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スピリスト-精霊とよく似た異能力者たち-  作者: みぃな
6.火山の精霊、フレイア
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6-23 炎の牙


「ま、まずい!」


 ハルトは地面を蹴ると大きく跳躍し、ケイと同じように建物の上へと飛び移る。直後、ハルトが立っていた場所を次々と人が走り抜けた。


「ハルト、携帯……」

「わかってる!」


 急かすケイを遮ると、ハルトは手早く政府支部へと電話をかける。


「状況は見ての通りだ! 町は恐慌状態にある。とにかく人を町の外に、安全な所まで避難させるべきだっ」


 ハルトは早口で叫ぶように言う。反対に、電話口からはあくまで淡々とした声が返ってくる。

 支部はすぐ近くにあるはずだが、たどり着くことはできなさそうだ。


「いや原因を調査中ってこっちはそれどころじゃ……火の対応しとけって、おいちょっと待てよ!」


 ハルトが声を荒げようとしたところで、一方的に通話は切られた。携帯電話から漏れる機械的な音が、喧噪と悲鳴の中に混じって響く。

 指示の内容をハルトに確認するまでもない。ケイは小さくため息を吐くと、きゅっと目をつり上げた。

 空を睨みつけると、ケイの精霊石が鋭く輝く。

 降り注ぐ火の玉を、できる限り迎え撃つためだ。


「くそ、せめて時間稼いでる間に一般人逃がすことくらいはしろよな政府っ」


 ハルトはポケットに携帯電話をねじ込むと、半ば自棄のように剣を構えた。

 文句を言いつつも、目の前のこの状況を見過ごすわけにはいかない。火の玉はもうかなり近くまで迫って来ていた。

 びりびりと痺れるような強力な霊力を感じて、ハルトは目を見開いた。


「この気配……やっぱりフレイアか!?」

「ああ。あいつと同じだ」


 ケイも短く答える。能力を発動した今、感じ取る気配はやはり既知のものだ。

 そう言いつつも、彼らが知るよりもよほど強大な力だった。フレイア自身も十分に強い霊力を持っていたが、その何倍も大きく感じられた。彼女がこんなにも強い力を隠していたとは考えにくい。何よりフレイアの姿はどこにも見当たらなかった。


「来るぞ、ハルト!」


 言って、ケイは一番始めに町へ降り立とうとしていた火の玉へと冷気の塊を投げつける。

 ジュウ、という短い音をあげて、火の玉は消え去る。熱を持つ火とは間逆のケイの能力は、お互いに相殺する形となる。

 今度はハルトが短剣を放つ。これもまた簡単に火を打ち消すと燃えて消え去った。

 火の玉一つ一つの力は大したことはないらしい。しかし、数が多すぎる。時間稼ぎになるのかすらも怪しいほどだ。

 また一つ火の玉を消し去る。しかしその隙に、いくつかの火の玉が彼らの横を通り過ぎた。


「くそ!」


 ケイは手の中に冷気を凝縮させると、槍状に固めた氷を手にする。それを横に薙ぐと、また火の玉を打ち消す。しかし、それでも追いつかない。

 氷の槍をすり抜けた火の玉は、あざ笑うかのように小刻みに揺れている。

 そして火の玉は、突如として弾けた。


「うわあっ!」


 それは小さな爆弾のようだった。至近距離で起きた爆発に、ケイはなすすべなく吹き飛ばされる。

 近くにあった商店の屋根に叩きつけられ、ケイは呻き声をあげつつもどうにか体勢を立て直した。


「ケイ、大丈夫か!?」

「ああ、なんとか……」


 ハルトが必死に火の玉をさばきながら叫ぶ。ケイは全身の打撲と軽い火傷を負った手の痛みに片目を瞑りながらも頷いた。

 爆発を受ける直前、咄嗟に冷気で身を守ったはずだった。あの小さな火の玉がこれほどの威力を持つ爆弾でもあるのなら、もはや太刀打ちすることは難しい。

 実際、彼らの近くでまた爆発音と悲鳴が上がる。追いつけなかった火が地面に着弾し、爆発を起こしていた。怪我をして地面に転がる人を見て、ケイは唇を噛みしめる。


「きりがない! オレらだけじゃどう考えても無理だっ」


 舌打ちすると、ハルトは頭上を通り抜けた火の玉に向かって短剣を投げつける。しかし火の玉は空中で旋回して剣を避けると、どこかへ飛んで行こうとする。


「何!?」


 その動きは明らかに随意のものだった。それに気付くと、ハルトは辺りを見渡す。

 空から放物線を描き、まっすぐに地に落ちるもの。そのまま消えてなくなるもの、そして爆発するもの。それのどれでもない一部の火の玉たちは、よく見ると一点に吸い寄せられるように動いていた。


「なんだ、どこかに向かってる……?」

「あれ……まさか、初等学校(アカデミー)の方か!?」


 目を細めたケイに、ハルトが一方向を指さして答える。

 ケイは愕然として息を詰まらせた。初等学校(アカデミー)にはヒイロをはじめとする一般の子供たちがまだ残っているのだ。手負いのナオ一人で守りきるには不安がある。

 そうでなければ良いと、一縷の祈りを込めてそちらを見つめる。しかし、やはり火の玉が進む方向は変わらない。

 それだけではない。初等学校(アカデミー)は海の近くに位置している。おそらく、町の中でもかなり火山に近い場所にあるはずだ。事実、ケイたちが今いる商店街と同様に、次々と火の玉が降り注いでいるのが見えた。

 ケイが思わず初等学校(アカデミー)へと取って返そうとしたとき、また彼らの真横に火の玉が着弾する。


「うわっ……くそ!」


 飛び散る破片や火の粉が、彼らをその場に拘束する。降り注ぐ火は今、この町全体に牙を向けているのだ。


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