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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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野営3

 ……始まりはザクリ、という小さな音だった。

 まるで土を踏みしめたような……あるいは掘り返したような、そんな音。

 うっかり聞き逃してしまいかねない、そんな音にセイルは剣に手をかけ、イリーナは本を閉じ杖を手に取る。


「今のは……」

「聞き間違いじゃないです」


 立ち上がった2人は周囲を見回すが、何もない。

 ない、が。再び何処かでザクリと音が響く。


「起きろ! 異常発生だ!」


 セイルのそんな声と共にアミルがテントから飛び出し、やや遅れてキースがもう1つのテントから出てくる。

 鎧を着たまま寝るのが習慣化しているせいかアミルはすでにフル装備だが、キースの方は鎧ではないのが幸いしたようだ。


「セイル様、状況は!」

「異常って……何が起こったでありますか?」

「分からん! だが、普通じゃない!」


 ザクリと、今度はすぐ近くから音が響く。


「うひゃ……っ!?」


 そんな間の抜けた声をあげたキースの視線の先。

 何もなかったはずの地面に、倒れた人の形の盛り上がりが出来ている。

 それは、人の姿に似て……しかし、そうではないとすぐに分かる。

 何故ならば、それは肉ではなく土で出来ている。


「ゴーレムか……!?」


 ザクリ、ザクリと。音をたてながら地面に土人形の形が出来ていって。

 しかし、それが完全に形を成す前にキースの斧が叩き込まれる。


「き、気持ち悪ぃであります!」

「同感だ……!」


 そのキースの攻撃がきっかけとなったのかどうか。周囲にほぼ同時に同じような盛り上がりが発生し、ゆっくりと起き上がる。

 そして、起き上がったその姿に……全員が、絶句する。

 

「なん、ですかコレは……」


 それ等は、まるで人のような形をしていた。

 無表情な、土製の人間。

 あるものは鎧兜を纏い武器を持った兵士のような姿をしていて。

 あるものは荷物を背負った旅人のような姿をしていて。

 武器をもっているものもあれば、持っていないものもあった。

 

 ……きっと、誰もがその姿に「かつて此処にいた人間」を想像しただろう。

 しかし、此処にあるのは死体でもなく土人形。

 悪趣味な呪術の可能性をセイルは考え、自分達を囲もうとする土人形達を睨みつける。


「イリーナ」

「はいです! ダーク!」


 イリーナのダークの魔法が土人形を呑み込むと同時に、セイルと土人形たちは動き出す。

 セイルのヴァルブレイドが一閃すると土人形は崩れ、その中から霧のような何かが飛び出す。

 続けて切り裂いた土人形も、やはり同様。

 どうやら武器部分は陶器か何かのように硬質化しているらしいが、そんなものがヴァルブレイドの相手になるはずもない。

 

「はあっ!」

「でやあああ!」


 アミルとキースの攻撃も土人形を武器ごと砕いていき、砕かれる度に霧のようなものが土人形の中から飛び出していく。

 イリーナがダークをぶつけ消滅させた土人形からも同様に霧のようなものが飛び出しているが……その正体を探るより前に、土人形たちは全て元の土塊へと還っている。


「……然程強いというわけでもありませんね」

「雑魚です」

「俺はセイル様から頂いたミスリルの斧の切れ味のせいかと思ってたであります」


 三者三様の感想にセイルは頷くが……謎は一つも解けてはいない。


「今のは、なんだと思う? ゴーレムにしては脆すぎる」


 セイルがそうイリーナに問えば、イリーナは難しそうな顔になる。


「……私はあんまり、そういう知識はないですけど。呪いの類なのは確かだと思うです」

「呪い……つまり呪術、ということか?」

「とも限らないです」

「ん?」


 セイルが首を傾げて他の2人を見ると、アミルもキースもサッと目を逸らし分からないとアピールする。


「呪術や、死霊術……強力な闇の魔法が行使された地で、呪いとして影響が残る事がある、らしいです」

「そう、なのか?」

「クロスに多少教わったです」

「ふむ」


 クロスの顔を思い浮かべ、セイルは薄く笑う。

 どうやらクロスなりにイリーナの事を気にかけていてくれたらしい。


「それについては理解できた。それで、その呪いはいつまで続く? どうやって解除すればいい」

「土地に焼き付いた呪いなので、浄化すればいいらしいです」

「浄化、か。イリーナは……」

「私もクロスも……あとオーガンも専門外です。こういうのは、専門家の技か、大量のアンチカースが必要らしいです」


 大量のアンチカース、というのは少々難しい。

 ガチャで手に入るアンチカースは小瓶1本であり、それを大量……となると、最終的にどれ程の量が必要なのか考えたくもない。

 となると、専門家を招聘した方が良いという事になるが……。


「その専門家というのは誰か聞いているか?」

「確か……えーと。エクソシストか、ミコ……とか言ってたです」


 エクソシスト、巫女。

 どちらもノーマルガチャから排出されるユニットではある。

 確かに「祓いの儀」をアビリティとして持っている巫女ケイであれば、そうした事が出来そうなイメージはある。

 あるいは他の巫女やエクソシストなどであっても、ステータスに出ない知識や技でそうした事が出来るのだろうとセイルは思う。

 

「……まあ、とりあえずは……だ」


 再び響き始めたザクリ、という音にセイルが、そして全員が武器を構える。


「どうやら第二陣のようだ。全員、戦闘準備!」

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