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9-20 解析

*


 寂れた公園とはいえ、町の一部が燃えたことはすでに町の人々に知れ渡っており、人々は騒然としていた。

 これまで火属性の精霊と縁がなかったであろう町で巨大な火柱が上がったのだ。政府支部の職員たちは調査に来たスピリストの能力であると誤魔化して鎮静を試みていたが時間がかかりそうだった。

 屋内へと避難するように呼びかけられ、一人また一人と人が消えていくと、徐々に喧騒は収まっていく。

 戸惑う人々の間を器用にすり抜けながら、ケイたち三人は政府支部へとたどり着いた。


「お待ちしていました」


 扉を開けるとすぐ、先ほど対応してくれた女性職員が出迎えてくれた。

 手早く通されたのは奥の部屋だった。テーブルの上には一台のパソコンと、魔力探知機によく似た何かの機材が置いてある。

 促されるまま三人並んで席に着くと、女性職員はその向かいに座る。


「捕獲装置をお預かりします」


 向かい合うやいなや、女性職員はスゥに向かって手を出した。


「あ、はい。捕獲は失敗しましたが……」


 勢いに押されつつも、スゥは装置を女性職員に渡した。装置を受け取ると、女性職員はテーブルに置いてある機材へ繋いで操作し始める。


「構いません。お預かりするよう指示されていますので」

「指示……?」

「はい。研究室長ユキヤ様、あなたの上司ですよ」

「な……」


 あんぐり口を開けるスゥをよそに、女性職員は作業を続けている。電子音が響くと捕獲装置を取り外した。ついでにケイからも魔力探知機を回収し、また機材に繋いでパソコンを操作する。電子音とともに機材から離すと、魔力探知機だけをスゥに返した。


「これらの装置には魔力石を使用しています。本来の目的を邪魔しないよう作られていますが、その性質上辿った魔力、霊力を少しだけ記録することができます」

「ああ……なるほど」


 スゥは頷くと魔力探知器を受け取る。ひとまずテーブルの端に置くが、画面を見て眉をひそめた。

 確かに捕獲装置も魔力探知機も強い霊力に晒された。ほんの僅かかもしれないが、研究室の設備なら詳しく解析することだって可能なのだ。精霊の捕獲は叶わなかったとしても、少しでも情報を得ることができれば大きな収穫である。


「なんで室長が出てくる……って決まってるか」

「はい。この捕獲任務は研究室の任務でもありますので、むしろユキヤ様には関わる義務があります」

「はい。それで、おれたちはこれからどうしたらいいんですか」


 女性職員から新しい捕獲装置を差し出された。スゥはそれを受け取ると荷物に仕舞う。


「任務続行です。まだ気配は消えていません」


 女性職員は魔力探知機を指さす。スゥは黙ってそちらに視線を落とした。

 魔力探知機はいまだ弱い反応を示している。属性は地だ。

 それはこの町に初めて来たときと同じ状態に戻っている。静かで広くて、一定の気配だ。


「精霊サクラは確かにおれたちの目の前で消えた。少なくともそのように見えましたが」

「消えていません。解析しましたが、これは精霊サクラの霊力で間違いありません」

「……そうですか」


 スゥは頷く。探知器を見たときに考えていた可能性だが、はっきりと告げられたことに内心胸を撫で下ろしていた。

 精霊サクラは、まだ生きている。


「酷似している別の精霊の可能性もありますが、おそらく間違いありません。この町にはこれまでサクラ以外の精霊の存在は確認されていませんので」


 女性職員は立ち上がる。話は終わりだと言外に告げられ、スゥも立ち上がった。


「しかしあなたはこれまで誰も捜し当てられなかった精霊にたどり着いた。引き続き調査をお願いします」

「おれたちの戦力じゃ不安があります。現にあの精霊は地と、火属性の霊力を持っていた。出会ったところでどうにかできると思えませんが」

「あくまで任務は調査と捕獲です。それに、あなたのそれは過小評価でしょう? 色違い」

「…………」


 女性職員が明らかにスゥを睥睨した。

 黙ったままのスゥの代わりに、それまで黙っていたケイは思わず怒りを露わにした。


「おい!」

「よせ。いいから行くぞ」


 スゥはケイを制すると、すぐに踵を返した。足早に建物の外に出ようとしたとき、彼はふと振り返った。

 三人を見送ろうとしていた女性職員は怪訝そうに首を傾ける。スゥは彼女に向かって言った。


「ひとつ調べてほしいことがあります。分かり次第またメールを送ってくれませんか」


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