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スピリスト-精霊とよく似た異能力者たち-  作者: みぃな
6.火山の精霊、フレイア
141/258

6-20 ここにいるから


**


 窓の外を遠く眺めながらハルトは携帯電話を耳に当て、手短に用件を伝えた。

 電話口の女性はしばし逡巡した様子だったものの、ハルトの提案には是と答えた。それにハルトはほっと目を細める。


「――よかった。了解です」


 短いやりとりを終えるとすぐに電話は切られた。ハルトは携帯電話の画面に表示されたボタンを軽くタップすると、踵を返して歩きだす。

 初等学校(アカデミー)の校舎内や学生寮の窓から見えた校庭は、子供たちの姿が徐々に少なくなってきている。親たちの迎えが来た者から順に帰宅していったのだろう。

 廊下を曲がるとすぐにケイとナオと目が合う。ハルトが電話から戻ってくるのを今か今かと待ちかまえていたらしい。

 二人がいたのはヒイロの自室の前。ヒイロの姿はそこにはなかった。

 ナオはハルトに駆け寄る。少し声を抑えて、彼女は期待と不安が入り交じった瞳でハルトを見上げた。


「ハルト、どうだった?」

「ヒイロを自室に置いておく許可が政府から出た。これでひとまず、根拠のないことで町の人にあれこれ言われなければいいんだけど」

「そっか」


 ナオはほっと胸をなで下ろす。ケイはヒイロの自室の扉にもたれながら、短く息を吐いていた。

 二人の表情を見て、ハルトは内心苦笑いを浮かべていた。

 結局のところ、三人それぞれがヒイロを必要以上に気にかけてしまっている。優先するのは任務だと分かっていても、そこに生まれる感情からは逃げ切れていないのだ。


「ヒイロちゃん、今はベッドに横になってるよ。よっぽど疲れてたみたい」

「そ。なら、ちょっとオレここを離れていい?」

「え、うん」


 ナオは首を傾げつつ頷いた。三人のうち誰かがヒイロから目を離さなければ、別行動も問題ないはずだ。ケイも二人を見やると、同じように頷く。


「ちょっとあの火山について調べにこの町の政府支部に行きたいんだ。すぐ戻ってくるから」

「うん、わかった」

「さんきゅ」


 短く答えると、ハルトはナオとケイを交互に見る。

 支部へは一人で行けばいいかと迷ったハルトだったが、今のヒイロ一人にケイとナオ、二人もスピリストをつけるとなると、それはそれでいらぬ憶測を呼ぶかもしれない。

 となると、この場に残るのにどちらが適任かなど明白だった。


「ナオ、ここで待っててくれる?」

「うん、気を付けてね」


 口に出さずとも、全員が同意見だったらしい。ナオは素早くヒイロの部屋の前へと戻って行き、ケイは反対にナオとすれ違ってハルトへと歩み寄る。


「行こうぜ、ケイ」

「ああ」


 手を振るナオを背に、ケイとハルトは寮を出た。

 彼らの後ろ姿を見送ると、ナオは扉に背中を預ける。

 かたく閉じられた簡素な扉。

 その向こうにいるはずのヒイロの姿を思い浮かべて、ナオは拳を握る。


「ヒイロちゃん、私はここにいるから。何かあったら言ってね」


 振り返って高い声を投げかけても、返事が返ってくることはなかった。


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