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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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レア度上げは地獄である。この世の地獄である

「あの……セイル様」

「なんだ?」


 武具店を出た瞬間、恐る恐るといった様子で声をかけてきたアミルへと、セイルは振り返る。


「鉄の剣でしたら、私がお借りしているものがありましたのに」

「ん? ああ……鉄の剣なんて、まだ何本か持っている。気にする必要はない」


 そんなセイルの言葉に、アミルは「え?」と声をあげる。


「そ、それでは……その剣をお売りになればよろしかったのでは」

「それなんだがな……そういうわけにもいかない事情がある」

「そう、なんですか?」

「ああ」


 そう、問題はキャラ、そして装備品の両方に共通するランクアップである。

 

「鉄の剣はな……ランクアップする為にもう1本鉄の剣が必要なんだ」

「は、あ……ですがそれなら、2本ですよね?」

「そこで終わるならな」


 星1の鉄の剣をランクアップするのには、鉄の剣が2本必要になる。

 そうして星2の鉄の剣が出来上がるわけだが、星3の鉄の剣を作るには星2の鉄の剣が必要となる。

 

「分かるか? ちなみに今のお前の鉄の剣が星1だ。最大で星7まである」

「えっと……鉄の剣を星3? にするには鉄の剣の星2、が2本必要なんですよね?」

「そうだ」


 そして、星4の鉄の剣を作るには星3の鉄の剣が2本。

 星5の鉄の剣を作るには星4の鉄の剣が2本。

 星6の鉄の剣を作るには星5の鉄の剣が2本。

 星7の鉄の剣を作るには星6の鉄の剣が2本。

 ここまで鉄の剣をランクアップさせるのに、鉄の剣が64本必要な計算になる。


「ろ、ろくじゅうよんほん……です、か?」

「そうだ。64本だ」


 ちなみにだが、これはキャラでも同じだったりする。

 星1のキャラを星7まで育てるには同キャラが64人必要。

 星5のキャラであったとしても、星7まで育てるには同キャラが4人必要なのだ。

 このカオスディスィニー運営の仕掛けた恐るべき罠に自ら嵌りにいく重課金者は多く、星1のキャラでも育て切ればランクアップしていない星5に勝てる可能性も出てくることから、星1キャラを64体集めてランクアップする豪傑も多数出てきていた。


 しかし、そんなものは時間か金か、どちらかを持て余しているからこそできる事であり……それが現実となってしまった今、何処かで妥協点を見出さなければひたすら続く苦行となりかねない。

 だが、現状では星3までの武器の入手しか期待は出来ない。

 星1の鉄の斧であの反応であれば、武具屋で星4以上に相当する武具を手に入れるというのも現実的ではない。


「……俺達が強くなるには、やはりガチャを引くしかない」


 幸いにも、冒険者ギルドの依頼という金を稼ぐ手段は手に入った。

 その稼ぎで武具以外の必需品を揃えるというのが妥当なところだろう。

 足りなければ要らない武具を売ればいい……が、これは最終手段だ。

 先程の武器屋でのことを考えると、ガチャ産の武器を無暗に売るとロクでもない事になりそうな予感がする。


「ガチャ……明日になれば1回引けるはずだが……」


 言いながらガチャの画面を開き、セイルは気付く。


「ガチャを……回せる……」

「え、そうなんですか?」

「ああ。だが何故……ゴブリンのせいか?」


 周囲に誰も居ない事を確認すると、セイルはアミルを連れて人気のない路地裏まで移動する。


「えーと……1回10ブロンズ? 10連で1シルバー……」


 ガチャ画面には10シルバー30ブロンズと表示されており、その10シルバーが先程の斧の代金であることは分かるが……30ブロンズは何処からきたのか。

 考えて、セイルは一つの可能性に思い至る。


「そうか……ゴブリンか!」


 倒したゴブリンは3匹。1匹あたり10ブロンズを獲得していると考えれば計算は合う。

 となると、冒険者という仕事をしている事はレベル上げ以上に意味が出てくる。


「……アミル」

「はい」

「さっさと買うものを買って森に行くぞ。ガチャの先で、仲間が呼ばれるのを待っている」


 それは聞く者が聞けば、眉を顰める台詞ではあっただろう。

 かつてカオスディスティニーで、同じような台詞を吐いて重課金を超えた超重課金に至ったものがどれ程居たか。

 しかし、アミルにはそんな事は分からない。

 アミルにとって今のセイルの台詞は、敬愛するセイル王子が大切な仲間達を取り戻す宣言をしたということでしかないのだ。

 ならば、アミルの答えは決まっている。


「仰せのままに、セイル様。貴方の行く先……何処までもお供いたします!」

「よし、いい返事だ。なら野営用品と食料だ。全部揃えて行くぞ!」

「はい!」


 野営用品として必要なものは、最低限のものであれば防寒具や布団代わりとしても使える厚手のマント。

 調理用のナイフと、食事用の鍋。硬焼きのパンや干し肉、水、松明やランタン。

 こだわる者であればテントや干しブドウ、ワインなんてものも選択肢に入るだろう。

 しかし、セイルは今回そこまでこだわるつもりはなかった。

 金を使えばガチャの回数に響くし、もっと金を稼いでから良いものを買ったっていい。

 慌てて現在の手持ちでそろえる必要など何処にもない。

 ……という信念のもと、最低限のものを合計2シルバーで揃えきるとセイルは出発の号令をかける。


「よし……出発だ!」


 人気のないところまでいけば、ガチャを引くのもありだろう。

 今度こそ星3。そんな事を考えながら、セイルはアーバルの町を出発した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無一文から色々手に入れていくのはとても楽しい
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