第百八話
――作戦室――
「皆、この作戦をどう思うかね?」
「こ、これは……」
「何と言う大胆な……」
通信紙を読んだ参謀達がざわめき出す。
「長官、これは是非やるべきでありもすッ!! 此処を破壊すれば米大西洋艦隊はホーン岬から来なければなりもす。それならばやるだけの価値はありもす」
首席参謀の神大佐が賛成を示した。
「私も基本的には賛成だ。しかし、米軍も此処の守備は厳重なはずだ。安易な気持ちで行けば史実のミッドウェーになるかもしれんぞ」
寺岡参謀長は賛成としつつ慎重な意見を出す。
参謀達も賛成と反対が半々であった。
「……豊田長官、官邸にいる山本さんは何と言ってるでありもすか?」
不意に神大佐が堀長官に訪ねた。
堀長官は最初に言ってから何も言ってはいなかった。
「……山本はやってみる価値はあると言っておる」
『……………』
参謀達は堀長官に黙る。
「軍令部は何と?」
寺岡参謀長が訪ねた。
「……我々GF司令部の判断に任せるとの事だ。向こうもこれは考えてなかったみたいだ」
堀長官はそう言って席を立つ。
「……諸君、これはやってみるべきだ。此処を破壊すれば少なくとも米軍は西海岸への支援は大陸からとなる」
堀長官は世界地図のある場所を見た。
「……破壊しよう『パナマ運河』をッ!!」
堀長官の言葉に参謀達は頷いた。
――第二機動艦隊旗艦翔鶴――
「楠木、作戦は承認されたぞ」
「ほ、本当ですか?」
山口長官の言葉に将樹は若干驚いた。
「ハハハ、楠木でも驚く事はあるのか」
伊崎参謀長が笑う。
「そりゃあ自分も人間ですからね」
将樹はそう言って世界地図のパナマ運河を見た。
「パナマ運河を破壊すれば米大西洋艦隊はホーン岬からでの航路でしか太平洋には来れません。早めに攻撃をしなければなりません」
「うむ、出撃は2000だ。空母は応援として第一機動艦隊から銀鶴と第三機動艦隊から飛鷹と隼鷹が配備される」
「有り難い事ですね」
「あぁ、高速タンカーも十六隻が臨時に配備される」
本来なら、この高速タンカーは第一、第三機動艦隊の腹を満たす油を搭載していたが、急遽パナマ運河攻撃作戦が決定されたので第二機動艦隊に回されたのだ。
このままだと第一、第三機動艦隊の艦艇は腹を空かした状態になるが、幸いにも真珠湾の燃料タンク群は半分ほどが無事であった。
これはどうせ占領するんだから無傷で手に入れて使わせてもらおうと、わざと第二機動艦隊の攻撃目標から外れていたのだ。
その後の空襲も燃料タンクだけは被害を免れており、第一、第三機動艦隊の首は何とか残ってるのだ。それでも米軍が山岳地帯へ撤退する時に行われた破壊工作で半分ほどの燃料タンクは破壊されていた。
それにオアフ島の戦場も市街地から山林の方へと移動していて、真珠湾軍港周辺は完全に日本軍の支配下に置かれていた。
そのため、第一、第三機動艦隊は安心して燃料補給を受けられるのだ。
「燃料タンクを攻撃しなくて良かったよほんまに……」
将樹は無事の燃料タンクを見ながらそう呟いた。
「此処にいたのか将樹」
そこへ桐野少佐とクロエがやってきた。
「マサキも中々の発案をするわね。まさかパナマ運河を攻撃するなど……」
「ハハハ、いやなに……(まさか紺碧○艦隊のネタからだと決して言えないよな……)」
将樹は心の中でそう思った。
そして準備が完了した第二機動艦隊は2000に密かに真珠湾を出撃したのである。
オアフ島を密かに出撃した山口多聞中将の第二機動艦隊は十五日ほどでパナマ沖東約六百キロの地点に到達した。
「何とか発見されずに此処まで来たな……」
山口多聞中将は前方の海面を見ながらそう呟いた。
「ですが油断は禁物ですよ長官」
「うむ、それもそうだな」
伊崎参謀長の言葉に山口長官は頷いた。
「山口長官、攻撃隊の発艦準備は完了しました」
そこへ、飛行甲板にいた将樹が艦橋に入って山口長官に報告してきた。
既に翔鶴の飛行甲板には発艦準備を整えた烈風、彗星、天山が噴進弾、爆弾、魚雷を抱えて整列をしていた。
「よし、第一次攻撃隊発艦せよッ!!」
「了解ッ!!」
山口長官の命令は発光信号で各空母に伝えられて飛行甲板に整列していた第一次攻撃隊は先頭の烈風からプロペラを回し始めた。
そして発着艦指揮所から青いランプが点灯した。
翔鶴の烈風隊一番機が発艦用のロケット推進器を使って発艦をした。
それに続いて二番機が発艦していく。
その光景は各空母でも同様の事であった。
烈風隊が発艦すると、五百キロ爆弾を搭載した彗星隊が発艦していく。
彗星隊は五百キロの荷物があるため、烈風よりかはゆっくりと上昇して車輪を格納して高度を上げていく。
彗星隊の発艦が終わると最後は魚雷を搭載した天山隊だった。
魚雷が八百キロあまりあるため、天山隊は彗星隊よりゆっくりと上昇して車輪を格納している。
攻撃隊は烈風七二機、彗星七二機、天山七二機となり攻撃隊指揮官は村田中佐となっている。
「……さて」
攻撃隊を見送っていた山口長官は後ろを振り返って海図を見た。
「引き続き第二次攻撃隊の発艦準備と発艦を開始せよ」
「分かりました」
奥宮航空参謀は頷いた。
「第二次攻撃隊の発艦準備急げェッ!!」
翔鶴整備長の声が格納庫内に響き渡る。
整備員と手が空いた対空火器員が合同で第二次攻撃隊用の機体をエレベーターにまで押していく。
チンチンチンとエレベーターのところで固定した烈風が飛行甲板に上げられていく。
整備員達はそれを見届ける事なく新しい烈風を持って来るのであった。
一方、第一次攻撃隊は高度四千で飛行をしてパナマを目指していた。
「後四五分で到着する予定です」
「分かった」
偵察員の言葉に村田は頷いた。
「(まさかパナマまで攻撃する機会があるとはな……まぁ何時も通りに暴れればいいだけだ)」
村田中佐は内心そう微笑んだ。
『村田総隊長、カタリナを発見した。一時下方だ』
その時、制空隊隊長の進藤少佐の烈風がバンクをした。
「敵は気付いたのか?」
『いや、気付けば逃げるだろうがまだ気付いてはいません』
「よし、一個小隊で撃墜しろ」
しかしその時、カタリナも気付いたのか右へ旋回して遁走に入った。
『カタリナが遁走したが……』
「今さら追いかけても仕方ない。このまま進もう」
村田は進藤少佐にそう言った。
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