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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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向かう先2

「俺達が……か?」

「そうだよ。メルトもそれなりだけど……君達、かなり強いだろ。特にセイル、君だ」

「……」


 アークの言葉に、セイルは思わず黙り込む。

 エルフの英雄であるストラレスタや魔族の英雄であるシングラティオもそうだったが、相手の力量を測る術に長けているのだろうかとセイルは疑問に思ってしまう。

 セイルもその辺りを全く理解できないわけではないが、個々人の力量を一目で見抜けるかといえば答えは「出来ない」になる。


「ひょっとすると、人間の英雄ってのが居たら君みたいなんじゃないかって……そんな風にも思うよ」

「……そうか」


 それについて、わざわざセイルから言及することはない。

 アークが完全に味方だと確信すれば話すかもしれないが、少なくとも今ではないからだ。


「まあ、それについてはいいさ。僕の見立てが間違いだってこともある……さ、行こうか」


 アークはそう言うと、セイル達から視線を外し歩き出す。


「しかし、妖精だっけ? 君凄いね」

「お? 惚れた? でもだめー。私はセイルのだから」

「ははは、彼は異種族とか気にしない人なのかな」

「いや待て。ナンナとは、そういう関係じゃないぞ」


 そんなどうでもいい会話を交わしながら、セイル達は洞窟を進んでいく。

 その最中にモンスターと出会うようなことはなく、やがてナンナのものではない「外の光」が見え始める。


「さ、着いた。此処だよ」


 洞窟の出口を抜けた先にあったもの……それは、切り立った山壁に囲まれた広い空間だった。


「此処は……村、か?」


 そう、あちこちに建っている建物は家や倉庫……町とは言わないまでも、村と呼ぶには充分な規模のものだ。

 しかし、其処に住んでいるのは当然のように人間ではなく蟲人達だった。


「そうさ。此処は言ってみれば隠れ里。もう少し違う言い方をすれば……レジスタンスのアジト、かな?」

「そうそう、コイツ王宮勤めのくせしてレジスタンスなんだぜ? 笑えるだろ」


 ハハッと笑うメルトだが、セイル達にとっては笑いごとではない。

 蟲人達を助けに来たはずが、体制をひっくり返す側についたのでは意味がない。

 とはいえ、こんな所に案内されて「やっぱり帰る」とはいかないだろう。

 人間が……メルトがいる側だからと少し目算が甘すぎたかと冷汗を流すが……そんなセイルの心境を見抜いたかのようにアークはパタパタと手を振る。


「あ、心配かもしれないけど、僕達は別に革命とかしたいわけじゃないんだ」

「なに……? でも、レジスタンスなんだろう?」

「まあ、そうなんだけど。どう説明したものか……そんなに歴史があるってわけでもないんだよ。むしろつい最近っていうか」


 アークがどう説明したものか、と悩んでいると……村に居た蟲人達がワラワラとセイル達を囲むように近づいてくる。

 アークと同じように甲殻系の蟲人ではあるようだが、色が違ったり角がなかったりと色々だ。


「ねえねえ、おじさん人間ー?」

「違うよ、お兄さんだよ」

「お姉ちゃんじゃないの?」

「きっと獣人だよ。人間ってのはもっと弱そうなんだよ?」


 特にセイルの服の裾を引っ張るのは子供であるらしく、全く遠慮がない。


「あー……俺は人間で、男だ」

「人間かー」

「でも強そうだよ」

「おい、アーク……」

「はいはーい、皆ちょっと解散してねー」


 アークが手を叩くと、それが合図であるかのように子供達は散っていくが、大人らしい蟲人達はその場に残っていた。


「アーク。そいつ等はなんだ?」


 警戒すら滲ませた態度にセイル達は思わず身構えるが、アークは軽く肩をすくめてみせる。


「前に話しただろう? 漂流者だ。こっちはメルト。それとセイルとその仲間達だ」

「……1人だと聞いていたが」

「新しく来たのさ」


 アークと大人達は見つめ合っていたが、やがて大人達の方が根負けしたかのように視線を逸らす。


「……そいつ等からはただならない力を感じる。何かあったらお前が責任を持てよ、アーク」


 言い残して去っていく大人達。それを見送ると、アークは小さく溜息をつく。


「すまないね、疑心暗鬼になってるんだ」

「……レジスタンスなんだろう? それで大丈夫なのか?」

「レジスタンスだから、かな。まあ、とりあえず僕の家に行こうか」


 上を見上げると燦々と日が降り注いぎ、岩壁の上の方から水が流れてきて泉を作っているのが分かる。

 その水を利用してか、畑のようなものがあるのも見えるが……それを見る限り、蟲人の食べるものは人間とあまり変わらないようだった。


「あの畑、なんです?」

「麦だよ」

「ほへー」


 物怖じしないコトリがアークの答えに頷いているが、それはセイルの考えを補完してくれた。


「見ての通り、此処は戦闘要員が少なくてね」

「見ての通りと言われてもな」

「あ、そっか。人間には僕達の見分けがつかないんだっけ? 角があるのが戦闘要員かな」

「なるほど」


 言われてみると、子供も大人も角のある者は少なかったように見える。


「しかし、それでは……」

「うん、正直に言ってレジスタンスというには頼りない。さあ、此処が僕の家だ」

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