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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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旅立ちの日

 次の日。王都から出る門の近くに、セイル達は居た。

 モンスターの凶暴化が収まったという事で開かれた門近くには然程人の姿はなく、門兵や冒険者と思しき武装した人間の姿がチラホラとあるだけだった。


「ウルザ。こっちの事は頼むぞ」


 セイルがそう言うとウルザは何を当然の事を、と肩をすくめてみせる。


「任されたんだもの。当然、期待には応えさせて頂くわ?」

「ああ」


 ああしろこうしろ、などという指示は要らない。

 そんな微細な指示はセイルも出来ないし、ウルザにも必要ない。

 大きな方針があって、それを伝える。それさえあればウルザは自分よりも上手く動くだろうという確信もセイルにはあった。


「ガレス、オーガン。お前達は護りの要だ。しっかり頼むぞ」

「はい、お任せくださいセイル様」

「ええ、どうぞこちらの事はワシ等にお任せを」


 ガレスは敬礼の姿勢……どうにも抜けないらしくセイルは半分諦めているが……オーガンが肘で叩くと、ようやく敬礼が解かれる。


「俺も、こっちでしばらく鍛え直しますよ。いつまでも敵に矢が通じねえとか言ってらんねえですし」

「ああ。俺も旅先でもっと良い弓が出るように祈りながらガチャを回すとしよう」


 ガチャと聞いてアミルが少し心配そうに身体を動かすのが見えたが、セイルの位置からは見えずにエイスが僅かに苦笑する。


「あー……セイル様もガチャは程々に。心配性がいますからね」

「まるで俺が自制してないみたいな事を言うな」

「いや、それは俺からは何とも」


 心外だ、とセイルは思う。

 仲間とこれからの事を考えて、セイルはこれ以上ないくらいにガチャを我慢している。

 ギリギリの食費だけ残すとか、食費にまで手を付けるとか。そういう類の事は一切していないのだ。

 鋼の自制心だと自分を褒めたいくらいだ。


「お前はどう思う? クロス」

「……ん。もっと引いてもいい」

「聞いたかアミル」

「聞こえません」


 サッと顔を逸らすアミルからクロスへと視線を移すと、セイルは「お前にも期待している」と告げる。


「残るメンバーで一番魔法への造詣が深いのはお前だ。魔法関連の何かが起きた時には、お前とオーガンで連携して動いてほしい」

「大丈夫。分かってる」

「ああ」


 クロスの頭を撫で、セイルは笑う。

 本当に頼りになる仲間達だ、と思う。無尽蔵に資金があれば、もっと軍団規模になるまで引きたいが……この王都ではそうもいかないだろう。

 セイルのガチャは出来るだけ秘匿するべきものだし、そうなると「それ程の人材を何処から引っ張ってきたのか」という問題が加速する。

 

 そういう意味では少しばかり不謹慎ではあるが、今回の帝国への旅路はチャンスでもあった。

 帝国でいい仲間を見つけてきた。そう言い張ったところで、誰がその真偽を確かめられるだろうか?

 アンゼリカから受け取った20ゴールドも、そのほとんどはガチャにつぎ込む予定である。


「……気を付けて」

「ああ、あまり無茶はしないさ」

「そうじゃない」


 安心させるように言うセイルに、クロスは首を横に振って否定する。


「気を付けるのは、そのガチャの事」

「……ガチャに、か?」


 言われた言葉に、セイルは疑問符を浮かべる。

 ガチャ、そしてその力を秘めたカオスゲート。

 これはセイル達の生命線といってもいい。

 それに気を付けろとは、一体どういうことなのか?


 問いかけるセイルの視線にクロスは無言でウルザを指差し、ただそれだけでセイルは理解する。


「ああ、なるほど。帝国のメンバーか」

「ウルザとの事は聞いてる。気を付けて」

「勿論だ」


 ウルザに限らず、「帝国」関連のガチャから排出されるユニットは元敵が多い。

 ウルザの時の事を考えると、同じような事になる可能性も高いだろうとセイルも思う。


「それに、それは何より大事なもの。セイル以外に使えるとも思わないけど、奪われたら大変」

「ああ、分かっている。アレに関しては俺達だけの秘密だ」


 セイルの能力以上に、カオスゲートの持つ能力は破格だ。

 情報管理の基本は必要以上に知らせない事。

 セイルは、自分の仲間達以外にカオスゲートの事を教えるつもりはなかった。


「……さて、では行ってくる」

「はい、ご武運をお祈りします!」


 再び敬礼のポーズをとるガレスをオーガンがドツくが、そんな彼等に頷きセイル達は身を翻す。

 門の前に立つ門兵に挨拶し、門を抜けようとして。


「依頼か? 気をつけてな」

「ああ」


 たいして荷物も持たず身軽なセイル達がまさかアシュヘルト帝国に向かうなどとは思わないのだろう。

 気軽にそんな風に声をかけてくる門兵に適当に挨拶を返し、セイル達は門を抜ける。

 その先にはグミの跳ねる平原と、西メルクトの森がある。

 帝国に行くには西メルクトの森を抜けるか、迂回する街道を通っていく二択がある。

 基本的には森には整備された道はなく、迷う危険性がある為街道を通るのが一般的だ。


「それで、セイル様。どのルートで進まれるんですか?」

「ん、そうだな……占ってみるか」

「占い、ですか?」


 きょとんとした顔をしていたアミルは、セイルが取り出したカオスゲートを見て「えっ」と声をあげる。


「セ、セイル様……?」

「今日の無料ガチャをまだ引いていないからな。これで星3が出たら森を突っ切る。それ以下だったら……街道を行くとしよう」

「一応、理由聞いていいです?」

「ああ」


 イリーナの質問に、セイルはカオスゲートを操作しながら答える。


「森を突っ切れば最短だ。しかし恐らく危険度は上がっていて迷う可能性もある。街道を行けば少し回り道かもしれないが確実に帝国まで辿り着く」

「そうですね?」

「確かに、です」

「つまり、だ」


 セイルの指が、無料ガチャをタップする。


「ここで星3を引く程豪運なら……きっと森も簡単に抜けられるだろう?」


 ガチャ結果:鉄の斧(☆★★★★★★)


「……街道を行くか」


 少し悲しそうな顔でカオスゲートを仕舞って歩き出すセイルにアミルとイリーナは顔を見合わせて笑う。


「セイル様らしいですね」

「です」

「そうか……そう言って貰えて何よりだ」


 帝国への旅路は、何が起こるか分からない危険に満ちている。

 しかし、それでも。この人と一緒なら行けるだろうと。

 そんな事を、アミルとイリーナは考えていた。

ヘクス王国編、これにて完了。

次回より新エピソードです。

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