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9-23 次に向かう場所


「索敵するにしてもチヒロみたいな『草木』でないと厳しいな。それかもっと決定打のある攻撃特化の能力であれば。いずれにせよおれたちでは力不足だ」

「……ナオやユウナみたいな能力か」


 不満げなスゥの顔を見ながら、ケイはそう呟く。そのまま俯いてしまった彼を見て、スゥはさらに眉間に皺を寄せた。

 ケイに何かを言おうとしたスゥだったが、それよりも早くハルトが口を開く。


「そう思うとオレらの中じゃ女子のが強いんだよなぁ。ナオが怪我してなきゃよかったのにね、『火』だし」

「…………」


 やれやれと肩をすくめるハルトに、スゥはそのまま言葉を飲み込む。

 ケイは己の右手首を見た。ライトブルーの精霊石を見つめながら、彼は無意識に呟いていた。


「……良かった、怪我してて」

「え? なんか言った?」

「え、いやなんでもない」


 きょとんとした様子のハルトに、ケイは慌てて首を横に振った。

 ケイは口元に手を当てて俯く。ハルトに内容を聞かれずに済んだようだが、ケイ自身もこぼれ落ちた言葉に驚いていた。


「……いや、すまない。今ここにいない者をどうこう言っても仕方なかったな。おれたちにできることをしよう」


 気を取り直してと、スゥは再び目の前のスクリーンを指さす。地図上の印のうち三カ所を順に示した。


「×は全部で六ヶ所。うち精霊の姿が確認されたのはさっきの精霊を含めて三ヶ所だそうだ」

「……その三カ所の精霊は」

「全員火に包まれて消えたそうだ」

「そんなに……」

「彼らはそれぞれの場所に住んでいた地属性の精霊だそうだ。そして、いずれも火属性は持っていない」


 スゥは眉をひそめる。携帯電話を操作すると、地図とは別のスクリーンが目の前に投影された。

 そこには三枚の写真が映し出されていた。それぞれの写真には一体ずつ精霊が写っている。見た目の年齢や性別はそれぞれ違うものの、彼らは皆その背に昆虫のような翅を持っていた。狂い咲きといい火といい、関連を疑うには十分すぎる。


「残りの三カ所では精霊の姿は確認されていないが山火事が起きている。そしていずれの場所でも地属性の気配が消えていないらしい。そこで、すぐに思いつく選択肢は二つだ。一、すでにことがあった場所に行ってみるか、二、新たに狂い咲きが起こりそうな場所に行ってみるか」


 スゥは指を二本立てると、ケイとハルトを交互に見た。それにハルトはげんなりと顔をしかめる。


「ええ……どっちも確証ないじゃん。最悪何も得るものないかも」

「それどころかどちらを選んでも最悪死ぬからな」

「それは嫌なんだけど」

「そうだな。だから身の危険を感じたら即時撤退する、それだけは約束してくれ」


 強い口調だった。ハルトは一度目を丸くするが、すぐに意味深に目を細めた。


「それはお前も一緒にってことでいいよね?」

「……わかっている」


 スゥは頷く。少し間があったのが引っかかったハルトだったが、突っ込むのはやめておいた。


「ケイ、お前はどうだ……」

「ああ、それでいい」


 食い気味の返答だった。そんなケイにスゥは一度きょとんとした顔をするが、すぐに頷いた。

 携帯電話を操作し、投影されていたスクリーンを閉じる。携帯電話を再び荷物に押し込むと、スゥは顔を上げた。

 三人はそれぞれ顔を見合わせた。


「それで。お前らは一と二どっちを選ぶ?」

「うーん。せーのでみんなで答えよっか」

「なんだそれ……。まぁいい、この際多数決でいいだろう」

「はいはい。じゃ、せーの」

「一!」


 三人の声がきれいに重なった。いずれも迷いがない様子で、スゥが意外そうな顔をする。


「……なんだ、揃ったな」

「そっちのが何か反応する可能性が高いかもしれないじゃん。さっきの公園も含まれているし単純に近いでしょ」

「それに二の場合でもすぐに周りに危害が及ぶわけじゃなさそうだろ。この町だってしばらくは桜が咲き続けていただけだって言ってたし」


 ハルトに続いてケイが口を開く。スゥも概ね彼らの意見に同意だった。魔力石の入った袋を握りしめると、彼らは再び歩き始める。


「それじゃあ行くか」


 向かうのはやはり、事件があった現場で一番近場かつ直近である場所。精霊サクラのいた公園だ。

 それほど距離がないのですぐに着くはずだ。しばらく道なりに進むと、地面が所々凍っているのが目に入る。ケイの能力で傷つけられた木々は再生したものの、地面の氷はそのまま残っていた。


「……スゥ。もう一回同じことやってみるか?」

「必要ない、同じことが起こるだけだ」


 神妙な面もちでそう言ったケイを、スゥは一蹴した。

 頭上に続く桜の風景が全く変わらないのだ。スゥの言う通り、冷気で攻撃してもおそらくまた瞬時に植物が再生するだけだろう。


「でも、違う場所に移動したって可能性も」

「あるとしても目的地は皆で決めただろう。ひとまずさっきの公園で何もなければ考えよう」


またしてもぴしゃりと言い切られる。ケイももう何も言い返さなかった。


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