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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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死都リゼンブルグ4

「……とにかく、降りるぞ」


 咳払いしてそう言うセイルに、アミルがハッとしたような表情で「そ、そうですね!」と相槌をうつ。

 この辺りは流石だが、イリーナもそれに続けて「ん、それがいいです」と呟く。

 この空気をどうにかしようと努力した証だが……そこにキースが空気を読まない一言を告げる。


「別に壊してしまってもよかったのではないでありますか……痛っ!?」


 そんなキースを叩いたのは、意外な事にゲオルグだ。

 

「馬鹿者が。此処にアンデッド共の巡回が来るかもしれんのだぞ、壊したら追ってくるだろうが」

「た、確かにそうでありますが」

「貴様が馬鹿を晒す度に帝国の恥になるのだぞ。発言は口にする前に考えろ」

「了解であります……」


 頭をさするキースにフンと鼻を鳴らすと、ゲオルグは驚いたような顔で見ていたセイル達へと向き直る。


「見世物ではないぞ。降りるならさっさと降りろ、時間の無駄だ」

「あ、ああ」


 そう答えながら、セイルは入り口の梯子を降りる。

 帝国将軍ゲオルグ。

 どんなキャラクターであったかなどほとんど記憶に無いし、「カオスディスティニー」で所持していたかも記憶にない。

 当然、仲間としてのエピソードもどんなものか知らない。

 しかし、アミルやイリーナの話……そして微かなシナリオの記憶から浮かび上がる「ゲオルグ」という男のイメージとは随分異なるとセイルは思う。


 勿論、突然斬りかかってくるし人の話は全然聞かなかったしで初対面の印象は最悪だ。

 しかし落ち着いて話を出来るようになってみれば、見た目相応に落ち着いた人物である事が分かる。

 となると「カオスディスティニー」で行っていた数々の凶行は何だったのか……気にはなるが、今となってはストーリーを読み返す事も出来はしない。

 しかし、一つ言える事があるとすれば……ゲオルグはセイルの味方ではあってもセイルの「仲間」だと完全に言い切れる状況ではないということだ。

 いつでも敵に回り得る。それだけは覚えておかなければいけないのだ。


「こっちですー……」


 ゲオルグについての考えを奥底に沈めながら、セイルはイザンナの呼ぶ方向へと……下へと降りていく。

 予想よりもずっと深い場所へ続いているらしい梯子を延々と降りていき、やがてセイルは梯子の導く終点へと辿り着く。

 コツン、と鳴る靴音は予想よりもずっと響かない。

 建築上の工夫なのか魔法的な処置がなされているのかはセイルには判断できない。

 しかし、この場が異常な空間である事だけはハッキリと理解できた。


「え、此処は……」


 続けて降りてきたアミルが、驚愕したような声をあげる。

 イリーナも、サーシャも、キースも、クリスも……ゲオルグですらも。


「なんだ……此処は」


 異常な空間。そう評するしかない場所だった。

 壁で区切られた、四角い空間。

 左右にある扉には鍵穴もなく、開くのかどうかは分からない。

 真っ白な壁は恐らくは魔法によるものと思われる煌々とした灯りで照らされて……いや、壁自体が発光しているのだ。

 そんな場所にあるのは、奥に置かれた石碑のようなもの一つのみ。

 いや……石碑というよりは、それは。そこに書かれた文言は。


―この地に再び災厄が訪れぬよう祈りし【南の乙女】イザンナ、此処にて礎となる―


 あまりにも不吉な文言だとセイルは思う。

 礎。それはまるでイザンナという名前の少女が此処で人柱となったかのように読めてしまう。


「セイル様。此処、魔力が淀んでるです。たぶん、これって複数箇所を巡ってるです」

「どういう事だ?」


 周囲を見回していたイリーナだが、それ以上は分からないらしく「ん……」と困ったような顔になる。

 しかし、クリスは1人石碑に近づくと調べ始め「ふむ」と何かに納得したかのように呟き始める。


「クリス。何か分かったのか?」

「いえ、もう少しお待ちください」


 振り向きもせずにそう返事するクリスから視線を外すと、セイルはふよふよと浮かんでいるイザンナに視線を向ける。


「……君はイザンナと名乗ったな。あの石碑に書かれている名前は君のもの、ということでいいのか?」

「たぶん?」


 セイルの問いにイザンナは首を傾げ「そうだとは思うんです、けど」と答える。


「私、記憶がないんです。此処で気が付いたのも二日前で、他に誰も言葉の通じる人は……一人居そうだったんですけど、なんか怖くて近づけませんでしたし」

「一人? それはまさか」

「セイル様、分かりましたよ」

「ひょえっ!?」


 いきなり近づいてくたクリスに驚いて天井近くまで飛び上がってしまったイザンナを見上げると、セイルはクリスに非難じみた目を向ける。


「……クリス。イザンナをあまり脅かすな」

「え、僕のせいなんですか?」

「見る限りはそうだが」

「はあ。あ、それでですね。そのイザンナさんですが……彼女、ゴーストではないですね」

「生霊の類、ということか?」


 幽体離脱という言葉を思い出しながらセイルがそう問いかけると、クリスは「いいえ」と首を横に振って否定する。


「セイル様。あの国境警備隊跡地で現れた土人形とかいう現象の話は覚えていらっしゃいますか?」

「ああ」

「彼女は、その同類です……もっとも、種類こそ異なりますが」

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