第七十九話
――九月上旬総統官邸――
「東部戦線の状況はどうなっているかね?」
「は、スターリンはウラル山脈の要塞に立て込もっております」
「それは一ヶ月前から知っておるッ!! マンシュタインの南方軍集団は何をしておるのだッ!!」
「マンシュタイン元帥は前回のモスクワ戦を教訓としまして全部隊に冬服の装備をしてゆっくりとウラル山脈に前進しております。これはゲリラ対策です」
「………それなら仕方ない………か」
ヒトラーは以前よりかは柔軟な姿勢を取っていた。
これは部下達にはウケていたが。
「総統ッ!! 朗報が入りましたッ!!」
その時、総統室に部下が慌ただしく入ってきた。
「何事かね、騒々しいぞッ!!」
「は、申し訳ありませんッ!!」
ヒトラーの激怒に部下は恐縮する。
「それで何が朗報かね?」
「は、北方、中央軍集団がモスクワを陥落、占領しましたッ!!」
「ほぅ、早いな」
ヒトラーは思わず驚いた。
ヒトラーはモスクワを占領する気はなかったが、スターリンがモスクワを放棄して以降、モスクワ守備隊の士気は大幅に低下していたのでヒトラーはもう一度モスクワ攻略を承諾したのだ。
ちなみに承諾したのは二日前の事である。
北方、中央軍集団に包囲されたモスクワは僅か二時間の速さで白旗を掲げた。
「治安維持を徹底的にするのだッ!! 市民が我々に味方すればゲリラ戦で有利になる」
占領したフランスのパリでは相変わらずレジスタンスによるゲリラ活動があった。
ヒトラーはそれを利用したのだ。
後に、モスクワや各占領都市の治安は向上するのであった。
―――同日ベルリン、海軍総司令部―――
「レーダー元帥、キール軍港から連絡がありました。酸素魚雷の実験は成功のようです」
「そうか。それは良かった」
ドイツ海軍長官のレーダー元帥は部下からの報告に思わず喜んだ。
「それで生産の方は?」
「既に生産を開始しています。来週には四隻のUボートに搭載されます」
「………日本海軍に感謝せねばならんな」
Uボートが主力とも言えるドイツ海軍は、第一次大戦のような海軍の再建を急がせていた。
戦艦はビスマルクやティルピッツ、シャルンホルストとグナイゼナウ等の戦艦はいた。
しかし、巡洋艦や駆逐艦は少ないので建造を急がせている。
Uボートは搭載魚雷の半分を酸素魚雷に更新する予定だ。
日本との技術交換の一環で日本から伊号艦の酸素魚雷が送られた。
ドイツ海軍首脳部は無航跡の酸素魚雷に興味を示して(発射時は航跡が出るが)誘導魚雷と混ぜて正確な魚雷の数を連合軍に読ませないようにした。
後にアメリカ軍とイギリス軍はドイツ軍の酸素魚雷にも悩まされるようになる。
ドイツ海軍は機動部隊を作るために空母グラーフ・ツェッペリンを建造していた。
一時は優先順位があったために建造が中断されたりしていたが、何とか来年には完成する予定である。
「何としてもグラーフ・ツェッペリンを完成させるのだッ!!」
『ヤーッ!!』
レーダー元帥の言葉に部下達は敬礼をした。
「残念ですが楠木少佐はまだ水交社には……」
「そうですか……」
受付の言葉にクロエは視線を下に向けながらそのままフラフラしながら水交社を出た。
「……流石に可哀想になってきたな……」
受付の尉官はそう呟いた。尉官は将樹が宿泊に来ない理由は知らないが将樹が宿泊に来たら必ず会わせようと思っていた。
そして当の本人である将樹が何処にいるのかというと……。
「此方楠木、只今から実験を開始する」
『了解』
将樹は柱島泊地上空にいた。
将樹は操縦桿を倒して操縦する烈風を降下させる。
そして標的艦である駆逐艦矢風に接近して操縦桿に付けられたボタン(人差し指付近に設置)を押した。
すると、烈風の両翼に搭載された噴進弾八発が一斉に発射されて真っ直ぐ矢風に向かい、着弾する。
『全弾命中。お見事です』
「大したことやないよ」
無線手にそう苦笑すると将樹は呉へと機首を向ける。呉には呉航空隊が使用する滑走路があるのだ。
将樹が三点着陸すると堀長官達に出迎えられた。
「実験御苦労だった楠木少佐」
「いえ、自分もたまには操縦桿を握りたいですから」
将樹はそう答える。
「この噴進弾は三式噴進弾として陸海軍で採用する。海軍航空隊も敵艦隊攻撃時に噴進弾で敵対空砲火を撃破して未帰還率を減らせる」
「それとVT信管対策も……」
「うむ、一時的な物は既に各空母に搭載させている。後はVT信管自体を手に入れる機会があればいいが……」
「……無難に考えるとしたら捕獲ですが、そう簡単には行きませんからね」
将樹は腕を組みながら考える。堀長官も同様である。
「……敵艦艇の鹵獲しかないだろうな」
堀長官はそう呟いた。
「ですがそう簡単に上手く行くでしょうか?」
「それが問題だな」
堀長官は溜め息を吐いた。
「まぁ、敵艦隊が来襲したら今は『アレ』で防ぐしかないな」
「そうですね」
将樹は頷き、彗星の両翼に搭載させている噴進弾を見た。
「今は噴進弾の量産を急ぐしかないですね」
「うむ、各部署にそう言っておこう」
堀長官はそう頷いた。
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