アイツの話2
「ん……流石にそれは、分からないです、けど」
アミルの言葉に、イリーナも少し迷うような様子になる。
「でも……ゲオルグです。やっぱりどうかとは思うです」
「それは、そうですよね……」
2人の会話を聞いて「嫌われてるな……」とセイルは思う。
まあ、当然だろう。狂帝ヴォ―ダンの命令とはいえ、王都から逃げ出したばかりのセイル達を帝国軍の部隊を率いて襲い、復興の芽を完全に摘もうとしていたのだ。
しかも、他の何処となく憎めない面々とは違い完全にプレイヤーからのヘイト……憎悪を集めるような行動をとっていた。
人質、焼き討ち……その悪人的行動は登場したシナリオの数だけ存在した。
王国の面々からしてみれば、蛇蝎の如く嫌っていても当然だろう。
そしてそれを考えていると、セイルからも「ゲオルグを呼ぼう」という気持ちが薄れてくる。
たとえば、ゲオルグを呼んで従ったとして。
目的を果たす為にとんでもない行動をとる可能性が全く否定できないのだ。
そんな者を仲間と呼び心の底から信頼できるだろうか?
あるいは、他の仲間と組ませて行動させる事が出来るだろうか?
……答えは、どう考えても否だった。
「……そうだな。ゲオルグは喚ばない。それが一番無難だろう」
そうセイルが言うと、アミルとイリーナは明らかにホッとした顔をする。
「ゲオルグも帝国の……ヴォ―ダンの命令に従っていただけで本当は良い奴なのかもしれないが。今はそこまでリスクを冒すべき段階ではないだろう」
「はい、私もそう思います」
「同じくです」
やっぱり嫌だったんだな、とセイルは2人の反応の速さに心の中だけで冷汗を流す。
この反応からすると、先程のゲオルグを受け入れるかどうか迷う素振りはセイルに遠慮したものであったようだ。
これがたとえばヴォ―ダンの娘……ヴォ―ダン亡き後に皇帝となる「皇帝ワルキリア」であれば、2人の反応も違ったのかもしれないが……いや、2人を見る限り「その時点」での記憶は無さそうではある。
まあ、どのみちワルキリアは星5なので手に入らないが、その辺りの帝国ユニットや悪人じみた行動をしていない帝国ユニットであればアミル達も受け入れられるかもしれない……とセイルは考える。
ゲオルグは、少しばかり悪すぎたのだ。
「しかしまあ、成果無しというのも寂しいな。もう1回引いてみるか」
「はあ、それは……良いと思いますが」
「ゲオルグで汚れた分、良い武器とか薬が出るかもです」
本当にゲオルグが嫌いなんだな……などと思いながら、セイルは10連ガチャを引く。
ガチャ結果:
アンチパラライズ
鉄の剣(☆★★★★★★)
鉄の剣(☆★★★★★★)
布の服(☆★★★★★★)
ライフウォ―ター
帝国海兵【男】(☆★★★★★★)
ミスリルの斧(☆☆★★★★★)
鉄の斧(☆★★★★★★)
鉄の杖(☆★★★★★★)
ガードウォ―ター
「むっ」
「え……」
「海兵、です?」
帝国海兵【男】。その表記に、セイルはその設定を思い返す。
確か帝国の海軍ユニットがシナリオに登場するのは、ワルキリアが皇帝となった後からだ。
つまり、帝国海軍は「帝国が王国に友好的になった後」のユニットなのだ。
「帝国海軍か……うっすらとだが、協力したような記憶があるな」
「え! 帝国とですか!? 何故そのような事に!」
「確か皇帝の代替わりがあった、はずだ」
セイルも記憶が途切れ途切れになっているという設定なので、思い出すようにそう2人に話す。
そしてそれはカオスディスティニーのシナリオ上では真実であり、そうであるならば海兵はセイル達に比較的友好的であるはずだった。
「……そういうことでしたら、ウルザの時のようにはなりませんね」
「安心です」
「ああ」
言いながら、セイルは帝国海兵のステータスを確認する。
帝国海兵【男】☆★★★★★★
レベル7/20
物理攻撃:450
物理防御:150
魔法防御:50
【装備】
・斧
・服
【アビリティ】
・水フィールドでの行動に補正(極小)
どうやらゲオルグ同様物理方面に……しかも物理攻撃力に偏ったユニットのようだとセイルは判断する。
しかも星1でありながら、如何にも海兵らしいアビリティを持っているのもセイル的に好感度が高い。
まあ、活かす場面がアシュヘルト帝国であるかは分からないのだが、今後を考えると海関連の技能や知識を持っているだろう海兵は必須だ。
何しろ、王国ユニットにセイルの知る限りでは「海兵」は存在しないのだから。
「丁度ミスリルの斧も出た。いい武器を与えてやれるな」
言いながら、セイルはまずは海兵が出た後に与えるミスリルの斧と布の服を強化する。
幸いにも布の服は4つあるので、星3にすることが出来る。
まあ、そこまでしても布の服は所詮布の服なので、良いものが出たらそちらを渡した方が良いのだが……それは今はいいだろうとセイルは頭の隅に追いやり布の服を進化させ強化する。
「よし、これでいいだろう。では、呼ぶぞ。イリーナ、念のためアミルの後ろに下がってろ」
「はいです」
イリーナがアミルの後ろに隠れたのを確認すると、セイルは帝国海兵を呼び出す準備を始める。
帝国海兵【男】を召喚しますか?
そう浮かぶメッセージから「はい」を選択するとカオスゲートが光り……セイル達の前に、一人の男の姿が構築されていく。





