頑丈な鍵を取りつける技師を入れました」


 さすがのキャロルもバルコニーから飛び降りたりはしないと思ったが、セバスティアンが気にしていたため鍵職人を呼んでおいたのだ。


「鍵の取り付けには近衛騎士を同行させただろう。廊下と窓の外を見張らせた騎士たちから、キャロルが大人しく部屋のなかにいたという報告を受けている」

「それは私も確認しております。ですが、晩餐の時刻が近づいたので、お支度のために侍女たちを部屋へ入れようとしたところ、鍵を回しても扉が開かなくなっておりまして……」


 侍女長は、デスクの上に真鍮の鍵を置いた。扉を開けるために何度も回したのだろう。歯の周りが傷ついている。

 レオンは、自分が持っているのと同じ型の鍵を手に取って、顎にコツンと当てた。


「壊れてしまったのかな。忙しくても晩餐はキャロルと共にしたいと思っていたし、俺が行こう」


 レオンは仕事を中断して、キャロルを閉じ込めている部屋に向かった。

 鍵穴に鍵を入れて回すと、ガチャリと鍵は外れた。だが、ノブを引いても扉が開かない。やはり壊れてしまっているようだ。

 仕方なく、コンコンとノックする。


「キャロル。中に入りたいんだけれど、鍵が壊れてしまったようなんだ。開くかどうか確かめたいから、そちらから押してもらえないかな?」


 すると、返事はすぐに聞こえた。


「鍵は壊れておりませんわ、レオン様」

「では、なぜ開かないんだろうね?」


「わたくしの方からも、鍵を掛けているからですわ!」

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