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9-26 手のひらの上 


***


 携帯電話の画面展開で表示された地図を見て、次の目的地を今一度確認する。

『サクラ』の町を中心として、狂い咲きがあった箇所に印がつけられている。現在地はその南東に位置する一箇所であり、ちょうどその真反対、北西の方向には印がない。次に何かが起こるならばこの場所かもしれないと考えている三人だったが、所詮は憶測にすぎなかった。しかし今現在、政府からの明確な場所の指示もなく、結局は行って確かめてみる他よりなかった。

 地図を拡大してみると、そこは『サクラ』の町をさらに越えた対角線上にあった。町から離れて良いものかと一応政府に確認をしてみたものの、離れすぎなければ問題ないとのことだった。

 結果としてまたしても元来た道を引き返さなければならなくなったわけだが、件の魔力石が置かれていた桜の木のそばも通ることになるため、彼らが持つ魔力石だけでなく能力の発動もまた解除しなければならない。索敵能力が落ちる上無防備になってしまうため、三人で相談し迂回することにした。

 辺りを注意深く警戒しながらも、遠回りになってしまうぶん自然と早足になる。

 魔力探知機は特に目立った反応はない。怪しい魔力石は今のところ他にはなさそうだった。そう気軽に鎮座していてはたまったものではないが、ひとまずは発動を解かずに済みそうだった。

 しかし何かまた別の嫌な気配がして、ハルトは時折後ろ髪を引かれるかのように立ち止まって振り返る。何度か彼が立ち止まったとき、スゥが怪訝そうに問いかけた。


「どうかしたのか?」

「いや……」


 否定しながらも、ハルトは顔をしかめて後方を睨む。彼の横顔と後方を交互に見るスゥだったが、特に何も見当たらない上に気配もない。


「なんか気持ち悪いんだけど……さっきまでとは何か違うっていうか。でもわかんないんだ」

「まぁ道も違うが……気持ち悪いとは?」

「それが言い表せないから気持ち悪いんだってば。なんかこう、全体的に」


 ハルトは首を捻って唸る。続いて頭を抱える彼を見て、ケイとスゥはますます怪訝そうな顔を見合わせた。


「ねぇ、地属性の能力ってどんなのがあるっけ。どれも強力なんだよね?」

「ん?」


 ぱっと顔を上げたかと思うと、ハルトから唐突な質問が飛び出す。思わず片眉を跳ね上げたスゥだったが、すらすらと答えた。


「『大地』を筆頭に、『砂』などの土と地を操る能力、『草木』『花』といった植物を操る能力、『岩石』といった鉱石……石や岩を操る能力がある。ユキヤさんも言っていた通り、能力者自身が地上にいることが多いぶん攻撃範囲が広く、環境の恩恵を受けやすい」

「鉱石……」


 ケイは思わず小さな声で反復すると、身体を強ばらせた。ナオを襲ったスピリスト、紫水晶(アメシスト)と呼ばれていた少女が地属性である『水晶』の能力者だったからだ。


「うん、そうだよね」


 ケイの様子を気にしたそぶりもなく、ハルトは考え込むような仕草をみせた。


「植物系の能力も地属性なんだよね。なんか、例えば草属性みたいに別に独立したもののように思ってた。『水』と『氷』は何となく同じ属性って分かっても、『草木』と『岩石』なんて扱うものが全然違うじゃん」

「確かに。まぁ、そもそも能力というのは同じ属性の中で派生していくものだからな。同じ能力でも攻撃を得意としていたり、そうでなかったりと個人差がある。スピリストでもそうなのだから、属性を複数持つことができる精霊の力はもっと多岐にわたる」

「確かに」


 ハルトとケイが同時に頷いた。

 二人が脳裏に描いたのは、同じ『水』の能力を持つユウナとランだ。攻撃を得意とするランと比較するとユウナは劣っていたが、彼女は攻撃以外にも使える力を持っていたようだった。


「…………」


 ハルトは視線を下に向ける。

 彼らが立っているのは柔らかな土の上だ。落ち葉が少しずつ増えているようで、土を擦る音と同時にかさかさと軽い音が鳴る。


「ねぇスゥ、変な音はしない? なんかやっぱり変な感じがするんだけど」

「いや、特にない」


 スゥは念のため、地面に手を触れて音を聞いてみるが首を横に振る。そのまま彼は顔を上げてケイの顔を見るが、ケイは魔力探知機をスゥに見せてこちらも首を横に振った。


「ね、オレにもそれ見せて」


 ハルトが魔力探知機を指さして言う。ケイがそれを手渡すと、ハルトはじっと画面を見つめる。


「これもさ、反応はあるのに追跡できるわけじゃないし、どこ行っても誤差の範囲の変化しかないでしょ。それってつまり、ずーっと地属性の魔力の中にいるってことじゃないかと思って。いや中ってか上かな」


 魔力探知機をケイに返すと、ハルトは地面を指さす。


「大地は繋がってるってつまり、地面の上にいる限り相手にバレバレなんじゃないの?」

「どういうことだ?」

「どこでその魔力石を使っても一緒な気がするってこと」

「……なるほど」


 スゥは口元に手を当てる。携帯電話を立ち上げると、周囲の地図を再び確認する。

 地図上に表示された赤い印。それを繋ぐと歪だが円になる。現在地を確認すると、まだその円の範囲内にいる。


「この範囲(なか)にいる限り、文字通り何かの手の上というわけか」


 そう静かに呟いて、スゥは携帯電話を仕舞う。

 代わりに魔力石を一組取り出した。スゥ自身が発動をしているわけではないが、相変わらずごく淡い魔力の光と甘い香りを纏っている。

 両手に赤と青、それぞれの石を持つ。石を交互に見ると、スゥはやや躊躇う様子を見せた。音を探るために発動を続けており、彼の精霊石も光り続けている。この上に魔力石の発動を強めるには、よりコントロールに集中と技術を要する。

 そんなスゥの横顔をじっと見ていたケイは、意を決したようにゆっくりと口を開いた。


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