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5-3 たまにはどうぞお二人で


「あーあー。ナオってば小悪魔だねぇ」


 ナオにとっては特に意味のある行動ではないのだろうが、ケイはわかりやすく動揺している。

 時々、彼女は本当に気付いていないのかと疑うほどだ。

 あんなにも真っ赤になった異性と二人で腕を組んで歩いているのだから、ナオもそろそろ何かしら意識したらいいものを。逸脱した彼女の恋愛意識を目の当たりにするたび、いろんな意味で心配になる。

 事実、近づいてくるスタッフの人たちは皆、少なからず「カップルじゃ……ないよね? どういう関係かな?」などと言いたげな視線を向けてきていたように思う。実際は幼なじみなのだが、奇数で、男女比が違うグループは客観的に見ても下手に「デートですか」等と言えないのはむべなるかな。

 ハルトは二人から少し距離を取るように歩く速度を落とす。少しずつ遠ざかっていく二人の姿に、早く行けともどかしい気持ちになる。


 ケイとナオの出会いは、ハルトよりも早い。ハルトは四歳のときに二人に出会ったが、二人は赤ん坊の頃からずっと一緒に育ってきた。ハルト自身も含め、あまりに兄弟然としてしまって身内以外の感情があまりないのも事実である。

 だが、少なくともケイに関しては、幼い頃からナオを意識しているのが周りの目から見ても明らかだった。ハルトだけでなく、先日電話で話したスゥをはじめとする同郷の仲間たちも皆ケイのことを見守っているのだが、肝心のナオがケイに全く興味がなさそうなのが残念なところである。


「オレ、たまには邪魔しないほうがいっかなー?」


 ハルトは頭をかきながら、ゆったりとした足取りで歩く。

 あんな二人と一緒に過ごしているのだ、当人たちよりもむしろ色々と気を配っていると自負するハルトである。ナオにあの手この手でケイを意識させようとしても、いつも全くの空振りに終わるのだが。

 携帯電話は先ほど、ケイに預けた。持ち逃げして怒られることもない。

 あの様子だとケイとナオが別行動を取ることはまずないだろう。多少ハルトがはぐれたところで、結局は今夜この町の政府支部に宿泊するのだから、最悪そこに行けば合流できるはずだ。

 彼らが時間を忘れて一日中デートを楽しめるならばそれはそれでいいだろう。あれだけ甲高い声ではしゃいでいるのだからその気になればすぐに見つけられそうだが、ひとまず様子見だ。


「ま、がんばれよーケイ」


 唇を吊り上げると、ハルトはそう呟いて道を曲がる。ケイとナオが進んだのとは違う方へ逸れたのだ。


「さて、どこ行こっかなー」


 近くにいたスタッフに新たに園内マップをもらう。道の端に寄ると、マップを広げて考えてみる。

 一人で乗るならコースターだろうか。メリーゴーラウンドは少し寂しいので除外だ。観覧車は乗りたいが一人は寂しそうだから、これだけ後で合流してもいいかもしれない。

 マップを指でなぞりながら計画を練っていると、色分けされた一角に目を留める。


「あ、ゲームコーナーがある」


 説明を見ると、的当てやボール投げなどの露店や、映像技術を駆使したシューティングゲームがあるようだ。興味がわいたハルトは、ひとまずそこへ向かうことにする。

 顔を上げると、看板を確認する。


「えっと、こっちだな」


 うむ、とひとつ頷くと、ハルトは再び歩き始める。

 さすがは都会の真ん中のテーマパークだ、たくさんの人が行き来している。すり抜けるように歩いていると、家族連れが二組、前から歩いてきた。


「おっと」


 家族連れは夫婦が二組、それぞれの子供たちが好き勝手に広がっている。

 避けるよりも通り過ぎるのを待った方がいいと判断したハルトは、そのまま道の端へ寄った。

 甲高い子供の歓声と、母親たちの笑い声の後に、父親同士らしい男性二人の会話が聞こえてくる。


「――聞いたか、またやられたらしいぜ」

「ああ、例の盗難事件? また売上取られたのか?」

「らしいな。今度はうちの近くの宝石店だそうだ。ごっそりやられたのに、店主は何も覚えてないらしい」

「またか……うちも気をつけないと」


 きらびやかで楽しい場所に似合わない、不穏な内容だった。ハルトは家族連れが通り過ぎたのを確認すると、最後尾を歩く男性二人の後姿をじっと見つめる。彼らは町の商店街の商売人なのだろうか。


「……都会は物騒だねぇ」


 目を眇めると、ハルトはそう呟いて踵を返した。

 しばらくすると、目当てのゲームコーナーが見えてくる。

 ハルトと同じく一人らしい男性客が、露店の的当てゲームで熱くなっている。笑顔のスタッフのお姉さんや観客に煽られ、もう一ゲーム追加しているところだった。この様子では入れなさそうだ。

 的当てゲームや他の露店を通り過ぎると、今度は屋内のゲームを見てみることにした。どこも人は多いが、露店よりこちらの方が静かそうだ。


「お」


 ふと、ハルトはゲームの一つに目をとめる。

 ちかちかとネオンが忙しく瞬く的と、銃の形をした看板。拳銃を使ったシューティングゲームのようだ。


「へー。一定以上のスコア出せば景品もらえるんだ」


 ボタンがあったので押してみると、タッチパネルが目の前に現れる。難易度やステージを選択できるらしい。

 故郷の町にいたころ、ケイやスゥとゲームをしては熱くなっていた日もあった。普段の真面目で几帳面な性格とは裏腹に、対戦ゲームで一番燃えていたのはスゥだったりする。よく三人でやり込んでは、女子陣には呆れられ、大人たちには叱られたものだ。

 そんな懐かしい日々を思い出すと、このシューティングゲームもプレイしたくてうずうずしてくる。


「ま、今日はオフでいっかな」


 独り言ちると、好奇心に負けたハルトは口元に笑みを浮かべた。


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