第六十七話
――五月中旬、ベルリン総統官邸――
「今こそッ!! 今こそ独日伊、三国の力を合わせてソ連を討つべきだッ!!」
総統官邸でヒトラーは部下達に向かって吠えていた。
「既に新たに編成されたイタリア軍七個師団がマンシュタインの指揮下に入っている。それに東方の日本は満州からシベリア方面にかけて進撃すればあの銀行強盗も必ず屈伏するはずだッ!!」
ヒトラーの熱弁を聞いていた部下が一歩前に出た。
「ですが総統。対独武官の日本陸軍の佐官からの話では漸く我がアハトアハトを搭載した重戦車が出来たようで満州に配備するのは時間が掛かるようです」
「何? 我がドイツがあれほど工作機械を送っておきながらまだ生産しておらんと?」
ヒトラーがジロリと反論した部下を睨む。
「そ、その日本はアメリカとも戦争をしておりますので海軍重視の戦争をしなければならないのです」
部下は脇に大量の汗をかきながらヒトラーに報告する。
「むぅ……確かにアメリカを押さえるにはあの海軍力が必要だ……」
ヒトラーは腕を組みながら天井を見上げる。
「……宜しい。少し時間を待ってみるが日本側の回答も聞きたい。日本に三国共同進撃を打診するのだ」
「ヤーッ!!」
部下達はヒトラーに敬礼をした。
――五月下旬、東京――
「三国によるソ連同時侵攻作戦……ですか」
久しぶりに開かれた会合で将樹はそう呟いた。
「ドイツは北アフリカの戦力を東部戦線に注ぎ込んでソ連を討つらしい。イタリアも七個師団を派遣しているみたいだ」
東條がそう報告する。
「だが対ソ戦は一歩間違えば史実と同じになるぞ。それに今の満州の関東軍はソ連に対して守勢で応じるのじゃないか」
吉田茂が葉巻を吸いながらそう反論する。
「いえ、関東軍は基本的には守勢ですが攻勢する場合の作戦も考えている。それにいざ対ソ戦になってもウラジオストクや北樺太、カムチャッカ半島等の沿岸州域を占領すればいい。後は戦力を整えて守勢に回れば問題ないはずだ」
杉山は吉田に反論する。
「……いつかは打診されるとは思っていたがまさか三国共同進撃とはな……」
伏見宮はそう呟いた。
「満州の陸軍配置はどうなっているかね?」
山本首相が東條に聞いた。
「戦車師団が二個と三個連隊。兵力は満州軍と合わせて約百二十万。中国に要請すれば百八十万に上るだろう。航空機は約三千機が配備している。ニューギニア航空戦には巻き込まれてはいないからな」
東條はそう言った。
日本軍は史実の支那事変やソロモン諸島の消耗戦のような戦いはしておらず、大多数のベテランがまだ存命していた。これにより海軍は史実と同じく基地航空隊を主体にした航空艦隊を創設しており、トラック諸島とマリアナ諸島に第一航空艦隊、第二航空艦隊が駐留していた。
更に本土航空艦隊として第三航空艦隊と第四航空艦隊が内地に駐留し、第五航空艦隊、第六航空艦隊が編成途中であった。
また内地には陸海軍の本土航空隊も創設しており、局地戦闘機の雷電等が多数配備されている。
「東條さん、もし共同進撃をするならばいつ頃が良いですか?」
将樹はそう東條に聞いた。
「……良くて八月くらいであろう。そのくらいなら満州には三式中戦車が大量に配備されている」
東條はそう返答した。
「なら……やるしかないです。ドイツから誘導弾の技術提供も交渉しているんです。これが無しにされたらかなりの痛手です」
陸海軍は対空、対艦誘導弾としてドイツからV2等の誘導弾の提供を求めていた。
これが反故されるとかなりの痛手になるのは確かだった。その理由はまた後に語る。
「……三式中戦車生産と配備の時間を稼ぐ。八月までとする。良いな?」
『………』
伏見宮の言葉に皆は無言で頷いた。
「海軍は陸軍の支援のために資源の分配を陸軍に与えよう」
「ありがとうございます」
伏見宮の決断に東條達陸軍の者は伏見宮に頭を下げた。
「それに海軍も潜水艦の配備を急がせないといけないからな。水上艦の建造は少し遅らせる」
新型潜水艦の配備は遅れていた。そのために水上艦の建造を遅らせて、資材は陸軍に提供して工員を潜水艦建造に振り分ける事にしたのだ。
「貧乏な日本では仕方ないですよ」
「アメリカの工業力が羨ましいものだな……」
駐米経験がある山本はデトロイトの工場を思い出しながら溜め息を吐いた。
「ならば海軍もウラジオストク攻略等を思案せねばならんな」
嶋田次官はそう呟いた。
「それは有りがたいですが、敵機動部隊は大丈夫ですか?」
東條は嶋田次官に聞いた。ハワイは欺瞞作戦をしていたが伊号潜水艦からの報告でエセックス級空母が五隻に増えていた。
「やはり水上艦の建造は遅らせない方が……」
「いやいや。それは畝傍型重巡であり信濃や雲龍型の建造はこれまで通りに進める予定です」
嶋田次官はいい忘れていたように言う。生産性と防御性がある畝傍型重巡は六隻が建造しておりうち二隻は竣工していて残りの四隻はまだ建造途中であった。これの建造を一時中断する事なのであった。
「いやいやいらぬ心配を与えたようですみませんな」
『ハハハ』
嶋田次官の謝罪に皆が笑った。
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