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2-17 ポルターガイスト


「ちょちょ、ナオやめろ! それマジで当たったらシャレになんないって!」

「そんなこと言ったってぇーっ!」

「うわ!」


 一つの火だるま椅子が、ハルトの右側から迫る。避けきれないと判断した彼は、反射的に手にしていた剣で弾き返した。椅子は巨大なモニターに轟音をあげて衝突し、火花が上がる。


「やばっ」


 その光景に、ハルトはぎょっと目を見開く。そのとき、手から剣が零れ落ち、ガランと音をあげて床を滑った。

 右腕が感電したかのように痺れている。右肩から先に全く力が入らないのだ。


「……う」


 まただ。ハルトはたまらず右肩を左手で庇うと、唇を噛みしめた。左手に握りしめたままだった何かの資料に皺が寄る。

 浮遊する椅子に触れると、電流が走ったようにしばらくの間麻痺してしまう。剣で触れても同じようだ。おまけに攻撃能力に特化している『火』の能力者の炎を纏っていたせいもあり、床に転がる剣は刃の大部分がダメージを受け、欠損してしまっている。素手で触れていたらどうなっていたことかと内心青ざめたハルトだったが、こうなればもう仕方がない。ハルトの意思一つで、使い道を失った剣は霧散した。

 ナオがハルトに駆け寄る。


「ハルト、だいじょうぶっ?」

「ああ。飛んでくる椅子、こうなるみたいだから触んない方がいいよ。ていうかここ、ほんとどこから電気来てるんだろ?」

「外の風車は……」

「あれはたぶん違うよ。使われなくなってる発電所なんだから、風車そのものだけ残ってるんじゃないかな」

「そ、そうだよね。なら……調べないと」


 ナオは未だ火花をあげているモニターをきゅっと睨みつける。機械的な音が幾重にも聞こえてくると、数字が書かれたいくつものメーターが踊るように振りだす。

 代わりのように、ノイズが少し弱まった。

 ぴり、と肌を刺すような刺激が走る。身体が静電気に包まれたような感覚に、ナオは眉を潜めた。


「この部屋、なんか全部に電気が走ってるような感じ……ぴりぴりするよ」

「……ようなじゃない気がするけどね。あのモニターみたいなのにも迂闊に触らないほうがいい」


 ハルトは静かに言うと、少し感覚の戻った右手を握ったり開いたりしている。握らなくてもある程度は操ることができるものの、剣を扱う自身の能力だ、利き腕を封じられるような事態はなるべくなら避けたいところだった。最大限の警戒が、彼をより慎重にさせていた。

 その時、砂嵐だけだったモニターが、荒い音をあげて一瞬何かを映し出した。


「えっ!?」

「今の……ケイとランか?」


 ナオとハルトは画面を睨みつけると、揃って目を見開いた。

 砂嵐の合間には、確かに二人の少年の姿が映っていた。映像は鮮明ではなかったが、特徴的にもケイとランで間違いないだろう。

 応えるように、再び砂嵐が歪み同じ映像が映し出される。数回画面が暗転したあと、今度はもう少しはっきりと光景を映し出す。俯瞰の視点から見た二人の少年の回りには、ぼうぼうに生えた草や古びた瓦礫がぼんやりと映し出されている。


「これ……外か? なんでだろう、あいつら」

「よしハルト、二人を追いかけて外に出よう!」

「それお前が出たいだけだろ」

「ふにゅっ」


 ハルトが容赦ない突っ込みを返すと、ナオは口をすぼめて眉尻を下げた。彼女の考えていることなど手に取るように分かる。ハルトはやれやれと息を吐いた。


「大体こんな怪しい映像を見てハイそうですかと信用できないでしょ。本当に外にいるかなんて、それどころかあいつらが一緒にいるのかさえ分からない」

「……仰る通りです」

「それにこんなのオレらに見せてきたってことは、オレらもケイたちも、ここにいる誰かにはもうしっかり把握されてるってことだろ。だったら別行動の意味はもうないよ。とりあえずケイと合流が先だ」

「そ、そうだね」


 ナオは大げさに首を振って頷いた。挙動不審なのは変わらないが、ハルトの判断に何一つ異論はない。

 ハルトは何かの資料の束を今一度見やると、少し皺になったそれをさっと伸ばす。揃えて手早く荷物に押し込むと、辺りを警戒しながら発動を強めた。


「……あれ?」

「ハルト?」


 ふと、ハルトは動きを止めて静かな声をあげる。ナオは訝しげに彼を振り返った。

 ハルトは表情を引き締めたまま、ナオについてこいと目配せをする。ナオが頷いたのを確認すると、彼は巨大なモニターに背を向けて部屋を出た。


「なんか、急に気配が分かりやすくなった。ケイとランはまだ一緒にいるみたいだよ」

「ほえ、そうなの?」


 ナオは目を瞬かせた。彼女の周りに小さな火がちらつくと、次いでぱっと目を見開く。

 既知の気配がふたつ、動いている。ケイとランだ。ハルトの言う通り、先ほどまではいくら探ってもぼやけた感じがしていたのに、驚くほどはっきりと感じられた。


「もしかして、二人とも近くにいる?」


 ナオが高く澄んだ声を上げた。それにハルトは唇を吊り上げてみせると、元来た廊下を逆戻りする。

 しん、と静まり返った暗い廊下に、どこからか小さな足音が聞こえた気がする。相変わらず肌に電気が走るようにちくちくと刺される感じがするが、ハルトは構わずに歩いていく。

 やがて廊下が枝分かれした所まで戻ってくると、今度は泥汚れが目立つ方、ケイとランが向かったであろう先へと進んでいく。ほどなくしてまたいくつかの扉が見えてきた。今度は大仰な自動扉ではなく簡素なものだったが、そのうちのひとつの前まで来ると、ハルトはぐっとドアノブを握りしめ、勢いよく開いた。




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