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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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200/228

出会ったのは2

「どういう事情……か。それを話すにしても……いいのか?」

「ん、ああ。そうだね、今の内に移動しようか。君達は拠点は?」

「ない。というか、此処が何処かもよく分かっていない」

「そうか。メルトと同じ感じかな? とにかく、それならこっちだ」


 言いながらアークは何処かへ向けて歩き始め、セイル達は思わず顔を見合わせる。

 このままついていっていいのか、と……そんな当然の疑問を抱いたのだ。

 何しろ、成り行き上彼等に助太刀する事を決めたが実のところ、アーク達が「良い者」であるという保証は何一つない。


「どうしたんだい?」


 アークに当然のようについていっていたメルトは何かに気付いたかのように悪い笑みを浮かべ、アークの肩を叩く。


「どうしたって、そりゃまあ。突然知らない奴についてこいって言われても……なあ?」

「ああ、なるほど。ボクが信用に値するか分からないと。当然の疑問だけど……とりあえずついてきてくれないかな?」


 ウルザとコトリから「どうするのか」といった意味の視線を受けていたセイルは少し考えると「ああ」と頷く。


「だが道中、先程の件の説明はして貰いたいな」

「構わないよ。でも何から話したものかな」


 ひとまずアークの横をセイルが歩き、その後ろをメルトが。

 更にその後ろをウルザが歩き、コトリがウルザの背後に隠れるようにして続く。

 これは何かあった時にセイルがアークを、ウルザがコトリを守りながらメルトを押さえられるようにするための布陣だが……アークからは何かを企む者特有の緊張感といったものをセイルは一切感じなかった。

 それはウルザが何も耳打ちしてこないからも、正しい感覚であるように思われた。


「えーと……まあ、一言で言うと僕っていうか僕達は逃亡者なんだ」

「ああ、それは見ていても理解できた。だが、何故だ? あの男を庇ったとか、そういう理由か?」


 たとえば人間のメルトを庇ってアークが追われたという理由であれば納得はいく。

 勿論、大前提の抜けた状態ではあるが……セイルはそれを思い出し、一言付け加える。


「いや、まずはこれを聞くべきだったな」

「ん? なんだい?」

「此処は何処だ?」

「ふむ、さっきも同じ事言ってたね」


 セイルの問いに、アークは歩きながらも頷いてみせる。


「此処はハルシウム大陸。その中でもこの辺りは蟲人の国、グラドリオンの領土だね」

「グラドリオン……蟲人の国、か。近くに獣人の国はあるか?」

「ないね。そもそも獣人の国は海の向こうのランゲア大陸だろう?」


 ハルシウム大陸、ランゲア大陸。その辺りについての知識はセイルが得た中にはない。

 そもそも海の向こうの大陸などというものがこの世界では認知されておらず、城から見つかった書物にもその存在は記されていなかった。

 そして獣人が取り戻したはずの国がこの大陸に無いということは、このハルシウム大陸とやらがセイル達が元居た場所とは違う大陸である事は教えられずとも理解できることだった。


「……なるほど。それなら俺達はランゲア大陸から来たということになる」

「そうだろうね、メルトもそっちから漂流してきてるし」

「漂流?」

「うん、グレートウォール崩壊時に海が大荒れして船から海に投げ出されたらしいけど」

「そうなのか」

「うん。それで僕が拾ったんだけど……中々個性的でね」


 確かにセイルにも少し一緒に居るだけでもそうだと分かる、が。


「それで、どうして追われる事に? 同じ種族の、いや。同じ国の仲間なんだろう?」

「まあね。その辺りにはちょっとばかり込み入った事情があるんだけど……そこで君達に聞きたいんだ。もし漂流して何処かに助けを求めに来たのなら、今のこの国はやめといた方がいい。精霊の国レックルレムルに行くことを勧めるよ」

「其処も気にならないわけではないが、そうするわけにもいかない事情もあってな」

「事情?」

「ああ……ナンナ、居るなら出てきてくれないか」


 いつの間にか姿を消しているナンナに声をかけると「はーい!」という声と共にセイルの頭上にナンナが現れる。


「なんですか、セイル? どんな御用ですか?」

「うわっ、何それ。精霊……のようで全然違うみたいだけど」

「やはり違うのか。妖精らしいが」

「聞いたことないなあ」


 興味津々といった様子のアークだが、やがてハッとしたように「で、この子が何なの?」と聞いてくる。


「ああ、これも込み入った話なんだが……緑の月神に蟲人を救うように頼まれている。俺達が此処に居るのも、そのせいなんだが……ナンナはその証拠のようなものだ」

「へえ……?」


 ナンナを再び興味深そうな目で見始めたアークは、やがて何かに納得するかのように頷く。


「確かに緑の月の力を感じる。なんか違うのも混じってるみたいだけど」

「分かるのか」

「うん。僕達が唯一崇める方だからね。でも、それなら……なるほど」


 言いながらアークとセイルは、ピタリと立ち止まる。

 2人の目の前に在るのは、暗い洞窟の入り口だ。


「此処は?」

「追跡を振り切るには、こういうジメジメした暗いところが最適でね。進もうか」

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