見付けられた千穂の日記
「憂さん。僕は君にお願いしたい」
真剣そのもの。私は彼の本気を感じ取って「憂に……お願いって」と、わかりやすく伝え直す。
「うぅ――。むり――」
あらら。下向いちゃった。覗き込んだらきっと唇も変形してるパターン。
「僕など偶々、生徒会長になっただけの存在だ。君とは違う。君はこの街そのものを変えた。今や世界中が君に尊敬の眼差しを向けている。君以外に適任者は居ない」
えっと……。
「凌平くんはね? 前、生徒会長……だけど……」
「うん――。せいとかいちょう――だった人が――するべき――」
う。そうなんだけど……。
「最後まで……聞いて……?」
「――うん」
なんて言ってあげようかな……って、憂から目を逸らして生徒会室を見回すと、一斉に生徒会の人たちがきょろきょろ。現生徒会長の七海ちゃんも目を逸した。
私たちに注目してたってばればれだよ?
「蓼園市……変わったよね?」
もう1度、憂の目を見てひと言。
凌平くん、私に任せるとかずるい……。さっきの言葉を憂に伝えようと思ったら時間かかるよ?
「うん――。たでのはなじちく」
「そうだね。蓼の花自治区」
正確には、『蓼の花倫理・研究自治特区』だけどね。
「そうしちゃったのは……誰かな?」
「――――」
……固まっちゃった。
憂? どう考えても憂だよ? 総帥さんと憂。2人が蓼園市を変えちゃった。
だから『蓼園 肇』の蓼の字と『立花 憂』の花が名前に入っちゃってるでしょ?
私が誘拐、保護されて少し後に行なわれた、独立を問う住民投票で蓼園市は独立の道を選んだ。圧倒的な支持だったんだよ? 独立が85%の票を集めて……。
その時には世界中から驚きと称賛の声が挙がった。
……もう1年半以上も前の出来事。
独立の宣言を一方的に行なった鈴木市長に対して、日本政府は自衛隊の派遣を決定。日本国を守るために制圧するって……。
もう大騒動。エアガンでも包丁でも戦うって人が大勢、出現しちゃって……。
結構、怖かった。そんなことにしちゃった当事者の1人だから。
そんな時に私を誘拐犯から保護してくれた同盟国から鶴のひと声。蓼園市にとっては、……なんだけどね。
大きな国が交渉の仲介役を引き受けてくれた。だから蓼園市は形態を変えて生き延びた……って言えるのかも?
元々、海に面していない県だし、周りが全部、日本になっちゃうから独立なんて出来っこない。
だから自治区。
たくさんの国が後押ししてくれたんだよ?
倫理・研究の特区。
中央に点があるのがポイント。倫理研究じゃなくて、倫理と研究の特区。
如何なる干渉も受け付けない。干渉したら世界の警察が黙ってないぞーって。
それから色々な話し合いの場が設けられて、日本の一員みたいなものって地位を獲得。最後には総理大臣と鈴木市長が笑顔で握手。
……いっぱいお金が動いたんだろうな。
梢枝さんが色々と教えてく「そうすい――」
…………。
「…………」
「…………」
凌平くん。そうきたかって感じで無言。私も無言。
「――――」
……憂も。私を見上げる瞳は真っ直ぐ。
だから私もじっと見詰める。絶対、自分でも解ってるはずだから……。
「――――ぅ」
目が泳いだ。ほら、解ってるんじゃない。
「憂も……だよね……?」
倫理・研究。その特区。何の研究かって言ったらもちろん憂の研究。不治の病はもうすぐ不治じゃなくなるし、臓器を作ることだって可能になったって聞いてるよ?
実際、腎臓がダメになっちゃった人。憂の血に賭けてみたら真新しい臓器が作られちゃったんだから。
そんな事が出来るのは日本の法律がベースだけど、それを上塗り出来るだけの権利を蓼の花自治区が持ってるから。
「――――うん」
……ちっちゃい声。でも、肯定したね?
「医療を……変えた……ヒーローだよね?」
「――――」
むぅ。唇をとがらせた。不満いっぱいだね。
でも負けてあげない。3年間をまとめてみた時、憂を中心に学園も回ってたんだから。
「命……救ってるよね?」
憂から直接投与された血液だけじゃなくて、iPS細胞で培養した成分でも効果はてき面って聞いてるよ?
今、この街には世界中から患者さんが集まってるんだよ?
……まだ返事してないけど、いいや。先に進むよ?
「だから……そのこと……聞かせて?」
答辞。
それで想いを伝えて欲しいんだ。
憂がどう思ってるのか。世界中の人に伝えて欲しい。憂の口から。
この学園生活で何を考えて、どんな答えを出したのか。
……私は知ってる。だから聞かせてあげて?
「この蓼学……どうだった……?」
小首を傾げて……。頭に浸透させて……。
…………。
すっごく優しく笑った。見惚れちゃうほど。
「それは――」
話そうとした瞬間、唇に人差し指を当ててストップ。
「答辞で……ね?」
小首を傾げてみた。『ね?』のタイミングで。
「うぅ――」
困った。眉が下がっちゃったね。もう使っちゃお。卑怯っぽいけど。
「……お願い」
両手を合わせて、憂にお願い。
「――う、うん――」
よし! 決まった! これで憂が卒業生代表! この激動の3年間は憂が中心だったんだから当たり前だよね!
憂の言葉って重いから、これで倫理面で嫌な顔をしてる人が減らせる! 世界中のね!
「……千穂くん。流石だ」
凌平くんの声に視線を向けると、イケメンフェイスが呆れ顔に変化してた。私に任せたのは貴方なんですけどね。
「憂さん。ありがとう」
……私も乗り気だったけどね。色々、裏を考えるようになっちゃった。
「千穂くん、ありがとう。これで懸念が1つ去った」
「んーん。でも、本当に良かったの?」
初めての生徒会長を差し置いての卒業生代表になるってことは、逆に凌平くんは初めて3年生の最初で生徒会長だったのに代表じゃないってことに。
もちろん、選挙だから1人も生徒会長を出さなかった学年もあるんだけど、その時とは話が別で……。
「構わない。僕は会長時同様、常識を壊す。慣例など不要と考える側の人間だ」
私たちを出入り口まで見送ってくれながらの強い言葉。
そうなんだよね。凌平くんは文化祭と選挙を切り離したり、ミスコンとミスターを単一イベント化したり、体育祭の時期を変えたり……。今までの蓼学の伝統をいっぱい破壊した生徒会長。
前生徒会長としての信任は揺るぎなくて、今でもこうやって生徒会に呼ばれてる。
……すっごく大きくなったなぁ。あの空気読めなかったキザ男さんが生徒の空気を読んで、どんどん過ごしやすくしてくれてさ。
「……どうした?」
「――千穂?」
「佳穂くんたちが待っているのだろう?」
「ん? あ、ごめん」
足、止まっちゃってた。あはは。
憂のこと言えないね。
がちゃり。
学園のほとんどがスライドするドアなのに、生徒会室は珍しい押したり引いたりするタイプのドア。なんでだろうね?
「千穂ー! お疲れー!」
「……お疲れ様」
「お待たせ」
……それにしても、『佳穂くんたち』かぁ。
凌平くんは、やっぱりいつまで経っても気付かない。
「時間を取らせて済まなかった。ボランティア部にも加瀬澤が謝っていたと伝えてくれると助かる」
「了解だー」
「……それじゃ帰ろっか?」
……千晶。
もうすぐ卒業だよ? 2人とも大学進学決めてるけど、学部も違うよね? 今までみたいに一緒じゃないんだよ……?
中央管理棟から出ると注目の的。
憂の立場的に……ね。
「憂先輩だ!」
「ホントだ! 佳穂先輩も千晶先輩もー! ラッキーすぎる!」
「いい事あるよ!」
……1年生かな? 私たち4人が揃って歩いてるとこを見たらその日の内にいいことがあるんだって。
「……そんな訳ないのにね」
「だなー。あたしゃ、そんな特殊能力持ってないぞ?」
…………。
なんで揃った時なんだろうね?
憂を見てたら幸せになるのは間違いないんだけど。
「……ところで千晶?」
私と憂の後ろで佳穂の声。
先頭を歩くことって多いんだよね。これは憂の歩くペースの問題。先に歩いてたらちらちら後ろを気にしながら歩かないといけないから。
「なに?」
ちょっと冷たい返事。予感がしたんだろうね。何度も何度も言われてるし。
「しっぽ長くなったなー!!」
がくっ。それは予想していませんでした。
「カットした直後に千穂が攫われたからね。願掛け。あれから1度も揃える以外、切ってないから」
「――千穂?」
……そうだったんだ。
それは……、なんか、ごめんなさい。
「……凌ちゃんへの願掛けだと思ってたぞ?」
「またその話?」
「――千穂?」
ごめんごめん。歩こうね。
……後ろがちょっと険悪なんだけど。憂も慣れちゃったのかな?
「皆さん、また明日ですー!」
横からの後輩の声に、ばいばい。みんな手をふりふり。私と憂はちっちゃくふりふり。
後ろは知らない。振り向けない。
「冗談抜きで告白しろ? 卒業する前に伝えろ?」
「……うるさい」
うわー。低い声になってるぅ……。
「大丈夫だって! 保証するから!」
……佳穂? もうやめない? 何度、この話でケンカしたか覚えてる?
「うざい。あんたは?」
「千晶の話だ」
「全部、断って」
「そう言われてもさ」
「人のことより自分のこと」
「解ってんだけど」
「あんたがはっきりしたら考えてもいい」
「ずるいぞ!」
「ずるくない!」
……略しすぎ。
「とにかく! わたしは関係を壊したくないの!」
「壊れてるじゃん」
……言っちゃってるし。
「……どこが?」
それはね?
「入っていけばいい生徒会室に外で待ってるところ。凌ちゃんと顔合わせられないんだろー?」
そういうこと。
だけど言っちゃうの!?
ほらほら。今日は挨拶少ないよ? 他の人たちに険悪ムード伝わってるんだって……。顔、見てないから知らないけど……。
「…………」
千晶も黙っちゃったね。
あ、部長さん発見! 七海ちゃんが生徒会長になって部長に返り咲き。やっぱり七海ちゃんよりしっくり来るよね?
ボランティア部。これは桜子先輩の置き土産。
『学園内の騒動を未然に防止する部』は蓼学の伝説になっちゃって。
……懐かしいなー。
その後を引き継ぐ形で出来たのがボランティア部。ボランティア部として成立したから、学園外での活動も可能になって、憂も私も家に着くまで守って貰っちゃってたり。
あの豪雨災害の復興に大きな力になったって、表彰されてたし……。
「……卒業までには」
え!? 「それホント!?」
「千穂が起動したー!」
「え!? そこなの!? ツッコミどころ違うでしょ!?」
「あたしゃボケ担当だから!」
「……こいつっ!」
「――こくはく」
……え!?
「――する――の?」
憂……。聞いてたんだ。
「……いちばんびっくりした」
「わたしも。奇遇だね」
「――うまく――いくよ?」
足を止めて振り向いてにっこり。
「…………」
「…………」
あはは! 佳穂も千晶も見惚れちゃったね!
「――佳穂――も」
え!?
「勇太に――こくはく――す「ちょちょちょちょ!! ちょっと待って!! せめて千穂んちまで待って!?」
あー……。そう言えば、何ヶ月か前に話してあげたよね。覚えてたんだ……。
私の予想なんだけどね。
佳穂に待ってるって宣言した勇太くんは本当に待ってる。
佳穂は自然に失恋しちゃったんだけどね。私と憂がよりを戻したから。
待つ必要が無くなった佳穂はフリーな状態で……。たぶん、タイミングを図ってる。図ってるばっかりで時間経っちゃったけどね。
「……って! お前かー! 千穂ぉー!」
……なんて白状をしたら佳穂が怒り出しました。
家に上げなきゃ良かった。
「千穂? 憂ちゃんに吹き込んだの? わたしのことも」
だって。話したいじゃない?
親友たちの恋愛事情だよ? 憂も一生懸命聞いてくれたし……。
「千穂? 着替えてないで答えて?」
「憂ちゃん戻ってくるまで喋らないつもりかー?」
自分の家で制服のままとか変だよね?
だから無視。無視して着替えちゃう。
「千晶?」
「佳穂?」
……何かな?
「よっしゃ! 荒らすぞー!」
「佳穂はタンスね。わたしは押入れ」
えっ? え!?
佳穂は指示通りにタンスに。千晶は押入れに……。
「ちょっと! やめて! 佳穂!」
なんでその棚開けるの!? 小さい引き出しは普通、そうだよね!?
「お。千穂がセクシースタイルで襲ってる」
「パンツ丸出し」
「着替えてたの!」
「知ってた。ん? 古い箱発見」
押入れをゴソゴソしてる千晶は……。
「あー! そのダンボールはダメー!!」
それには愛さんのアイテムが!!
「さー! 千穂の最近のパンツの傾向はどんなだー?」
あっちもこっちも!
「もう! ごめん! 悪かったから許して!」
「なんか発見! これは……日記!」
「もう嫌ぁー!」
ぴんぽーん。
「あ。憂ちゃんだ」
「着替え終わったんだね」
「はいはーい」
「ちょ……っと! 待って!!」
とんとんとんって階段降りてく佳穂。
私、まだ着替えてない!!
「千穂。はよう着替えろ」
「誰のせいですか!」
「わたしたちの恋愛事情をぺらぺらぺらぺら話す千穂に問題はないと?」
「……憂に言っただけだよ?」
「その憂ちゃんが話しちゃうから問題なんでしょ! わたしのはバレてるからともかく、佳穂のはそっとしといてあげて」
「はい……」
……怒られた。
でも、話したくなるよね?
「佳穂――でてきて――びっくり――」
「話が……あったから……」
「はなし――?」
あ……。そっか。あんな公然の場所で言われたら困るよね。
憂の声って、聞き耳立てられてるだろうし……。
「……なんでもない。そんな話……だぞー?」
私のベッドを背もたれにして、3人並んでの会話。足の長さが長い、短い、短い……。
「――そう?」
「そ」
千晶は私の勉強机で……。
「ふふっ……」
笑った! ちょっと怖い!
「……なにしてんだー?」
佳穂が立ち上がって……。その最中に突き出たお尻。佳穂ってスタイルいいなぁ……。うらやましい。
「ん? これ」
「んー? あ、これって……」
……?
「そ。千穂の日記。懐かしい話がいっぱいで面白いよ」
日記!?
「ちょっと! 信じられない!!」
「いいじゃない。読ませてよ」
「良くないですっ!!」
ガンガンポイント増えて、ランキングがガンガン上がったら、ガンガン書くかもしれません。
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