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スピリスト-精霊とよく似た異能力者たち-  作者: みぃな
6.火山の精霊、フレイア
151/258

6-30 合流


 轟音とともに噴火した火山を見て、フレイアは固まったまま動かない身体を叱咤し翼を広げた。


「……ヒイロッ!」

「あ、待てフレイア! 一人で……っ」


 ハルトの声を最後まで聞くことなく、フレイアは飛び去って行った。

 翼を持たないハルトが追い付けるはずもなく、彼女の姿はあっという間に見えなくなった。


「くそっ……」

「ハルト!」

「えっ!?」


 代わりのように、今度は甲高い声が背後から飛んで来た。ハルトが振り向くと、血相を変えて駆け寄ってくるナオの姿があった。

 彼女の腕の中には、汚れたぬいぐるみが抱えられている。それがすぐにヒイロのものだと気付いたハルトが口を開こうとしたとき、今度はまた別の声が飛んできた。


「ハルト、ナオ!」

「ケイ!?」


 振り向くと、ケイもまた別方向から走って来るのが見えた。さらに彼の後ろからは、暗い色の制服に身を包んだ大人が数人追いかけてきている。


 ――ようやく合流できた。


 驚き安堵しつつも、ハルトは大人たちを見て眉をひそめた。彼らがおそらく、この町の政府支部の職員たちだ。


「遅いよ、このくそ政府……」


 隠す気もなく彼らを睨みつけて毒づいたハルトを、職員たちは気に留めた様子もない。

 職員たちはケイたち三人をそれぞれ見やると、怪訝そうに顔をしかめる。迎えにきたはずのヒイロの姿がないことに気付いたのだ。

 ナオはぬいぐるみを強く抱きしめた。


「ハルト、ケイ、大変なの! ヒイロちゃんが……ヒイロちゃんが火の玉に捕まって連れて行かれちゃったっ」

「何だって!?」

「ここに来る途中で……ごめん、守れなかった。ごめんなさい……!」


 皆が息を呑む中、ナオはついに涙をこぼして顔を覆った。


「……状況はわかった。けど、今は泣いてる場合じゃないよ」


 絞り出したような声で謝罪を繰り返す彼女の肩に、ハルトは黙って手を置いた。


「フレイアがヒイロを追って飛んでいった。あいつはオレらの味方だ」


 すれ違いざまに、ハルトはそっと耳打ちする。その言葉に、ナオは指の下で目を大きく見開いた。職員たちには背を向けていたので、彼らにその顔は見られていない。


「――で、オレらはこれからどうしたらいいの。指示してもらえるんだろう?」


 一歩前に出ると、ハルトは明らかに挑発的な口調で言う。

 向かい合うハルトに、職員たちが明らかに顔を歪める。男性職員の一人が舌打ちをしていたが、それを制して一人の女性職員が静かに口を開いた。


「ここまでご苦労様でした。取り急ぎあの精霊にも対応できる力を持つ、『水』と『地』のスピリストを複数人呼び寄せています」


 女性職員の視線が少し上を向く。振り返って確認するまでもない、火山を見たのだろう。

 次いで、女性職員は横に並んだケイたち三人を順番に見やると、彼らに掌を向けた。


「この町の人々の避難誘導をした後、我々も避難します。あなた方も早急にこの町を離れてください。この町での任務は中止とします。後はそのスピリストたちに任せましょう」

「じゃあ、ヒイロちゃんとフレイアは?」


 間髪入れず、ナオが身を乗り出す。

 女性職員は事も無げに答えた。


「あの精霊は始末します。もちろん、他の火山の精霊たちも」


 三人は目を見開く。言葉を失うナオの代わりに答えたのはケイだった。


「やっぱり……あの火山にはフレイア以外にも精霊がいるのか」

「はい。と言っても、明確な自我を持つ精霊はフレイアだけでしたが。あの火山には、彼女が生まれる前から強大な精霊が存在したそうです」


 女性職員は小さく頷いた。


「あの火山が最後に噴火したのは二百三十年ほど前のことです。その際元は海底火山だったものが隆起し、現在の島の形になったそうです。その時、強力な霊力を持つ精霊が町に現れたと記録に残されています」


 女性職員に示されるまま、三人は火山を振り返る。噴煙が絶えず吹き出して、どんどん空を暗く染めていく。


「我々は長年に渡り火山の霊力を観察してきました。ですが活動しているのはフレイアだけ。彼女はどう考えても記録にあるような規模の精霊とは言えませんでした。ところが最近、フレイアと酷似した波動の、しかし別の精霊の霊力を僅かに関知するようになった。町に火の玉が出没し始めたのもそのころです」


 絶えず地面が揺れている。

 轟音とともに火口付近で爆発が起きる。まるで大規模な警笛のように。

 何も聞こえていないかのように話していた女性職員の口調が、僅かに早くなった。


「同時に、フレイアの霊力も高まっているようでした。温厚な精霊ですが、町に来る頻度が上がっていることも気になりましたし、彼女と火の玉がどういう関わりがあるのか、『彼女自身が知っているか』どうかを含めて聞き出してもらうこと。それがあなた方への任務でしたが、まさかこんなに早く噴火するとは。安全面を考慮したつもりでしたが、『火』のスピリストを含むあなた方へ命じたのは失敗だったようです。火は燃料を与えればより燃え上がる。お互いの魔力、霊力の干渉を受けやすい属性。結果としてフレイアの霊力も、微弱だった別の精霊の霊力も、あなたが町に来てからさらに高まってしまった。こちらの人選ミスですので、ここまでの報酬はきちんとお支払いします。後はお任せください」

「そんな、だから始末するって……! フレイアは町を守ろうとしてるんですよ!」

「今のあの火山は、とてつもなく危険な霊力の塊です」


 詰め寄ろうとしたナオを、女性職員はぴしゃりと跳ね退ける。ナオは思わず口を噤んだ。

 自身の魔力だけでなく、フレイアの霊力をも高め合ってしまったという事実を突きつけられて、ナオは胸が締め付けられる心地がした。

 彼らに応えるように大地がまた振動すると、火口から赤く光る溶岩が吹き出した。

 山頂から流れ下りる溶岩や火砕流の一部は、火山島の上空で盛り上がり、不気味な形を成した。まるで意志を持った何かが大きく手を広げているように見えて、それまで黙っていた職員たちも銘々に恐怖と焦りの色を示す。


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