9-12 北の町、サクラ
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数日間の移動を経て、ケイたち三人は目的の町にたどり着いていた。
空気がひんやりとしていて、思わず身体を縮こませる。暑い気候に慣れているので驚いたケイだったが、とても過ごしやすい。
そこは『サクラ』と言う名の、北の地方に位置する小さな町だ。
ケイたちの故郷を含む南の地方は平均気温が三十度を越える。対して、北の地方は十五度前後だという。半袖で過ごせないこともないが少し肌寒いくらいだ。移動の途中で上着を購入しておいたが、昼のうちは着なくて済みそうだ。
辺りには見たことがない木や花が辺りにたくさん生い茂っている代わりに、普段よく目にする植物たちはあまり存在しない。列車での道中は暇だったので景色を見て楽しんでいたのだが、近くで見るとより新鮮で、ハルトなど特に興味深そうに窓に貼り付いていた。
町を歩いていると、時折行き交う住人たちとすれ違う。金髪碧眼の人が多いようだ。太陽の光に照らされてきらきらとまばゆく見える。その風貌が珍しくて、思わず二度見をしてしまう三人だった。
南の地方はどちらかというと色素が濃い人が多い。ケイのような茶系の髪と目を持つ人が最多数だ。そのためハルトの金髪はいつもよく目立つのだが、今は逆にケイや黒髪のスゥの方が目を引いている。見た目だけではなく、やけにゆっくりと辺りを観察しながら歩いている三人のことをすぐに余所者だと気付いたらしく、町の人々も彼らを横目で見やっていた。
最も、それは好奇の目とは言い難いほど険しいものであったが。
「……異様だな」
「だね」
低い声で呟いたケイに、ハルトが短く答える。
美しい花たちや青青と生い茂った木々が溢れる町並みは非常に美しい。
しかし、数が多すぎるのだ。
町中どこに行っても花という花が咲き乱れている。そのどれもが満開で、蕾や枯れ落ちた花弁が見当たらない。木々もまるで時が止まったかのように皆美しい姿で、青空に向かって大きく手をのばしている。
「朽ちることがない景色か、まるで造花だな。ここまで一律だと気味が悪い」
腕をさすりながら、スゥは顔をしかめて言った。フードつきの上着を着ようか迷っているらしく、手に持ったままだ。
町の人々は皆俯き気味で、木々や花たちを見ないようにしているようだった。どれほど美しかったとしても、全く景色が移り変わることがなければ不気味に思って当然だろう。皆早足にどこかへ立ち去って行く。
「…………」
歩きながら、スゥは携帯電話を取り出す。その画面には一体の精霊の写真が表示されていた。彼が見つめるその写真を、ケイは難しい表情をしながら盗み見る。
同時に、ケイは町に着いたときに立ち寄った政府支部の職員の話を思い出していた。
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