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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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花咲かぬ国6

「……いや、俺の仲間じゃねえな」

「ということは……」


 寝ているコトリや元々武器など持っていないナンナを除く全員が武器を構え……その視線の先で、ゆらりと空間が揺らぐ。

 

「よく分かりましたね。気配も魔力も隠していたはずなのですが」

「職業柄、視線の類には敏感なのよ」

「そうですか」


 頷く「それ」は……少なくとも、人であるとは認識し難いものだった。

 半透明の身体はまるでゴーストのようで、しかしゴーストのような邪悪な気配は何も感じない。

 人のようだと思える形を持ち、しかし頭部は人のものとは微妙に異なる。

 まるで仮面をつけたかのような不可思議な顔は、何の感情も映しているようにも見えない。


「貴方は、精霊……ということで間違いないか?」

「ええ。私は確かに精霊の1人です」


 セイルの問いに、それは……精霊は、あっさりと肯定する。

 精霊。この地を治める種族がこの場に居るという事は、セイル達の侵入を感知したということなのだろう。

 当然だ。結界を抜けたのだから、侵入したことも……敵意がないことも伝わっているはず。

 その上で会いに来たということに、セイルは希望を見出した。


「ならば聞いてくれ。俺はセイル。この大陸ではないが、人間の国家の王だ」

「存じています」

「そ、そうなのか。俺が今回この地に足を踏み入れた理由についてだが」

「それも存じています。神より神託がありました故に」


 セイルの言葉を遮るように言う精霊に、セイルは少し訝しげな顔をする。

 だが、あるいはこれが精霊なりのコミュニケーションなのかもしれないと思い直す。

 人間の基準で他種族を測ってはいけないと、つい先ほど学んだばかりなのだから。


「では、俺がこれからしようとしている提案については」

「蟲人との戦いに力を貸してほしい、と望んでいるのでしょう?」

「その通りだ。全てを知っていて俺に会いに来たということは、前向きに考えて貰っていると判断していいのだろうか」

「いいえ」


 セイルの質問に対する精霊の答えは、これ以上ないくらいの否。

 あまりにもハッキリとした拒絶に、シングラティオ以外の全員が絶句してしまう。


「確かに神からは協力してほしい、という要請はありました」

「では、何故」

「私達は、調停者であることをやめました。グレートウォールは私達の誇りを破壊しました。私達が調停者ではなく、調停者気取りであると教えてくれたのです」

「それ、は……!」


 それについては、セイルは何も言えない。言えるはずもない。

 だが……此処で「そうですか」とあきらめるわけにはいかないのも、また事実だった。


「貴方達に調停者であってくれと調子のいいことを頼むつもりはない! ただ、勝つ為に……世界を黒の月神から守る為に力を貸してほしいだけなんだ!」

「黒の月神もまた、月神の一柱。私達の神が戦えと仰せであれば従う事もあるでしょうが……この場に貴方達の滞在を認めている事で、協力という要件については満たしているものと考えています」

「くっ……」


 この場に蟲人達が入ってこれないのであれば、確かに今の状態は匿ってもらっているともいえる。

 それを協力ではないというのは、あまりにも不義理だろう。


「だが! このままでは世界が滅びかねない……それは貴方達精霊だって分かっているんだろう!?」

「理解しています」

「ならば!」

「その上で問いましょう、人間の英雄セイル。このままでは、黒の月神の影響をどうにかする為……再びグレートウォール同様の世界分断が行われることでしょう」


 グレートウォール。世界を隔てていた種族分断保護策。

 前回は人間のみを保護していたそれが再び発動すると、目の前の精霊はそう語っているのだ。


「それ、は……月神が、そう言ったのか」

「可能性として存在するとは考えませんでしたか?」


 セイルは黙り込む。確かに、ないとはいえない。

 だが……そこまでとは、考えてはいなかった。


「だが、それなら!」

「それであるからこそ、次のグレートウォールはより強固なものとなるでしょう。私達精霊すら世代の交代を止む無くされる程の、永劫の時……その長きの間、次なるグレートウォールは世界を分けるでしょう……貴方は、人間の英雄としての自分の価値を試されていることに、気付いていますか?」

「それが、問いか?」

「ええ」


 人間の英雄としての自分の価値。

 白の月神は自分を、セイルを認めてくれた。

 だが、それではないのだろう。

 人間の英雄としての価値。今は崩れ去ったグレートウォールの果たしていた役割。

 それらが示す、セイルに求められているもの……それは。


「人間だけで、蟲人に勝てとでも?」

「それが出来ないのであれば、結局崩壊前と何も変わらないでしょう。正気を失った蟲人に勝てないのであれば……どうせいつか、再び滅びの危機へと瀕します」


 否定はできない。できないが……その条件には、大きな問題がある。


「だが此処は人間の土地ではなく、俺の国の軍隊も此処へすぐ来る事など出来ない。どうやって国1つに勝てと?」

「……貴方なら出来るのでは?」

「どういう意味だ」

「そのままの意味です、人間の英雄セイル……いいえ、英雄達の統率者……人間の英雄王セイル」

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