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【コミックス3巻発売】結婚前日に「好き」と言った回数が見えるようになったので、王太子妃にはなりません!  作者: 来栖千依


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1 王太子妃にはなりません

「嘘……」


 シザーリオ公爵家の令嬢キャロルは、婚約者を見て固まった。エイルティーク王国の王太子であるレオンの頭上には、信じられないような文字が浮かんでいる。


『∞』


 数字の8が寝転んでいるわけではない。読みは『無限大』だ。

 これは、数えられないほど大きくなった数値をあらわす記号。数値がカウンターがストップする上限より大きくなった、略してカンスト状態をあらわす記号である。


 十二夜におよぶ結婚式典の、第一夜を明日にひかえた教会には、おおぜいの人々がいる。

 儀式をつかさどる司教や警備にあたる騎士の頭のうえにも、さまざまな数字が浮かんでいるが、カンストしているのはレオンだけだった。


「嘘よ、嘘……信じられないわ……!」


 キャロルは、化粧が崩れるのもかまわずに、両手を頬に当てた。こんな展開は予想していなかった。あふれ出る喜びを、胸に押しとどめられない。


「わたくし、レオン様から、そんなに『好き』って言われておりませんのに!!」


 キャロルにだけ見えるこの数は、誰かに『好き』と伝えた回数なのだ。

 愛してる、離さない、そういった『好き』に近い言葉でもカウントされる。


 だが、キャロルは、四歳で婚約したレオンから、そういった愛の言葉を聞かされた経験がほとんどなかった。

 それなのに、数値がカンストしていると言うことは。


 ――レオンには、他に好きな人がいるということだ!


「よしきた、婚約破棄よ!! そういうことでしたらレオン様、わたくしは実家の領地に帰らせていただきますわ!!!!」

「は?」


 不思議そうなレオンの手をガシリとつかんで、キャロルはブンブンと振った。


「よろしいのですわ。恋は突然に落ちるものだって本で読んだことがありますもの! 婚約者とはちがう方を好きになることもあるでしょう。明日の結婚式典は、ぜひその方とお挙げになってくださいませ!!!」

「どうして君以外と? キャロル。落ち着いて、話をきいてほ」

「こんなときに落ち着いてなどいられませんわ。それでは失礼ーーーー!!!」


 キャロルは、レオンの言葉をさえぎり、ドレスのスカートをつまんで走り出した。後ろで「待ってくれ」と言っていた気がしたが立ち止まらなかった。


(レオン様どうかお幸せに! わたくしは、領地のログハウスで、動物と触れ合ったり、パンやお菓子を焼いたり、星を眺めたりする、のんびりまったりなお一人様ライフを送るので、お気づかいなく!! 好きな方とのラブラブな新婚生活を楽しんでくださいませ!!)


 待たせていた馬車に乗りこんで公爵家に帰りついたキャロルは、使用人たちに命じて旅支度をととのえさせた。


「わたくしが王都にいると、レオン様の恋人が気にされるでしょう。今日中に王都をたちますので、手早くまとめてくださいな。ドレスや宝石は使わないので置いていってかまいませんわ。愛用しているブーツと雨合羽と軍手は忘れずに」

「なんだ、やかましい……」


 騒ぎを聞きつけて顔を出したのは、目のしたに青黒いクマを作った兄セバスティアンだった。

 シザーリオ公爵家の現当主で、元より生真面目な男。キャロルの結婚式の準備のために多忙をきわめており、過労死寸前のところまで追い詰められている。


「キャロル、お前はいつでもどこでもドタバタと……。明日には王太子妃になるのだから、もう少しつつしみを持て」

「つつしみが足りなくても大丈夫ですわ、セバスお兄様! レオン様には他に好きな方がいらっしゃるので、妃の座はその方にお譲りすることにしましたの!!」

「は? あいつに恋人なんかいるわけないだろう。お前一筋のお前馬鹿だぞ?」


 セバスのただでさえ険しい顔つきが、眉間のしわで凶悪になる。

 王太子のことを何も分かってないな……と、キャロルは、ふふんと鼻を高くした。


「レオン様の親友であるお兄様も知らないとは! よほど大切になさっているのでしょうね。気づけてよかったですわ。今朝、いきなり数字が見えるようになったときは、どうしようかと思いましたけれど。きっと、レオン様を幸せにするために行動しなさいと、神様が力を宿してくださったにちがいありません!」

「数字ってなんのことだ」

「お兄様は……」


 キャロルは、セバスの頭上を見て、残念そうに首を振った。


「かわいそうに。手遅れですわ……。シザーリオ公爵として、三ケタはどうかと思いましてよ。女性に愛の言葉ひとつ言えないから、いつまで経っても縁談がまとまらないのでしょう。公爵家が断絶するかもしれません……」

「大きなお世話だ。それに、結婚前日に婚約破棄なんか通るか! 今から支度するから待っていろ。お前といっしょに、王太子に頭を下げにいく」

「行くならお兄様お一人でどうぞ! わたくしもう出発しますので!!」


 侍女に呼ばれたキャロルは、馬車に飛び乗って、白いハンカチを振った。


「お兄様、ごきげんようーーーー!!!!」

「待てこら、逃げるなキャロルーーーーー!!!!!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヒロイン兄のカウントが3桁で告白もろくに出来ない朴念仁扱いされてますが、 3桁なら告白回数も百回単位になるので表記桁数間違いなのでは無いのだろうかという疑問
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