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(仮)追放はずれ勇者と聖女コンビの激闘ぽかぽか旅  作者: 遥彼方


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7/8

7.お荷物

 聖獣のお腹の上で一晩寝て、僕はすっかり回復した。


 ドウェインたちが探しに来たらまずいから、動けるようになってすぐ移動することにしたんだけど。

 その前に腹ごしらえ。空腹じゃ動けないからね。


 崖から落ちた後、僕は丸一日意識がなかったらしい。目が覚めてからさらに丸一日寝たから、二日以上何も食べてない。ヒヨリさんは聖獣が魔法でとってくれた木の実を食べてたんだって。


「味気ないでしょうけど」


 大きな葉っぱの上に簡素な料理を並べて、ヒヨリさんに渡した。

 料理といっても、調味料も鍋や器さえないから、焼いただけの魚ときのこ、食べられる木の実だけ。


 ドウェインたちに荷物取られなかったらなあ。もっとちゃんとした食事が用意できるのに。申し訳ない。


「美味しいです」


 木の枝に刺した焼き魚にかぶりつき、ヒヨリさんが笑う。


 うう、そう言ってくれると救われるな。

 野宿だってはじめてだろうに、文句のひとつもない。できた人だ。


 ヒヨリさんのいた世界はとても豊かだったらしく。便利な道具と美味しいものであふれてるんだそう。

きっと草とか食べたことないんだろうなぁ。


 ヒヨリさんの横では普通の猫サイズになった聖獣が、はぐはぐと魚を食べていた。そうしていると、ただの猫にしか見えない。というか、聖獣って普通に魚を食べるんだな。


 聖獣は勇者か聖女の前にしか現れないけど、全ての勇者と聖女に聖獣が現れるわけじゃない。勇者や聖女だって、召喚に膨大な魔力がいるから、数年から数十年に一度。

 だから聖獣は伝説の存在ってわけ。


 しかも今まで現れた聖獣のどれもが姿形、能力、性格も違う。竜だったり鳥だったり犬だったり。

 伝説の獣なだけあって、聖獣は謎多き生き物だ。


 満腹とはいかないけれど食事を終えて、魚の骨や灰を茂った低木の根元に埋める。


 人のいた痕跡は出来る限り消したい。

 川に落ちてから、結構流されたらしいから。すぐには見つけられないと思うけど。なんなら探してないかもだけど。念には念を入れたほうがいい。

 本当は川沿いから離れた方がいいんだろうけど。


 落ちた場所から十分に離れて、命の危機が去って最初に気になったのは、やっぱり喉の渇きと空腹。

 空腹の方は、木の実や動物を狩ることでなんとかなるけど、問題は水だ。容器がないから貯めて持ち運べない。森の中で運良く水源があるかは謎。なので、川からつかず離れず進むことにした。


「このまま川にそって南下したら、オクルス町に着くんですけど‥‥‥」


 オクルス町にはよく立ち寄っていたから、知り合いもいる。顔を出すとドウェインたちにバレるかもしれないから、王都近隣の町は避けたほうがいいだろう。


「すみません。私がいるから町に近寄れないんですよね」


「いや僕、追放された時に『次その面見せたら殺す』って言われてましたからね。ドウェインたちと鉢合わせする可能性のある町には、ヒヨリさんがいなくても近寄れなかったですよ。お金がないから町に行ったって何も買えませんし。そもそも僕は一応冒険者ですから。普段からこんな感じの野宿生活です」


 もともと野宿は苦じゃないし、追放された時点で王都からは離れようと思っていた。ヒヨリさんが気に病む必要はない。


「でも」


 しゅんと肩を落としたヒヨリさんの表情は、曇ったままだ。気にしなくていいのに。


「それに、町に近寄れないことはありませんよ。僕の知り合いがいる王都近隣さえ避ければ町に入っても大丈夫です。ヒヨリさんも僕も死んだことになってますから」


 雑なドウェインのことだ。僕たちの生死を確かめないで殺したと報告してるんじゃないかな。

 『偽聖女を召喚したことを、世間に知られちゃまずい』と言っていたし、国がヒヨリさんを指名手配したりはしないだろう。


 ん? 待てよ。ということは。

 ヒヨリさん一人なら僕に付き合って野宿しなくてもいいんじゃ。


「よく考えたら、ヒヨリさんの召喚はなかったことになってますよね。ヒヨリさんはその変わった服さえ変えれば、普通に町に入れますよ」

「えっ」


 眼鏡の下の黒い瞳が軽く見開かれたと思ったら、さっと影が差した。


「私、ルイさんと一緒にいちゃ駄目ですか?」


「駄目じゃないです。駄目じゃないんですけど」


 僕としては一緒にいてくれた方が嬉しいけど。


「僕に合わせて近くの町を避けたら、一週間くらい野宿ですよ」


 町を避けるとなると、街道を通らない。道なき道を歩く。

 道具もない。着替えもない。食料は現地調達。しかも崖から落ちた時に靴を片方失くしてる。

 慣れてる僕はいいけど、ヒヨリさんは辛いだろうから申し訳ない。


「すみません。私、荷物でしかなくて」


 ?? ヒヨリさんが僕なんかの荷物?


「いやいやいや。怪我して意識のない男っていう、大荷物を介抱してくれた人が何を言ってるんですか」


 あれだけの怪我を治すの、絶対大変だっただろうに。


「ただスキルをかけただけです」

「ただかけただけで治るような怪我じゃなかったでしょ」


 あの時の僕は多分瀕死だったはず。それを後遺症もなしに治すって相当だよ。A級並みだよ。

 自分がどれだけすごいのか、自覚してほしい。


「それに、スキル使うのって疲れるじゃないですか」

「そんなに……流石にちょっとは疲れましたけど」

「ほら! 見ず知らずの僕にそこまでしてくれた人のどこが荷物なんですか」


 目が覚めてからも、しばらく貧血で動けなかったんだから、荷物は僕の方だ。


「だって私、食べられるきのこも木の実も分からなくて。火起こしも料理も全部ルイさん頼りで」


「食材の調達も火起こしも慣れです。慣れ。数日もしたら僕よりエキスパートになってるかもですよ?」


 知らない世界での慣れない生活だから、上手く出来ないだけ。


「今でも木の枝集めしてくれてますし。何かあっても回復してくれるんですから。ヒヨリさんがいてくれて、僕がどれだけ心強いか分かってます?」


 もしもヒヨリさんと出会わずにいたら。そりゃ生活面はなんとかなっただろうけど、こんな風に気持ちが吹っ切れてなかった。今もうじうじと落ち込んでいたに違いない。


「それにほら。忘れてませんか。僕ってゴミだ、お荷物だって追放された人間ですよ」

「それを言ったら、私も役立たずだって追放された偽聖女です」


 僕たちは顔を見合わせた。


「あははは。じゃあ僕たち追放コンビですね」

「ふふっ、そうですね」


 よかった。やっぱりヒヨリさんは笑った方がいいや。


 んなーお。


 ずっと毛づくろいをしていた聖獣が、トコトコと近づいてきた。僕とヒヨリさんの足元の間に体をぶつけながらすり抜ける。


「この子とはここでお別れなのかな」

「聖獣は勇者や聖女を助けてくれる存在ですから、ついてきてくれると思いますよ」


 伝説の聖獣たちは、選んだ勇者と聖女が死ぬまで側にいたという。


 にゃ。

 短く鳴いて、首を縦に振った。


「頷いてくれた!」


 ヒヨリさんが嬉しそうに喉を撫でると、ぴょんと膝の上に乗り、ごろごろと鳴らして目を細める。


「ずっと一緒なら名前がないとですね。ねえ、名前はある?」


 聖獣がゆっくり首を傾げた。

 どういう意味だろう? ないのかな?

 もし名前があったとして、教えてくれても猫語分かんないけど。


「ないの?」


 今度はゆっくりとまばたきしたあと、前足でヒヨリさんの膝をちょんちょんとつついた。


「つけてもいい?」


 んにゃ。


 またうなずいて、しっぽをぴんと立てた。同意っぽい。


「うーん。どうしましょう? ルイさんいい案ないですか?」

「え!? 僕ですか?」


 ヒヨリさんがつけるんじゃないの? 急に振られても! えーと、えーと。


「し、シロとか‥‥‥?」

「ルイさん‥‥‥シロはちょっと違うというか」


 あ、呆れられてる。ですよね。白いからシロってすごい安直ですよね。


「この子白だけじゃなくて、黒い縞模様あるじゃないですか」

「そっち!?」


 安直さじゃなくて、見た目の違いだった。

 んん~、でも縞模様の名前って思いつかないなぁ。

 他に見たまんまの名前‥‥‥あ。


「それじゃあ、目が青いからソラはどうですか」

「いいですね。あなたもいい?」


 んな。


 返事みたいに短く鳴いて、ヒヨリさんの膝から下り、僕の足の上に座った。


「ソラも気に入ったみたいですね」

「よかった。よろしくね、ソラ」


 にゃぁぁぁぁあお。

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