第六十三話
桐野イベントは此処で終わりです。
「さぁやるのだ同志ヤキーワン」
隊長は高圧的な態度でナターリャに命令をする。
「………」
ナターリャが桐野少佐に手を伸ばそうとした時、ナターリャは手を止めた。
「何をしている同志ヤキーワン?」
「……同志隊長、私には……出来ません」
ナターリャは拒否をした。
「……何だと? 貴様言っている意味が分かっているのか?」
隊長はナターリャに言う。
「はい」
ナターリャは隊長の視線に怯える事なくそう言った。
「……飛んだ無駄足だったな。ならば……」
隊長はそう言って懐からトカレフTT-33を出してナターリャに突き付けた。
「貴様の家族が待つあの世に送ってやる」
「ッ!? 家族が待つ……まさか」
「その通り」
隊長はニヤリと笑う。
「貴様の家族は既にシベリアで死んでいる。お前を生かしているのはスパイとしての役目だ」
「そんな……」
隊長の言葉にナターリャはそう呟く。
「信じられないだろうな。しかも殺したのはこの俺だ」
隊長が笑う。
「クックック、貴様にも見せてやりたかったぞ。苦しみながら死んでいく貴様の家族の苦痛をなッ!!」
「……この悪魔がッ!!」
ナターリャはそう吐き捨てる。
「フフフ、何とでも喚け」
隊長は引き金を引こうとした。
タァンッ!!
食堂内に銃声が響いた。
「………」
痛みが来ない事に不審に思ったナターリャが目を開ける。
「ぐッ!!」
そこには左肩に弾痕がある隊長がいた。
「五月蝿いから起きたじゃないか」
桐野少佐がコルトM1903で隊長を撃ったのだ。
「ツヨシさんッ!!」
ナターリャが叫び桐野少佐に近寄ろうとする。
「御早うナターリャ。悪いが全て聞いてた」
「………」
桐野少佐の言葉にナターリャは駆け寄る事が出来なかった。
「話は後だ」
桐野少佐はそう言う。
「おのれヤポンスキーがッ!! この数で勝てると思うのかッ!!」
食堂の入口から続々と諜報員が拳銃を構えて入ってきた。
「……これはヤバいな……」
流石に桐野少佐は冷や汗をかく。
「さぁヤポンスキーッ!! 死にたくなかったら軍の情報を渡すのだッ!!」
隊長が左肩を押さえながら叫ぶ。
「……断るッ!! 貴様らのハニートラップに掛かっても俺は日本帝国陸軍軍人だッ!!」
桐野少佐はそう叫んだ。
「……ならばヤキーワンと共に死ねェッ!!」
隊長が叫んだ時、軽機関銃の銃声が響いた。
それは入口にいた諜報員を撃ち倒していく。
「なッ!?」
「我々は日本軍だッ!!」
入口に戦死した諜報員を踏みながら将樹と辻中佐、兵士達が食堂に入ってきた。
「将樹ッ!! それに辻中佐ッ!!」
「……やはり情報は本物だったようだな」
食堂の状況を見た辻中佐が呟く。
「大人しく手を上げろッ!!」
将樹がコルトM1903を構える。
兵士達も九九式小銃や九九式軽機関銃を構える。
生き残っていた諜報員達はジリジリと端に寄せられる。
「ぬぬ……こうなればヤキーワンだけでも道ずれにしてやるッ!!」
隊長は叫んでトカレフTT-33をナターリャに構えた。
「ナターリャッ!!」
咄嗟に桐野少佐がナターリャを庇おうとする。
タァンッ!!
また銃声が食堂内に響いた。
「ぐおぉぉぉ〜ッ!?」
倒れたのは隊長だった。
「大丈夫か桐野少佐?」
撃ったのは将樹だった。
「大人しく手を上げろッ!!」
辻中佐の警告に諜報員達は拳銃を落として両手を上げ、兵士達が諜報員達を拘束した。
「……怪我は無いかナターリャ?」
「は、ハイ」
桐野少佐に抱かれたナターリャはそう答える。
「これで新京にいるソ連の諜報員も摘発出来るな」
辻中佐は嬉しそうに言うが、ナターリャに視線を向けると表情を変えた。
「……ナターリャ君、君は残念だよ」
辻中佐はゆっくりとコルトM1903を構える。
「辻中佐ッ!?」
桐野少佐が驚く。
「待って下さい辻中佐ッ!? 彼女は確かにソ連の諜報員でした。ですが……」
「言い訳無用だ。諜報員である時点、死ぬ覚悟はあるはずだ」
辻中佐はそう言う。
「ですがッ!!「いいんデスツヨシさん」ナターリャ……」
「確かに私は家族を人質に取られてスパイをしてまシタ。隊長にツヨシさんを身体で落とせと言われましたけど出来ませんデシタ」
ナターリャはそう言って桐野少佐を見る。
「貴方と話していて分かったんデス。私は貴方の事が好きダト。最初は任務のためと割りきってましたケド、貴方の嬉しそうに話す顔が脳裏に浮かんできまシタ。だから、私は貴方に何も出来なかっタ」
「ナターリャ……」
「だから……今言わないと後悔シマス。私はツヨシさんが大好きデシタ」
ナターリャはニコリと桐野少佐に笑った。
「……話は終わりかね?」
律儀に終わるのを待っていた辻中佐が口を開く。
「ハイ」
「そうか……」
辻中佐はコルトM1903をナターリャに突き付けた。
「ナターリャッ!!」
タァンッ!!
三度、食堂に銃声が響いた。
「……何故外したんデスカ……」
ナターリャは死んでいなかった。ナターリャの右頬から血がつうっと流れている。
「……ナターリャ・ヤキーワンはソ連の諜報員の銃弾が命中して出血多量で亡くなった。そうだなッ!!」
『はいッ!! その通りでありますッ!!』
辻中佐の言葉に兵士達が叫ぶ。
「辻中佐……」
「ナターリャ君、私に出来るのは新しい戸籍を用意するまでだ。後は自由だ」
辻中佐はニヤリと笑う。
「(……辻中佐が男前に見える……)」
史実の辻中佐を知っている将樹は内心驚いている。
「……あ、ありがとうございます辻中佐ッ!!」
事態を理解した桐野少佐が辻中佐に頭を下げた。
「フフフ、それでは基地に帰るとするか。明日は店長に謝らないといけないしな」
辻中佐はそう言った。
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