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やがて本当の英雄譚 ノーマルガチャしかないけど、それでも世界を救えますか?  作者: 天野ハザマ


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激震する世界11

 歩き出す。路地裏から抜け出し、セイルとウルザは大通りへと向かっていく。

 変わらず不気味に静まり返った町は赤い月に照らされ僅かに染まり……しかし、聞こえてきた悲鳴に二人は素早く反応する。


「今のは……」

「あっちね。どうする?」

「決まっている。行くぞ!」


 肩をすくめるウルザだが、走り出したセイルにすぐに併走する。


「いいの? 面倒事に首突っ込んでも、ただ面倒なだけよ?」


 面倒事に首を突っ込めば感謝されるというわけじゃない。

 むしろ損になる事だってたくさんあるだろう。

 そうした事を言外に籠めるウルザに、セイルは「分かっている」と答える。


「だが、それでも。助けを求める悲鳴を無視するなら、きっとそれは「俺」じゃない」


 セイルの知っている「カオスディスティニーのセイル」は、そうだった。

 口数は少なくとも、誰かの悲鳴にかけつけるヒーローだった。

 だからこそ、セイルもそうする。そうすることが、今のセイルには当然に思えたのだ。


「……そう。なら、仕方ないわね」


 未だ断続的に響く悲鳴と怒号、そして戦闘音。

 どうやら喧嘩の類ではない。そう直感したセイル達が辿り着いた場所は、町の西門。

 そして……門の内側へと入り込んでいる大量のグミ達と、それと戦っている門兵や冒険者達だった。


「くそっ、なんでグミ共が!」

「ブラックだけじゃねえぞ、イエローもレッドもいやがる……どうなってんだ!」


 凶暴とされるブラックグミだけではない。黄や赤、緑……色とりどりのグミ達が、門から侵入して見つけた人間へと襲い掛かる光景がそこにあった。


「畜生、門を……門を閉めろ!」

「まずは押し返さないとどうにも……ぐあっ!」


 一人の男が頭部にグミの突進を受け倒れる。その瞬間、グミ達が男に集まろうとして、慌てた他の仲間が男を引きずり出す。


「しっかりしろ、死ぬぞ!?」

「ぐう、すまねえ……このお!」


 グミ自体は冒険者や門兵達でも対処できる強さだ。

 しかし、数がとにかく多い。今まで放置しても問題なかったグミ達が、狂ったように襲い掛かってくるのだ。

 こんなことは、今まで有り得なかった事だ。


「なん、だ。これは……」

「呆けてる場合じゃなさそうよ……!」


 目の前の光景を見て呆然としていたセイル達の前にも、イエローグミが凄まじい勢いで跳ねてくる。

 短剣を構えるウルザへと襲い掛かろうとし、けれどその前に踏み出したセイルの一撃でアッサリと両断される。

 ここだけでは終わらない。他の方角でも怒号や悲鳴が聞こえ始めているし、対処しきれないグミ達が町中に入り込んでいるようだ。


「まずは此処をどうにかする。行くぞウルザ!」

「はいはい」


 言うと同時に二人は動き出す。

 現れた新たな人間の姿を認めた付近のグミがセイル達へと跳ね突進するが、その攻撃範囲に入った瞬間に斬り裂かれ地面に落ちる。


 セイルの斬撃は分かりやすい。深々と斬り裂きグミを真っ二つにしていく光景は、近くでグミをハンマーで叩き潰していた男に感嘆の声をあげさせた。

 

 ウルザの斬撃は緻密にして華麗だ。短剣でグミのような「よく分からない生き物」を的確に「分解」するように斬り裂いていく。


「まったく、こういうのは私の役目じゃないと思うわよ!?」

「そう言うな、期待している!」

「ズルいわね、その言い方は!」


 怒涛の勢いのセイル達を脅威と見做したのか一斉に襲ってくるグミ達。

 手数が足りない。一体一体は弱くても、この数は捌ききれない。

 それでも剣をセイルは構えて。

 しかしその瞬間、二人に迫っていたグミ達を炎が焼き風が裂く。

 その二つの現象の発生源には、魔法士らしき二人の男女が立っていた。


「助かった。礼を言う!」

「此方こそ! でも話は後で! 出来ればさっきみたいに引き付けてくれると助かる!」

「そしたら私達がどうにか……正直結構もう限界だけども!」

「期待している!」


 言いながらセイルはウルザに目配せし、ウルザも仕方なさそうに頷く。

 同時に走る先は、門前。

 グミ達を斬り裂きながら走る二人をグミも追いかけ、そのグミに向けて他の魔法士達も魔法を唱え始める。


「集え火の力、焼き尽くす猛火……」

「集え風の力、切り裂く烈風……」

「集え水の力、万物静止す氷の息吹……」


 狙うは、グミ達が集まった時。

 少しでも多くのグミを効果範囲に収めようとし、魔法士達は自分達の信じるタイミングで魔法を解き放つ。


「フレイムピラー!」

「ウインドブレイド!」

「ブリザード!」


 炎の柱が、風の刃が、吹雪が吹く巣のグミを葬っていく。

 そして同時に、魔法士達が膝をつく。


「ぐっ、もう……!」

「魔力が、ない……」


 同じことはもう出来ない。

 魔力の尽きた魔法士達が近くの仲間に引きずられていくのを振り返る事も無く、セイル達は門前へと辿り着く。

 幸いにも門は特殊な手段で固定されているわけでもなく、力さえあれば簡単に閉じる事が出来そうだった。


「ウルザ!」

「はーい、了解……よっ!」


 セイルとウルザは門扉を押し、群がるグミ達を押し返すように一気に蹴り閉じる。

 近くにあった閂をセイルが持ち上げかければ、グミ達は門をドンドンと体当たりして……しかし、打ち破るほどの力は持ち合わせてはいない。


「門が閉じた! 残りも少ない、殲滅するぞ!」


 門兵の声に冒険者達は声をあげ、グミ達を倒していく。

 違う方向でも歓声が上がり始めたのを聞く限り、この騒動もとりあえずの「終わり」が近いのかもしれない。

 その終わりが更なる始まりの合図なのかどうかは……この場の誰にも分からないのだが。

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