第七十七話
「ジャップがソ連に宣戦布告しただと? チャンスじゃないのか?」
キングからの報告にルーズベルトはキングにそう聞いた。しかし、キングは首を横に振る。
「まだ訓練中ですプレジデント。訓練せずに出撃させればソルジャーであるジャップの戦闘機に撃墜されます」
「むぅ」
キングの言葉にルーズベルトは腕を組む。
「我々はまだ動けないということか……」
「現状はそれが最適です」
キングはルーズベルトにそう具申し、ルーズベルトもこれを承認するのであった。
海軍を預かる身であるキングは日本の攻勢のおかげで慎重な性格になっていた。
血気盛んにジャップに反撃をと叫ぶハルゼー中将や若い佐官達を宥めつつ艦隊の増強に勤めていた。
その結果がエセックス級空母八隻、インディペンデンス級中型空母八隻の機動艦隊であった。
更にエセックス級空母十六隻、インディペンデンス級中型空母十二隻が建造中又は訓練中である。(しかも太平洋方面用として)
まさにアメリカの工業力恐るべしであった。
「ハルゼーには今しばらくは玩具を与えて遊ばせてやろう」
キングはそう呟いた。勿論玩具とは機動艦隊の事である。
また、キングはドイツ海軍とイタリア海軍も警戒していた。
「まだ空母は一、二隻しかないがやがては強力な機動艦隊を編成するだろうな。それにドイツ海軍は第一次大戦に大艦隊を保有していたしな」
キングはそう呟くが、彼の視線は太平洋に向けられていた。
「ジャップの機動艦隊は強すぎる。それにジャップの一大拠点のトラックとマリアナには強力な基地航空艦隊が置かれている……不用意に近づけば火傷をするのは我々の方だ」
キングはそう言って置かれていたコーヒーを飲んだ。
――ベルリン総統官邸――
「三国同時作戦は成功しているようだな」
「は、極東のヤーパンも満州の国境線にあるソ連の都市をほぼ占領したようです」
「うむ、それは良い事だ」
ヒトラーは部下からの報告に満足そうに頷く。
「イタリア軍はどうかね?」
「は、イタリア軍も部隊はベテランで固めているのか士気は高いようです。我がドイツが譲渡した四号戦車やパンター、日本から輸入したタイプ97スペシャルを使用して快進撃のようです」
「そうか、補給だけは怠らせるな」
「ヤー」
ヒトラーは補給の偉大さを今更ながら実感していたのだ。
「それで海軍はどうかね?」
「は、小型空母ですが漸く就役して機動部隊の空母は二隻になっています。それに建造中のグラーフ・ツェッペリン級空母は来年にまでに竣工予定です」
レーダーがヒトラーにそう報告する。
「うむ、ドイツは是非とも海軍を復活させねばならん」
陸軍、空軍優先だったヒトラーは少しずつ頭を変えて海軍を優先するようにしていた。
「軍を維持するのに陸海空は必要だ。どれか一つを軽視すれば国は破滅する」
ヒトラーは最近そういう風に考えていた。そして海軍国でもあるイタリアや日本に大量の水兵や佐官、尉官を派遣したりして海軍の復活を少しずつさせてきた。
また、日本からも軽巡等の売却を求めたりして日本側も旧式ではあるが軽巡の川内型の売却を決定している。
日本も軽巡は阿賀野型を四隻から六隻の建造を決定し、十五.五サンチ連装砲四基、防空を強化した改阿賀野型の四隻の建造も決定している。
「陸空は我々は日本に勝っているが海は日本が勝っている。この際、日本への差別は無しにするべきだ」
ヒトラーはそう考えた。一方、日本でも艦艇の売却は伝えられていたが、ヒトラーが考えたのではなくレーダーが思案して交渉していると考えられていたりする。
その頃、将樹と桐野少佐は中島航空会社にいた。
「見たまえ楠木少佐ッ!! 遂に……遂に日本に超重爆が完成したぞッ!!」
中島社長(今は元大臣)は狂喜乱舞しながら二人を案内した格納庫で叫んでいた。
「こ、これが……」
「……富嶽……」
二人がいる格納庫には六発戦略爆撃機として開発された富嶽が鎮座していた。
「最大速度は六二七キロで爆弾搭載量は十二トン。航続距離は一万二千キロだ」
「………作れたんですね」
「あぁ、試作機は二機で既に三機が生産されている。何せ大型爆撃機だからな中々生産は出来ないんだ」
「予定より早くに出来ましたね?」
将樹も桐野少佐もZ計画の事は知っていた。
むしろ、将樹は発案者(計画を知らした)と言っていい。
「ドイツから技術者を出向させてもらったりしてカネにカネをかけたからな」
中島社長は苦笑する。
「今のところはハワイを占領してから富嶽をハワイに進出させて西海岸を爆撃する………という構想が海軍内である。山本さんも富嶽の生産は賛成している。そのおかげで縮小して生産していた一式陸攻、九七式艦攻、九九式艦爆、零戦二二型、三三型は生産が中止されて富嶽の生産を優先するようにしている」
また、陸軍でも同様の事が起きており、九七式重爆、百式爆撃機『呑龍』、九九式襲撃機等の生産は中止されて富嶽の生産を急がせていた。
唯一、飛龍だけは縮小されての生産となっている。
「………それだけ上層部も本気だという事ですね」
「その通りだ」
「ところで、名古屋の工場移転は順調ですか?」
将樹は中島社長に訪ねた。
1944年に東南海地震が起きるので、名古屋付近にある軍事工場は内陸部へと疎開をポツポツとしている。
「大丈夫だ、工場は主に、岐阜、長野、滋賀に疎開している」
「それなら一安心です」
将樹はホッとするように言った。
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