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【コミックス3巻発売】結婚前日に「好き」と言った回数が見えるようになったので、王太子妃にはなりません!  作者: 来栖千依


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11 恋の大捜索を決行します

「よろしくない事態ですわ」


 キャロルは、王太子妃が住む予定の部屋で、二輪の薔薇を見つめていた。

 昨晩、レオンによって握らされた『誠実』は、公爵家から運ばれてきた『感謝』とともに、大きめの花瓶に入れられている。


「二夜目も無事に越えてしまうなんて。さらに、シザーリオ公爵家のお屋敷を追い出されてしまうなんて……」


 立てこもりの一報を聞いた兄セバスティアンは、胃を抑えながら王城へやってくると土下座する勢いでレオンに謝り、二輪目を手にしたキャロルに言った。


『――公爵家では面倒みきれん! こんな我がまま言う子はもう知りません。今日から王室の子になりなさい!!』


 親が駄々をこねる子どもを叱るときの口調だった。キャロルがしゅんと反省すると、その間に、兄は公爵家からキャロルの私物を運んで来てしまった。


「心配する必要はないよ。引っ越しが少し早まっただけだ」


 レオンは口をつけたカップを置いて、写真立てや青い眼の人形で飾られた部屋を見回した。


「十二夜が終わったら、君は正式な王太子妃として、ここに住むんだから」

「まだ、王太子妃になるとは決まっておりませんわ。十二夜が終わるまで、わたくしは妃候補です」


 レオンとキャロルは、テーブルを挟んで向き合っていた。公務で忙しい王太子が、休憩時間にお茶とケーキを連れて部屋にやってきたのである。


 二人でお茶をいただく習慣は、十二夜が始まる前からあった。何気ない会話を弾ませることは、お互いがどんな人物か知っていくための重要なファクターだった。

 だがキャロルは、レオンから『本当に好きな人』の話を聞かされた事は無かった。仲良くなれたと思っていたのは、キャロルの方だけだったようだ。


 小さなプディングケーキを味わうレオンは、秘密の恋人がいるとキャロルに知られてからも、何ら変わりなく二人きりの時間を楽しんでいる。


「セバスティアンから聞いたんだけどね。シザーリオ公爵家は、キャロルが来ても指一本たりとも敷地に入れない厳戒態勢を敷いているそうだよ。ちなみに町の方は俺の配下である騎士が巡回していて、万が一キャロルが歩いていたらすぐに捕まえるように命じてあるから、脱走はあきらめてね?」

「わたくし、脱走なんていたしませんわ。ちょっと町へお散歩に行くだけです」

「散歩は城の庭でしなさい」

「では、ちょっとお買い物に」

「商人を城に呼んであげるよ」

「……お花摘みに」

「キャロル」


 たしなめられて、キャロルは頬を膨らませた。


「だって! 凶悪犯にでもなったような扱いなんですもの! お兄様もレオン様も、どうしてわたくしを信用してくださらないのです!」


 別にキャロルは、我がままで行方をくらまそうとしているのではない。十二夜を止めるため、ひいてはレオンの恋を成就させるためである。


「困りましたわ。公爵家には戻れないですし、他の土地への出奔は不可能。どこかに身を隠して、レオン様に薔薇を差し出されないようにする作戦は、中止せざるを得ません……」

「そうしなさい。キャロルがどこに行こうと見つけてみせるから、どのみち中止なんてあり得ない事だしね」

「分かりました。わたくし、次の作戦に出ますわ!」


 キャロルは、紅茶を飲み干して立ち上がると、レオンの頭のうえの『∞』マークにびしりと一指し指を突き付けた。


「レオン様が本当にお好きな方を見つけだして、代わりに王太子妃になってもらおう大作戦を決行いたします!」


 自分とレオンの結婚を止めるためには、もはやこの方法しかない。

 瞳を輝かせながら言い放ったキャロルに、レオンは頬杖をついて微笑む。


「キャロルは、俺の好きな人を知りたいんだね?」

「はい。婚約者として、ご挨拶させていただきたいのですわ。レオン様をよろしくお願い致します、どうぞお幸せにと、自分の口からお伝えしたいのです」


 レオンが恋をしている相手は、どんな人だろう。

 煌びやかな宝石のような美人だろうか。それとも野に咲く花々のように心優しい淑女だろうか。駿馬のようにしなやかで健康な人も素敵だ。

 相手が貴族でも町民でも、キャロルは、レオンとの仲を全力で応援するつもりでいた。


「分かったよ。キャロルの好きなように調べたらいい。王城にいる者たちは皆、俺の大好きな人を知っているから、すぐに教えてもらえると思うよ」

「それは助かりますわ! さっそく行って参りますーーー!」

「待って」


 扉に突進しかけたキャロルの腕をとったレオンは、ぐいと引っ張って自分の膝のうえに座らせた。


「レオン様? どうかなさいまして?」

「仕事に戻らなくてはいけないから、やる気を補給していこうと思って」


 キャロルのお腹に腕を回したレオンは、レースを施したドレスの肩に顔をうずめて、甘い息を吐いた。


「いつもキャロルを抱きしめていられたらいいのに……」

「わたくしを抱っこすると、そんなにやる気が出てきますの?」

「そうだよ。だから、遠くには行かないでね」

「かしこまりました。本日は、お城の中だけにいたします」


 斜め上の返事を聞いたレオンはクスリと笑って、それからしばらくキャロルを離してくれなかったのだった。

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