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スピリスト-精霊とよく似た異能力者たち-  作者: みぃな
8章 政府の町、ウィスタ
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8-5 知る権利




「おい、そこで何をしている」


 部屋を出て廊下を進み、最初の曲がり角を曲がったところで背後から低い声がかけられた。

 聞き覚えのない声である。顔をしかめながら振り返ると、見知らぬ白衣の男性が立っていた。研究員のひとりだろう。


「げ、人いたのかよ」


 ケイは小さな声で悪態をつく。研究員の眉がぴくりと跳ね上がると、早足で二人の前まで歩み寄ってきた。


「どこへ行くつもりだ」

「えー、トイレも行かせてくれないって言うの?」


 ハルトが嘯く。挑発的な上目遣いに、研究員の表情がさらに苛立ちを表す。


「ここは機密機関だ、部外者に無闇に出歩かれると迷惑なんだよ」

「おっと」


 腕を掴もうとのびてきた手を、ケイとハルトは左右に避けてみせた。勢いのままよろめいた研究員はバランスを立て直すと、二人を睨みつけた。

 研究員の右手首が白衣の下で輝く。彼もスピリストだ。


「まぁまぁ。そんなに怒らなくてもいいじゃないですか、先輩」


 そのとき、近づいてくる足音とともにまた別の声が聞こえてくる。実力行使に出ようとしていた研究員は発動を解くと、背後を振り返った。


「アランド……」


 声の主はアランドだった。彼はにこにこと笑いながらケイとハルトの隣で足を止めると、研究員と正面から向かい合う。


「彼らは俺が見てますよ。――ああそうだ、あっちのラボで先輩のことを呼んでいましたよ」


 その言葉とともに、アランドの目が妖しく細められる。

 納得がいかなさそうな顔をしていた研究員は突如として目を見開くと、今度は虚ろになった。


「ああ……わかった、すぐに行く」


 研究員は力なく頷くと踵を返す。先ほどとは打って変わって、危なげな足取りで立ち去って行った。

 あまりの豹変ぶりに茫然と彼の背中を見つめていたケイだったが、隣で腕を組むアランドを見上げると口を開く。


「……何のつもりだ?」

「きみたちこそ」


 アランドは唇を吊り上げて言う。何とも言えない彼の表情にユキヤと似たものを感じて、どうしても警戒してしまう。研究員というのはみんなこうなのだろうか。


「ねぇ、さっき一瞬だけ魔力を感じた。あの人に何かしたでしょ」

「ん?」


 アランドが振り向くと、こちらも睨みつけるような鋭い目をしているハルトが彼を見上げている。アランドは右手を上げた。


「へぇ、さすが兵器属性。気配には敏感だね」


 ハルトの目の前でひらつく右手には、長袖の下に精霊石があるのだろう。

 ユキヤよりはアランドの魔力は気配が察知しやすい。しかし、やはり分かりにくい。それが『幻』の能力の特徴なのだろうか。そもそも対象を己の魔力で包み込み、幻覚、幻惑攻撃をしかける能力だ。敏感に察知されていたら攻撃として成り立たないから、当然と言えば当然である。


「それよりきみたち、部屋を出たいんだろう? 俺と一緒にいればある程度は案内してあげられるけど、どうする?」


 にこやかに言うアランドに、ケイとハルトは目を見張る。


「どうって……あんた俺たちを見張りに来たんじゃないのかよ」

「むしろ連れ出しに来た。ユキヤさんに色々聞いてもはぐらかされただろう。そろそろ抜け出そうとしている頃だろうと思ったし」


 見事にお見通しだったというわけだ。

 あっけらかんと言うアランドに、今度は目を瞬かせるケイだった。


「だから一体なんでそんなことを」

「知る権利があると思うからだよ」

「権利?」

「だってそうだろう。きみたちはあのとき、政府のせいで意図せず厄介ごとに遭遇してしまった。なのに何も知らないままでいるのはあまりに理不尽だと思う」

「アランドさん……」

「ま、半分は意趣返しだけど」


 アランドは意地の悪い笑みを浮かべた。意趣返しとはおそらくユキヤにだ。わりと根に持つタイプらしい。


「あ、そう。そりゃありがたい……」


 小さな笑い声を漏らすアランドに、ケイは思わず恐怖を覚えた。彼についていくこともやや不安が残るものの、メリットの方が大きいので目を瞑ることにする。


「……まぁ、どうせ室長の想定内のことだろうけど。あの人には立場もあるから」


 ふと、アランドは笑みを消すと口元を触る。考え込むように俯くと、彼はぽつりと呟く。


「いやそうか、そうなると室長の思うつぼか。やっぱやめよかな」

「自分から言っといて!?」

「冗談だよ」


 ケイとハルトの突っ込みが綺麗に重なる。息の合った二人にアランドは思わず笑った。

 アランドは踵を返す。肩越しに振り返って手招きして、ケイたちを促した。


「ついておいで。俺に教えられることなら教えてあげるよ」


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