第九十三話
「ハ号作戦だが、十一月まで延期出来ないだろうか?」
「堀長官?」
会合も終盤に差し掛かっていた時、堀長官はそう発言した。
「今年の八月に空母信濃が竣工する。慣熟訓練を入れて二ヶ月、それくらいが妥当だと思うのだ」
信濃型航空母艦は史実より早めの昭和十五年に大鳳に続けて起工されて建造中であった。
「しかしな堀、こうしている間にもハワイには敵航空戦力が増えつつある。エセックス級もいつマリアナ方面に来るか分からないんだ。翔鶴の修理が終わってからの方が良いはずだ」
伏見宮は堀長官にそう言った。
「それは勿論分かっておりますが……」
堀長官は釈然としない表情であったがやがて納得した。
「それと、第四次の国債発行をしなければならんな」
吉田茂はそう呟いた。開戦後に三回の国債を発行していた日本であったが、占領地のインフラや兵器の製造等でカネが底を尽きかけていたのだ。
「……一つ案があります」
将樹が何かを思い付いたかのように手をあげる。
「この際、戦争中ですから皇室財産も一時的に凍結して国庫に入れた方が良くないですか?」
『………』
将樹の言葉に山本達は口を閉じた。流石に山本達もそこまでは浮かんでいなかった。
「……陛下は納得するだろうか……」
伏見宮がポツリと呟いた。
「大丈夫ですよ。陛下も今の状況は分かっていますから賛成するでしょう」
将樹はそう確信した。その後、会合は終了して山本が代表として皇居で陛下と面会をして皇室財産の一時的凍結を話すと陛下も賛成をしてくれて予算の作成に皇室財産は一時的に凍結された。
新聞がこれを公表すると、市民も政府に対して「陛下に続け」とばかりに募金をして山本が市民達から募金を手渡される場面もあった。
国債の発行も成立して四回目の国債発行となった。
軍は兵士の慰安のためとして落語家等を戦地に送ったりして兵士の苦労を労ったりしている。
ちなみに内地の基地には宝塚からの歌劇団が慰安訪問をしていたりする。
貧乏ながらも何とか勝とうとしている日本であった。
――二月中旬、ベルリン総統官邸――
「東方地区の開発はどうかね?」
「は、ユダヤ人と『志願』したスラブ人が合同で開発する予定です」
ウラル山脈までを占領したドイツは、東ヨーロッパ平原の開発を急がせていた。更にカスピ海沿岸地域もである。
開発には取り締まったユダヤ人や占領した旧ソ連地域から強制連行した男性スラブ人に当てていた。
志願という形にしているが実際は強制労働である。強制労働されたスラブ人が故郷に帰る事は出来るが脱走をすれば家族や親族はもろとも処刑される事になる。
そのためスラブ人達は泣く泣く働く事しか出来なかった。ただし、ユダヤ人よりかは地位は上でありある程度の自由はあった。
旧ソ連が使用していた兵器工場等は全てドイツが接収してドイツ軍の兵器を生産していた。
勿論、元から勤めていた工員は軒並み徴用されて強制労働されている。
「東方は片付けた。次はイギリスだ」
ヒトラーはギラリと世界地図のイギリスを睨みつけた。
「第二次アシカ作戦の準備ですか?」
「そうじゃない」
ゲーリングの言葉にヒトラーは苦笑しながら世界地図を指差した。
「東方から南下してイギリスが支配している中東を手中に治める」
ヒトラーはニヤリと笑い、ゲーリング達は成る程と頷いた。
「第二次アシカ作戦は海軍力がある程度整ってからだろう。それまでイギリス本土からの空襲に備えるぐらいだろうな」
ヒトラーはそう呟いた。ヒトラーの言葉を聞いたレーダーは内心溜め息を吐いた。
まだ海軍は建設中なため、無理な出撃は控えるべきだと思っていた。
レニングラードに対する出撃はパイロット達の実践経験になるだろうと踏んでいたため反論はしなかった。
そのおかげかは知らないが、パイロット達は実践が付き、更に旧ソ連海軍の艦艇を軒並み接収した。
悩みの種は戦艦等が旧式なくらいだ。改装工事を東方地区の工廠で実施しているが彼女らが実践を経験するのはまだ先であろう。
「イタリアとも協力していくべきだろう。ある程度の役には立つからな」
ヒトラーはそう言ったのであった。
――ホワイトハウス――
「……由々しき事態だな。ソ連がまさか降伏して解体されるとはな……」
ホワイトハウスの大統領室でルーズベルトは吐き捨てるように呟いた。
「まぁ共産主義の輩はいなくなった事にはジェリーやジャップには感謝しなくてはな……」
「……その通りですなプレジデント」
顧問官のハリー・ホプキンスはそう間が空いた形で答えた。
「ジャップの機動部隊は強力だが、此方は量産したエセックス級空母がいる。数で押せばジャップなんぞに負けはしない」
エセックス級空母は史実より多めの三六隻が起工されて更に十二隻が計画中であった。
太平洋方面では既に十隻が配備又は訓練中であり、占領されたフィリピンやオーストラリアを奪い返す気配があった。
「兎に角、急いで奪還作戦をしなければな……」
ルーズベルトはそう呟いた。
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