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1-5 手首の枷


「いいかいシルキ。彼らは確かに私にも子供に見える。でも彼らは政府の派遣してきた戦力、スピリストとして間違いなく“能力”を持っているよ」

「何でそんなことが言えるんだよ!」


 シルキはすかさず言い返した。相当なまでに苛立っているようだ。

 彼らの声がやけに辺りに響く。まるでこの場にいる人々皆に聞かせるかのようで、人々も彼らに目を向ける。

 町長は片手を持ち上げると、ケイをすっと指さした。


「彼の右手を見てみなさい」


 シルキは鬱陶しそうにしつつも、言われた通りケイに目を向けた。

 ケイの右腕、その手首に装飾具を身につけている。

 太い金色のブレスレットのようなものが、太陽光を反射してキラキラと輝いている。ケイが腕を動かしてもずれる様子のないそれは、ぴったりと手首に密着している。

 手の甲側には手首の幅に満たないほどの直径の青い飾り石があった。こちらもキラキラと輝き、とても綺麗だ。


 シルキは訝しげに眉を寄せた。


「アクセサリー? あれがなんだよ」

「あれは”精霊石”と呼ばれているスピリストの証だそうだ。私も見るのは初めてだが、あれを持っているなら疑うことはない。私も驚いているんだよ」

「…………」

「お前は帰りなさい。危ないから家から出てはいけないよ」


 シルキはばつが悪そうに口を歪めると、小さな肩に置かれた町長の手を払いのけた。それに町長は悲しげな顔をするが、シルキはぷいと目を逸らす。反論の言葉を探そうとしたのか口をもごもごさせたが、結局何も言わなかった。


「もういい。オレがなんとかする」


 祖父である町長の言うことには一応納得したのだろうか。拗ねたような横顔を見せながら踵を返すと、その場を立ち去ろうとする。

 町長が彼を止めようとするより早く、シルキはすぐに足を止める。すぐに振り返ると、彼は再びケイを睨みつけた。


「おい、スピリストとやら! お前らが何だろうがそんなの関係ない。これはこの町の問題だ、さっさと出て行け!」

「シルキ! 何を言うんだ……」


 町長の怒声が響き渡る。しかしシルキはそれを最後まで聞くことなく、あっかんべーをして走り去ってしまった。


「…………」


 その目まぐるしい光景を、ケイはただぽかんと口を開けた間抜けな表情のまま見守っていた。シルキのあまりの俊敏さに反論すら間に合わなかったのだ。

 町長が肩を大げさに上下させてため息をつく。彼の横顔からは疲れが全面に滲み出ている。


「……そうだ、確かにこれは俺達の町の問題だ、だけど……」


 人々のなかからひとつ、誰かの声があがる。それをきっかけにして、彼らはまた何かを口々に言い始めた。またしてもざわざわと騒がしくなる。

 そんな彼らを一瞥すると、ハルトはやれやれと言わんばかりに肩をすくめて一度拍子を打った。

 音に驚いたらしい人々がハルトに一斉に目を向ける。彼の手首にもケイと同じ金色のアクセサリーが密着している。


「さて、あとはオレらに任せてもらってもいいかな? とりあえず安全のためにそれぞれ家にいてくんない? 勝手に出歩かれて巻き込まれても迷惑なんだよね」

「なっ……」


 やたらと軽い物言いだった。最も早くそれに明らかな嫌悪を示したのは、先のリーダー格らしい体格のいい男だ。


「何を! お前らみたいなガキが……っ」

「やめなさいサトリ。皆も言うとおりにしなさい」

「町長!」


 男の怒声にも、町長は首を横に振ってみせる。そうして感情を殺したように静かに彼らを制した。


「政府の戦力という力、この町のためにはもうそれに頼るしかない」

「町長! でもシルキは……っ」

「さぁ君たち、こちらへ」


 町長はすっと一方向を示し、ケイたちについてくるよう促した。背後で怒鳴っている男の言うことはもう聞こえていないかのようだ。

 人々がますます狼狽える様子が伝わってきたが、町長はそのまま踵を返した。そうして一様にして訝しげな顔をしているケイたち三人に対し、町長は弱々しく笑う。どこか自嘲的にも取れる笑みだった。


「……ああ」


 ケイは小さく頷いた。そのまま彼らは町長について足早にその場を後にする。

 背後に立ち尽くしていた人々が、特に討伐隊リーダー格、サトリが。そのやり場のない感情を込めた拳をぎゅっと握りしめていたことに気付いていたが、ケイは見ない振りを貫いた。



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