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3-14 きらきらとひらひら

**


 二日間はあっという間に過ぎた。


「あの……これ……」


 ナオは遠慮がちに声をあげる。

 彼女の自由は今、許されていない。腕をぴんと横にのばした姿勢のまま、身体を震わせながら耐えていた。

 いつまでこの時間が続くのであろうか。

 先の見えない恐怖から、ナオは不安げに瞳を揺らす。

 するとそれを吹き飛ばすかのような明るい声が一気に返ってきた。


「はいはーい、もうちょっと動かないでねー」

「やーん、とっても可愛いわー!」

「そうねー、髪が短いぶんできる髪型も限られてくるわね。もうちょっと編み込みを増やして、お花の飾りとか散らしてみたらどう? やっぱり白い花かしら」

「はいはーい! ナオちゃんちょっとこっち向いて! ちょっと笑ってみて! 可愛いー!」


 今日も今日とてサキの屋敷に連れて来られてから、早数時間が経過しようとしている。

 ナオは待ち構えていた数人のお姉さんたちに好き放題弄ばれ、ほとんど生きた着せかえ人形と化していた。

 すっかり辟易としながらも、リクエストにはどうにか応えて笑ってみせる。その顔は若干ひきつっていたが、お姉さんたちにとってはどうでも良いようである。

 お姉さんたちはサキの助手だそうだ。

 皆一様にして服も化粧も個性に溢れており、一体どうやったらそう仕上がるのか見当もつかないほど作りこまれた髪型をしている。

 サキはというと、ナオの衣装を二日間徹夜して仕上げたことにより、ナオをこの部屋に通して間もなく昏倒した。時間はあまり残されていないため、今はサキの託した渾身の作品を試着している最中である。

 ナオが当初の踊り手の少女よりも予想を超えて小柄だったため、結局のところ一から作り直すことになったそうだ。その分各行程でサキのこだわりがどんどん組み込まれていき、かなりの手間暇がかけられることになったそうだ。

 この辺り、サキの惜しまれることのない衣装作りへの情熱を十二分に感じることができるが、色々と自分で自分の首を絞めるタイプのクリエイターのようだ。おそらく量産には向かない。


 ナオの色素が薄い茶髪は、左横の髪をちょこんと結んだ普段の髪型に加え、綺麗な編み込みや毛束の三つ編みが加えられており、さらにたくさんの白い花飾りが次々と着けられていく。

 小さな白い花飾りはとても可愛らしかったのだが、あまりにも次から次へと乗せられるので、このまま頭が埋まってしまうのではないかと恐怖を覚えるほどだった。

 最初はナオがいつも使っている赤い球状の飾りが括り付けられたヘアゴムを外し、別のヘアアレンジを施そうとしていたお姉さんたちだったが、ナオはそれを拒否した。大量の髪飾りをいそいそと出してきたお姉さんたちが少し拗ねてしまったものの、幸いナオのヘアゴムは赤色なので、衣装ともよく馴染んでいる。

 妥協策として、二つある赤い飾りに、それぞれ白い花びらを持つ花をつけた。花弁以外のパーツは取り除いてしまったが、白い花の中心に赤い実が生っているように仕上がった。

 さらに半透明の綺麗なレースをちょうちょ結びにし、ちょこんと髪にあしらう。まるで髪に咲いた花に蝶がとまっているようで、動くたびにゆらゆらと揺れる様もまた可愛らしい。

 腰のリボンを結ぶと、お姉さんは満足そうに拍子を打つ。


「うーん完璧! これで本番もばっちりね!」

「ふ、ふぇえええ……」


 太陽のように輝かんばかりの笑顔を向けてくるが、対するナオはもはや疲労困憊である。今すぐにでもふにゃりとドレッサーに突っ伏してしまいたいが、お姉さんたちの力作を崩すわけにはいかない。また同じ時間が繰り返されるのはごめん被る。

 仕方なく立ち尽くしたまま姿見を見やると、ナオは思わず目を輝かせた。


「うわぁ……!」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 それはサキの言葉通り、肩や手足、腹まで露出されたものであったが、とても美しい衣装だった。

 胸元を隠すチューブトップのようなトップスは鮮やかな赤色で、フリルがふんだんに使われている。ピンクの大粒の宝石のような飾りと大きなリボンが、未成年のあどけない可愛らしさを演出しているようだ。

 見る角度によって絶妙に色を変えるスカートやリボンは、光源を淡く反射して輝いており、揺れ動くたびに美しく視界を彩る。

 左手首の精霊石は、ナオのものは赤色なので、隠さずに見せることにした。腕に貼り付いた金色の腕輪に合わせて、金色のアクセサリーを選ぶことにする。

 赤い滴型の飾りのついた髪飾りは、ナオの小さな額の上できらきらと輝く。思わずくるりとその場で一回転してみせたナオに、お姉さんたちの歓声があがる。

 両手の中指にそれぞれ嵌めた指輪に先端をちょうちょ結びで括り付けられた、淡い色のリボン。十分な長さがあるものの、一本に繋がっているので、日常生活を送るには不便そうという印象だった。

 本番では手足を大きく動かして、薄暗い中で舞う。それに合わせて踊るこのリボンは、僅かな光源の中で映える素材を厳選し作り上げた自慢の一品なんだそうだ。

 もはやサキやこのお姉さんたちにとっては収穫祭よりも、衣装に対する情熱の方がすごいものだと畏怖の念を抱き始めたナオだった。実際、やたらと装飾品の多いこの衣装は驚くほどナオの身体にぴったりだった。

 一昨日の念入りな採寸はこのためだったのかと気付いた時、尊敬を通り越していろんな意味で恐ろしかった。例えば部屋に入るなりいきなり身ぐるみ全部はがされたことだったりとか、体に穴が空くかと思うほど凝視されたりとか。色々と。

 回想に浸り、ぴくぴくと頬をひきつらせていたナオの背に、お姉さんたちの弾んだ声が投げられた。


「後はお化粧もリハーサルして、他の踊り手と最終調整をするだけよっ。衣装を着るのとそうでないのとでは感覚が違うかもしれないから、一回通しで練習したほうがいいわね。大丈夫よ、崩れたらすぐに直すから」

「く、崩さないようにがんばります……」


 またドレッサーの前に何時間も縛りつけられるのは嫌だ。


 全力で辞退する姿勢を示したナオに、お姉さんたちは残念そうに唇を尖らせる。


 それよりも、まだ化粧もあるのか。


 心の中でそう呟くと、げんなりと肩を落とすナオだった。

 ナオだって女の子だ。綺麗な衣装には心が躍るし、今までほとんどしたことがないお化粧にも、本当はとても興味があった。ここまでくればお姉さんたちがどう仕上げてくれるのか楽しみにして頑張るしかない。そう腹をくくった。

 その時、部屋の扉が数回ノックされる音が響いた。


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