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9-13 桜を探して


「––狂い咲き?」


 窓口に並んだケイたち三人は、息のあったタイミングで声を揃えた。

 そんな彼らに、パソコンを手早く操作していた女性職員が小さく頷く。


「はい。特にこの町の名前にもなっている木に咲く花は本来一年の間でわずかな期間しか咲かず、すぐに散ってしまいます。それが突然揃って蕾をつけたかと思うと、今はもう満開のまま一月ほど経ちました」

「え、一ヶ月も!?」

「普通の花でも長すぎるな……」

「ええ。そしてご存じかもしれませんが、これまでに調査に来たスピリストたちは未だ目立った成果をあげられていません」


 女性職員は淡々と告げる。

 どこの政府支部でも似たような職員が多いのだが、やはりロボットが対応しているのではないか、などと失礼なことを考えてしまうケイだった。


「狂い咲きは町全体に及んでいるんでしょうか」


 そう尋ねたのはスゥだった。女性職員はまた小さく頷く。


「はい。それほど大きな町ではありませんので」

「そうですか。では町周辺に何か精霊の気配はありますか?」

「町全体を覆うような、薄く広い気配があります。属性は地です」


 言うと、職員は小さな画面のついた丸い機材を取り出してスゥの前に差し出した。小振りな魔力石があしらわれた魔力探知器だ。どうやら貸し出してくれるらしい。画面上では何かの波動を示しているものの、微弱な反応だ。


「ねぇ、この気配の正体は分かってるの?」


 ひょっこりと身を乗り出して言ったのはハルトだった。彼の手首の精霊石は淡く光っている。すでに彼自身が辺りを探ろうとしている最中だった。

 女性職員は首肯した。


「はい、この町周辺には昔から地属性の精霊が住んでいますが、その霊力と一致しています。しかしこのような異変を引き起こせるほどの力はないはずだったのですが」


 女性職員がパソコンを手早く操作したかと思うと、すぐにスゥの携帯電話がメールの受信を告げる。添付されていたデータを開いてみると、一体の精霊の写真が表示される。

 ケイはハルトと一緒にスゥの手元を覗き見る。


「……女の子?」


 ハルトが呟く。

 少女の姿をした精霊だ。見た目はケイたちと同じくらいの年齢のようだった。

 彼女の姿を見て、三人は思わず目を合わせる。ぱっちりと大きな目をした愛らしい顔立ちの精霊だった。そしてその背にはピンク色の大きな蝶の翅がある。


「へー、可愛いじゃん。ぜひ会ってみたいね」

「…………」


 軽口をたたくハルトをよそに、ケイは黙り込む。隣を見ると、スゥも同様に険しい表情をしていた。


「それで、この子にはどこに行けば会えるの?」

「分かりません」

「へ?」

「彼女は今、行方が分からなくなっています。気配だけはこうして感知しているので、生きていることだけは確かです」

「ええ……。ってことは今までの調査じゃ誰も」

「見つけられていません」

「うーん」


 ハルトは腕を組んで唸った。上手く行けば手がかりになりそうだったが、期待はできなさそうだ。


「この子が急に力をつけたとか、他にも何か異変のきっかけみたいなものってあったりするの?」

「特にありません」

「そっかぁ……」


 ハルトは残念そうに口を尖らせた。そんな彼をよそに、スゥはさっさと踵を返した。まるで話は終わりだと言わんばかりだ。


「それも含め調査するしかあるまい。出るぞ」

「え、おう」

「へーい」


 スゥに続き、ケイとハルトも足早に建物を後にした。



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