死都リゼンブルグ8
そう宣言すると、イザンナ=カオスアイは左右の扉を両の手でそれぞれ指し示す。
「まず、この両側にある扉だが……他の生贄の眠る場所へと通じる通路であると同時に、城へと通じる通路でもある」
「抜け道、か」
「おう。どうやらこの上にある家は、その抜け道の出口を守る連中の偽装としての家だったみたいだな」
という事は、他にも3カ所似たような場所があるということだが……まあ、今は関係ないだろう。
「さて、そこで……だが。とれる手段は2つある。地上を馬鹿正直に行くか、地下を行くかだ」
「……普通に考えれば地下、だがな」
貴様を信じられん、と全力で主張する視線でゲオルグがイザンナ=カオスアイを睨む。
ゲオルグに比べればやや消極的ではあるが、セイルもイザンナ=カオスアイを完全に信じられるわけではない。
「イザンナ。いや、カオスアイ」
「どっちでもいいけど……なんだ?」
「俺はお前を信用出来ていない。その上で聞くが……お前は地下のルートを熟知しているのか?」
そう、其処が問題なのだ。
カオスアイが騙そうとしていれば地下を彷徨う事になりかねないし、カオスアイが騙そうとしていなくてもルートを知らなければ同様の結果になってしまう。
だから、セイルはそう聞かなければならない。
1人ではないのだ、簡単に賭けに出るわけにはいかないのだ。
「大体でいいなら分かるぜ? コイツの記憶自体が寄せ集めだからアレだけどな」
言いながら自分の頭を示すイザンナ=カオスアイを見ながら、セイルは考える。
どちらが良いか。
地上を行けば、先程見たモンスターのアンデッドと鉢合わせする可能性があるし、魔族の死霊術士に見つかる可能性も高い。
地下を行けば敵には遭遇しないかもしれないが、道に迷う可能性がある。
「どうする? どっちでもいいぜえ?」
「……地下には『何か』いるのか?」
「おっ」
セイルの投げかけた質問にイザンナ=カオスアイは感心したような声をあげる。
「いるぜ。『これ』のお仲間っつーか……失敗作だな。暴走精霊って言うと分かりやすいか?」
「分かる、が……」
確かカオスディスティニーでは「精霊」系の敵は物理攻撃によるダメージ半減だったはずだとセイルは思い出す。
もし、こちらでも同じであるならば……アミルやゲオルグだけではなく、セイルすらもかなり攻撃力を落とす事になってしまう。
クリスやキースであれば猶更だ。
それを考えると、物理攻撃の通じるモンスターアンデッドの方がマシに思える。
「儀式の崩壊後、その暴走精霊達はどうなる」
「知らん。消えるかもしれねえが、暴走が激しくなるかもしれねえ。あるいは、何か想像もつかない事になるかもな」
「それまでの時間は」
「長くはねえだろうな。精々、あと2時間だ」
「2時間、か」
セイルの攻撃力は実質的に考えれば精霊相手には1300。
ゲオルグは570、アミルは735。
一番影響を受けないのはイリーナだが……そこで、セイルはふと思いついたようにイリーナのステータスをカオスゲートで確認する。
王国魔法兵イリーナ ☆☆☆★★★★
レベル20/50
魔法攻撃:1150(+300)
物理攻撃:0(+15)
物理防御:70(+74)
魔法防御:440(+280)
【装備】
・ミスリルの杖(☆☆★★★★★)(レベル10/30)
・カオスアイ(☆☆☆★★★★)(レベル10/50)
・防毒の護り(☆☆★★★★★)(レベル1【MAX】)
【アビリティ】
・毒確率減少(小)
・開眼
・精霊召喚【イザンナ=カオスアイ】
【魔力属性】
・闇
「イリーナが強くなっている……それだけじゃない、カオスアイもだと……?」
「当然だろォ?」
イリーナはレア度が上がり、カオスアイはレア度とレベルはそのままに能力値が少しではあるが上昇している。
更にアビリティへの「精霊召喚【イザンナ=カオスアイ】」の追加。
ゲームのシステムを一部現実化したカオスゲートだが、そのゲームにはない変化。
いや……現実になった時点でゲームがどうこうと語るのはおかしいのはセイルも分かっている。
現実にカオスディスティニーのシステムが付与されているのだという前提に、セイルは改めて気付かされる。
「……だが、これなら」
魔法攻撃力1450。これなら精霊相手であればイリーナは、この中の誰よりも最強になれる。
勿論、どの程度まで通用するかは分からないのだが……何もないよりはずっとマシだ。
「カオスアイ。地下にいる想定される暴走精霊の数は?」
「さあ? まあ、そんな多くはねえだろ。そんなものに多数の魔力を割くわけがない」
「そうか。なら決まったな」
イザンナ=カオスアイから視線を外すと、セイルは全員へ振り向く。
「皆、よく聞いてくれ。俺は地下を進むルートを選ぼうと思う」
「いいのですか、セイル様? ソレを信じて……」
「理解はするが、地上の方が万が一は起きにくいと思うがな」
「どっちでもいいよう」
アミルが、ゲオルグが、サーシャが……それぞれの意見を口にする。
まあ、サーシャのは意見といっていいかは微妙だが。
「キース、クリス。お前達はどうだ?」
「自分でありますか? えっと、あまりそういう事を考えるのは向いてないであります」
「馬鹿が」
「ひょえっ」
ゲオルグに罵倒されてキースが縮こまり、クリスは少し悩んだ様子を見せた後に「賛成です」と答える。
「地上は何があるか分かりません。少しでも安全な可能性があるならば地下の方が良いと僕は思います」
「ふむ……イリーナはどうだ?」
最後にセイルがそう問いかけると、イリーナは決意を込めた目でセイルを見返す。
「……イザンナ=カオスアイは私が全力で言う事聞かせるです」
「そうか、良し」
「皆、俺はカオスアイではなく、イザンナ=カオスアイと契約したイリーナを信じる。その上で懸念や反対意見があるなら言ってくれ。納得できる選択をしよう」
そうして、幾つかの意見交換の後……地下を進む選択が採択されることになる。





