6-29 悲しくも楽しげな行進曲
*
土が擦れる音が、一定の、ゆったりとしたリズムで刻まれる。
それに合わせて、歌うような、奏でるような、高い笑い声が幾重にも響いていた。
まるで本物の幽霊のように、飛び交う火の玉たちを纏うヒイロはひどく無表情だった。まばたきも忘れ、ただ前だけを見て、危なげな足取りで歩いている。
この町に残された最後の居場所、自室でさえも失った。そんなヒイロが向かう先はもう、校舎裏にある思い出の岬しか残されていない。
楽しげな笑い声はいつの間にか美しい旋律を刻んでいて、まるでパレードのように夢へと誘う。
フレイアと出会ってから、あの場所で色々な話をした。
フレイアにとってはただの暇つぶしだったかもしれないが、ヒイロにとってはかけがえのない、ただ一人の友人と過ごす時間だった。
青く輝く海と、その上に聳える火山がいつも、二人を見守っていた。
ヒイロは足を止める。足音とともに、歌声は止まる。
町の端。そこは崖になっており、すぐ下で海が大きく波打ち飛沫をあげた。
「おじいちゃんはこの場所を、とても神聖なところだと言っていた」
ぽつりと、ヒイロは呟く。
「本当は許された者以外、誰も近付いちゃいけないって。でもねおじいちゃん、友達に会いに行くことくらい私にも許して。これが最後にするから」
真紅の瞳が涙で揺れる。
怒れる火山を真っ直ぐにとらえると、揺れる火の玉たちが一層激しく踊る。
「今なら私もそっちへいけるかな? この背中に翼が生えるかな、フレイアみたいに」
ヒイロは顔を上げる。
灰色の空を見上げると、服と髪を大きく靡かせながら両手を広げた。
「――お願い、どうか迎えにきて。そうしたら私、ここから飛ぶわ!」
高らかな声が、幾重にも反響するようだった。
それに応えるように、唸り声のような轟音が響いて火山から真っ赤な溶岩が噴き出す。
天高く打ちあがったそれは、まるで何かが手を広げるようにゆっくりと、町を呑み込もうと迫ってきた。
降り注ぐ噴石も、火の玉たちに守られてヒイロには届かない。
涙に濡れた目をそっと細めて、ヒイロは怪しく笑った。
*




