レベルアップ
「光明……」
「コレに頼らずとも、俺達は強くなっていける……当たり前の事ではあるんだがな」
言いながら、セイルはカオスゲートを軽く振ってみせる。
とはいえ、カオスゲートが不要というわけでは断じてない。
ガチャ、そして合成。進化だって「カオスゲートに頼らずとも可能」というだけであって、いつでも好きに出来るというわけではない。
カオスゲートは、変わらずセイル達の生命線であり続けているのだ。
「さて、合成するか」
「え、頼らずとも強くなれるというのは」
「それはそれ、これはこれだ。もう出かけていいぞ?」
「はあ……」
何か納得いかない表情をしつつもアミル達は買い出しに出かけて行き、セイルは合成画面を開く。
合成の為にヴァルブレイドを一度カオスゲートに取り込み、合成元に選ぶ。
レア度が低くレベル1のアイテムを一気に合成する「一括合成」で星1のアイテムを一気に制限の10まで選び、合成する。
するとカオスゲートが淡く輝き……「合成成功!」の文字が浮かぶ。
いつもカオスディスティニーでやっていた作業を繰り返すように、数値の確認すらロクにせずに無心で合成を続けていく。
そうすると……アイテム一覧から錆びた武具を除く星1の武具が全て消えた後に、最後の合成成功画面が浮かぶ。
合成成功!
ヴァルブレイド(レベル18/70)→ヴァルブレイド(レベル19/70)
攻撃力1350→1400
「……凄まじいな」
星5の武器。この世界では二度と手に入らないかもしれない、レアガチャで手に入る最高レアの武器。
星1の武器を星7まで上げようとも埋まらない性能差の理由が、此処にある。
どれだけ星の数を上げてレベルを上げようと、元々の成長率……いわゆる潜在的な才能が違うのだ。
これはユニットでも同じであり、その差は絶対に……レベル差が上がっていく程に広がっていく。
正面から戦うような職ではないウルザにだって、すでにその傾向は見えている。
だとしても。そうだとしても、この世界では「それだけ」ではない。
カオスゲートに頼らない進化が出来るのであれば、単純にレベルアップではない実力の向上だって可能なはずだ。
それが出来るまでは……セイルが、ヴァルブレイドを振るって正面に立つ。
カオスゲートからヴァルブレイドを取り出すと、気のせいか凄みを増したヴァルブレイドの姿がそこにある。
鞘から剣を軽く抜けば、やはりそれが気のせいではない事をセイルは知る。
「……もっと早くやっておけばよかったかもしれんな」
現在のセイルの攻撃力は、素の900と合わせて合計2300。
ヴァルスラッシュを放てば瞬間攻撃力は3倍……6900だ。
オークジェネラルを大地ごと斬り裂けそうな気がしてくる。
「……いや、そう上手くはいかないか」
此処は現実だ。単純に攻撃力では決まらないだろう。
攻撃力で全てが決まるなら、筋肉が全てに勝るというような話になりかねない。
実際、あの戦いでも攻撃力で勝るセイルはオークジェネラルと技量を含め「やや優勢」といった状態であった。
攻撃力の数値にしたところで斬る、突く、あるいは掠る……全て与えられるダメージ、ひいては攻撃力が違うはずだ。
つまり「攻撃力」とは最大数値であり、全力攻撃を行った場合の数値と考えていいはずだ。
そこから相手の技量やアビリティ、防御力による軽減などを差し引くと考えると、決して楽観していい数値ではない。
「……やはりガチャを引くか。アミル達の分も強化しておきたい」
そう呟くと、セイルは仲間の為に今この場でガチャを引くべきと決意する。
ガチャを引きたいからではない。
仲間の為なのだ。
完璧な理論武装である。
「よし、引くぞ……」
「あら?」
引こうとしたその瞬間、扉が開いてウルザが顔を出す。
「セイル様だけ? ていうかそれ……」
「……凄いタイミングで帰ってくるな、お前は」
「何の話……?」
疑問符を浮かべるウルザはセイルの手元を覗き込んで「ふーん」と呟く。
「ガチャ引こうとしてたのね。鬼の居ぬ間に……ってわけ?」
「そういうわけじゃない」
セイルはそう言うと、10連ガチャのボタンを押す。
1シルバーを消費して回転する光の色は、赤。星3の何かの登場を約束する輝き。
「あら」
「来たか……!」
やはり今引くべきだったのだ。
そう確信したセイルの目の前に、ガチャ結果が表示されていく。
ガチャ結果:
鉄の剣(☆★★★★★★)
鉄の弓(☆★★★★★★)
鉄の槍(☆★★★★★★)
布のローブ(☆★★★★★★)
鉄の杖(☆★★★★★★)
聖剣ホーリーベル(☆☆☆★★★★)
無銘刀(☆☆★★★★★)
聖書(☆☆★★★★★)
鋼のトンファー(☆☆★★★★★)
鉄の短剣(☆★★★★★★)
「聖剣ホーリーベル……?」
「なるほど、コレか……!」
首を傾げるウルザの前で、セイルはすぐにアイテム詳細を開く。
名称:聖剣ホーリーベル
レベル:1/50
種別:剣
物理攻撃力:250
魔族の襲撃により失われた聖堂の鐘を溶かし祈りと共に鍛えられた聖剣。
聖なる守護の響きを奏で続けた鐘から生まれた刃は、邪悪な魂を断つ力があるとされている。
「へえ……凄いじゃない」
「ああ、入手できる中ではかなり良い物だ……!」
最高というわけではないが、上々だ。
これをアミルが振るえば、これからも戦えるはずだ。
「……で、私の新しい武器は?」
「ん?」
「ん、じゃなくて。これどう見てもアミルのでしょ? 私のは未だに鉄製なのよ?」
「むう」
セイルの信じる法則に従うのであれば、ここでやめたほうがいい。
しかしウルザの言う事も最もだ。
どうするべきか……セイルは、本気で考え始める。





