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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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花咲かぬ国4

精霊の国の中は、何もかもが変だった。

 咲かぬ花、元気の無い草、濁った色の空、よどんだ空気。

 居るだけでセイル達まで元気の無くなるような場所は、しかし月の輝きだけは変わらない。

 空に浮かぶ銀色の月を見上げていたセイルは、小さく「ふう」と息を吐く。

 休憩代わりに始めた野営だが、ぼんやりと明るいこの場所では火を焚く必要すらない。


「……月が普通なのだけは、救いだな」


 そう呟いた後、自嘲気味にセイルは笑う。

 銀色の月、七色の月。そんな「不可思議」をいつの間にか普通だと思っていた自分に気付いたのだ。

 そして、そんなセイルの笑みをどう捉えたのだろうか。向かい側に座っていたシングラティオがニヤリと笑う。


「普通、か。月が七つになったのはこっちじゃあ、つい最近だろうに」

「まあな。だが……慣れた。最初からこれが自然であるような気すらする」

「くくくっ、そうだな。月が1つしかない状況も、6つしかない状況も不自然だ。7つあってこそだよな」


 何かを懐かしむように言うシングラティオの言動に、セイルは僅かな興味を覚える。

 考えてみれば、シングラティオとこれ程穏やかな雰囲気で話をしたことは無かった。

 もしかしたら、これを機会に人間と魔族が分かり合える機会を作れるのではないか……そんな風にも思っていた。


「……グレートウォールの向こうっていうのは、どんな場所だったんだ?」

「ああ? なんでそんなもんに興味あんだよ」

「ストラレスタは、人間がグレートウォールの事を忘れているのに憤っていたからな。少なくとも、不満を溶かす理想郷という感じではなかったんだろう?」

「……ストラレスタ。ああ、エルフの英雄か」


 何かを思い出すように頷きながら、シングラティオは小さく息を吐く。


「まあ、エルフはプライドが高ぇからな。『追い出される側』だったのが納得いってねえんだろ」

「……なるほど。グレートウォールで分けるにしても、人間を『向こう側』に置くべきだったと?」

「ああ。ま、そんなことしても帰ってきた時に人間が各個撃破で滅んでたとは思うがな」

「否定は出来ない、な」

「だろ? 国って形があってもボロボロなんだ。隔離するなら確かに俺等だ。だがまあ、エルフはそんなもん理解できても納得はしねえわな」

「ふむ……」


 頷きながら、セイルは思う。ということはストラレスタの溜め込んだ感情は、あの時セイルが感じた以上のものである可能性が高い。

 人間をいつでも保護下に置くような事を言ってはいたが……友好関係を結べるかどうかは別かもしれないし、ひょっとすると物凄く難しい話なのかもしれない。


「で、まあ。向こうがどういう場所だったか、だっけか?」

「ん? あ、ああ」

「そうだな……少なくとも何かに不足する事はなかった。この腐れた場所とは違って、望めば大体のものは手に入るような場所だった。たぶんお前の言う理想郷ってやつには近ぇんじゃねえか?」

「そう、なのか」

「ああ。ドワーフ共は喜んでたと思うぜ。それで全てに納得したかっつーと別だがな」


 ……確かに、セイルの知る限りではドワーフはこちらに帰ってきた時、その場に居た人間達を襲い……恐らくは国1つを滅ぼしている。彼等が人間に悪感情を抱いていないと考えるのは楽観的に過ぎるし、むしろ復讐の為に牙を研いでいたと考える方がいいだろう。


「お前は……魔族は納得できていたのか?」


 だからこそ、セイルはそう問いかける。恐らくは全種族の中で一番のバトルマニアであろう魔族のトップである英雄……シングラティオはどう考えているのか。それが知りたくなったのだ。


「魔族全体はともかく、俺は気にしてねえぜ。難しい事を何も考えず暴れてても、何も不足しなかったからな。それに比べると今は、大分キツいな」

「キツい?」

「ああ。内政なんつーもんを考える必要が出てきた。育てなきゃ食うもんはねえし、野原で適当に寝てりゃいいってわけにもいかねえわな」

「……向こう側でどういう生活をしてたんだ」

「言ったろ? 不足しなかったってな」


 カカッ、と楽しそうに笑うシングラティオにセイルは溜息をつく。

 もしシングラティオと他の魔族たちが同じ考えなのであれば、魔族にはグレートウォールによる不満はないと考えていいのかもしれない。

 ある意味で、魔族の生きざまに救われたというべきだろうか?

 そして同時に、セイルは「ある可能性」をも見出していた。


「なあ、シングラティオ。俺は今回の話し合いで、可能なら精霊と友好を結びたいと思っている」

「おう、そうかい。協力を得るってのはそういうことだろうな」

「魔族とも、同じようにするわけにはいかないか?」

「……はあ?」


 あっけにとられた……といった表現が似合う顔をするシングラティオに、セイルは畳み掛ける。


「人間は今、俺とその国を中心に纏まりつつある。内政的な面はまだまだ改善の余地はあるが、恐らくは今までのどの人間の国よりも発展するはずだ」

「……それで?」

「魔族とも助け合える部分があるだろう。まずは交流から、始めてみないか?」

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