第九十二話
「クロエッ!!」
将樹は被雷すると、クロエを抱き締めた。命中した海水が上から翔鶴に降り注いで将樹達を濡らす。
「反対舷に注水ッ!! 急げェッ!!」
松原艦長は応急の作業に当たる。翔鶴は右舷の前部、中部、後部に一本ずつ命中していた。
翔鶴は右舷に十五度ほど傾いていたが注水作業によって何とか傾斜は三度にまで回復した。その分喫水線は下がったが……。
魚雷攻撃をしたガトー級潜水艦三隻は爆雷を搭載した瑞雲や彗星、天山、駆逐艦の攻撃によって撃沈されていた。
『艦長、出しうる速度は十五ノットです』
機関長が伝声管で艦長に知らせる。
「よし、全艦速度落とせ。対潜警戒を厳とせよ」
山口中将はそう指示を出した。
一方、将樹達はまだ発着艦指揮所にいた。
「……沈まないよな?」
「あぁ、喫水線は下がったけど傾斜は回復しているやろ」
将樹と桐野少佐は床に座り込みながらそう話していた。
「あ……あのマサキ?」
「ん?」
将樹はまだクロエを抱き締めていたままだった。
「お、おぅ済まん済まん」
「………(声かけるんじゃなかった……)」
将樹は気付いたようにクロエを離すが、クロエはちょっと残念そうな表情をしていた。
「……三発食らったけど大丈夫やな。エンプラを鹵獲して多層式水中防御方式を徹底したおかげやな」
将樹はそう呟いた。史実の翔鶴型は多層式水中防御方式を採用していたが、米軍ほど徹底はされていなかった。そのため、エンタープライズを鹵獲した時、徹底的に研究して改装していたのだ。
その効果が今、発揮されたのである。
「山口長官、GF司令部より入電です。貴艦隊は対潜警戒をしつつ横須賀に帰港せよと」
奥宮航空参謀が山口長官に電文を渡す。
「……やむを得んだろう。全艦、横須賀に進路をとれ。各空母に連絡、爆雷を搭載した天山を二個小隊ずつ発艦させて対潜警戒に当たらせろ」
「了解」
山口長官の命令に奥宮航空参謀は敬礼をして直ぐに指示を出した。
こうして、第二機動艦隊は速度を落としつつも対潜警戒を厳として当たりながら急遽、横須賀基地へと帰港するのであった。
そして被雷した翔鶴は直ぐにドック入りをするのであった。
将樹と桐野少佐はそのまま東京へ向かい、緊急の会合に出席をした。
「翔鶴が被雷したが大丈夫かね?」
「海水は浴びましたが自分はピンピンしてますよ。翔鶴の状況ですが、三ヶ月ほど掛かる見通しです」
将樹は資料をペラペラと捲りながらそう伏見宮に告げる。
「これからの事を考えれば対潜駆逐艦なるものを作らねばならんかもな」
堀長官はそう呟く。隣にいる嶋田も頷いている。
「……そう言えばヘッジホッグを一部の海防艦に搭載していましたね。あれを駆逐艦に搭載したらどうですか?」
イギリス軍が開発したヘッジホッグは日本でも捕獲されたりして一部の海防艦に使用されて実績があった。
本来ならヘッジホッグの大量生産をするべきだったが、予算の都合上(ソ連対策で三式中戦車等の生産もあったため)少数ながら生産されていたのだ。
「うむ、それでいこう。予算の方は何とかしよう」
「陸軍からも回せる予算があるなら回せよう」
山本と東條がそう言う。
「ありがとうございます」
その二人に伏見宮は頭を下げた。
こうして、ヘッジホッグを大量生産し、駆逐艦に配備する事が決定した。
「それで……ハ号作戦の準備はどうなっていますか?」
会合が一段落した時、将樹はそう尋ねた。
「陸軍では兵員は約五個師団、戦車は二個連隊を計画している。それを載せる輸送船も一応は揃えつつある」
東條はそう答えた。
「海軍はミッドウェーを前線基地として使う。翔鶴の修理が終われば何時でも動ける。長門型の改装も終わった事だしな」
堀長官はそう答えた。戦前日本海軍の象徴であった四一サンチ連装砲四基を搭載していた長門型は日ソ戦争前から主砲の交換をしていた。
元は大和型が使用するはずだった四六サンチ連装砲を搭載しようとしていたのだ。
二隻はそれぞれ横須賀と佐世保のドックにて改装工事を行っていたが、それがつい三日前に漸く終わったのである。
この改装工事には大量の工員が召集され、一時は駆逐艦の建造が遅れるほどでもあった。
本来ならもっと工期は掛かるのだが、戦前にある程度の工事をしていて工期を短縮させていたのだ。
なお、陸奥は史実では謎の爆沈をしていたが、爆沈日の六月八日に全戦艦で一斉点検等をして爆沈を避ける動きをしていたりする。
後に、陸奥艦内の当直士官が弾薬庫を警備していると不審な水兵が現れ、その場で拘束して事情を聞くと古参の水兵長達に訓練と称したリンチがあり、それに耐えられなくなって陸奥を爆沈して自分も死のうと証言した。
この証言が出て、GF司令部は私的なリンチは全て軍法会議にする事を発表。水兵に私的なリンチをしていた古参の水兵長達数名は陛下自らが軍法会議を行い、懲役十年の執行猶予無しで刑務所に収監され被害者の水兵には陛下自らが頭を下げて謝罪した。
後に水兵は陸奥から大和乗り組みになる。
「準備は整いつつありますね」
将樹はそう呟いた。
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