一緒にお風呂
すっかり日が暮れた。夜空にお月さまみたいな星が5つ並んで見える。
不思議だ。
カチャリと音がして、猫もどきがサッパリして戻ってきた。
「いい香り~」
どうやらお風呂に入れられたようだ。
猫もどきなのに、お風呂好き。地球の猫は、水嫌いだから、ちょっとびっくり。
綺麗になったところで、また外へこっそりと抜け出し、夜の闇に消えた。
「せっかくお風呂に入ったのに」
わざわざ夜に行くことないのにと思う私に、猫もどきは知らん顔。
タコ女が扉の前で溜息を吐きつつ、私とラーティを持ち上げた。
「あれ?私もお風呂?」
「そうみたいだね」
ラーティもお風呂が好きらしく、喜んでいる。
タコ女に連れられて行ったお風呂は、広くて天井が高い。
浴室前で、ガラス越しから覗いて驚いた。
まあ、タコ女もイカ男も背が高くて大きいから仕方がないけど、広い。
普通に浴槽に入ると溺れると思う。高くてひとりでは、登れない浴槽だけど。
大丈夫かしら?
そんな事を考えつつ、ワンピースを吸盤が器用に脱がせてくれる。
「・・・・・」
タコ女が何か言っているが、分からないので、とりあえず、溺れないよう
お風呂場に足を踏み入れても動き回らないように待っていた。
石鹸も大きいなあと触っていたら、急に持ち上げられ、
ペット用のお風呂、たらいの中に入れられた。
お湯を身体に掛けられ、温かいなあと足を伸ばしていたら、
「いい湯だね」
と、笑顔でラーティが足を入れてきた。
ニコニコ笑顔で。
「え?何故ラーティが?」
「僕も一緒にお風呂入るためだよ」
タコ女が、たらいの中へお湯を注ぎ入れる。
いつの間にか、肩までお湯が張られていた。
「どうして?」
「どうしてって、タコ女が俺の服も脱がしてくれたよ。今、一緒に
お風呂場へ入って来たところ」
私達の横では、タコ女が今から彼らの浴槽へ入るところだ。
バシャアン。
タコがお湯の中に入って、茹っている。
「茹ったタコ?」
「ははは、まあ宇宙人だから大丈夫みたいだね」
「宇宙人もお風呂入るんだね。気持ち良さそう」
「それなんだけどね。お風呂好きな宇宙人はいるみたい。TVで温泉シリーズやってたよ」
「へえ、温泉」
なんて、仲良く会話をしている場合ではない。これはいわゆる混浴状態。
たらいの中、男女が肩を並べてくっついているって、恥ずかしいじゃない?
「混浴だね」
「ラーテイ、嬉しそうだね」
「うん。僕、地球人の女性と混浴は初めて」
隠すものがないから、お互いが全身丸見え。
手で隠せるものではない。
「凄いね。バストサイズがBからFかあ。そのサイズがFなんだね」
見ているところがやはり胸。お湯に浮いてる感じだものね。
自分で見ても、大きくて驚き。
Bの頃は、お椀サイズで、水着着てもそれほど見られることもなかった。
大きくなったことで、ここ数日少し苦労していることがある。
肩が痛い。胸の重力が結構あるのだ。前かがみな感じになるので、背筋を伸ばそうと
して、肩が疲れる。胸を固定出来れば、まだ楽だと思うので、ブラが欲しい。
ブラがないと普段から揺れるので、それも苦痛だ。
少し走ろうにも固定しているブラがないと、胸がぶつかる。胸の揺れで、胸と身体の
付け根が痛い。
そんな苦労も知らず、彼はにっこりと笑顔で、白くてモチモチ感たっぷりのメロンを眺めている。
ジロリと視線を送ると、肩を竦めて苦笑している。
「仕方ないよ。僕は男だからね」
頬を赤らめているイケメンもいいかもと思いながら、
「そうですか」
と返しておきつつ、顔を手で押しやり、見ないように反対側へ向けさせた。
風呂場で欲情されたら、タコ女が見るに決まっている。
絶対に阻止しなければ。
ペットショップの時よりも、自然に入れて気持ちよくて眠気が誘う。
舟をこいでいたはずだ。覚えがないが。
あまりにも自分、無防備過ぎた。
さわさわと何かが身体に触れてくるので、ようやく眠気が醒めてきた。
ハッと気付くと、ラーティの膝の上に乗って、彼の肩に後頭部を乗せて寝ていたようだ。
さわさわしていたのは、彼の手が身体中を擦っていたからだと分かった。
水中に視線を落とすと、太ももに触れていた手が、腰や胸の辺りへと動き回っている。
「ラ、ラーティ」
「ん?気持ちいいだろ?」
その言葉に赤面しながら、天井を見上げてタコ女とイカ男の視線とぶつかった。
「イカ男がいる」
「うん。君が眠っている時に、入って来たよ」
「手に持っているのは?」
「ははは、ビデオカメラだね」
バシャバシャとお湯しぶきを上げて、イカ男のビデオカメラに向かってお湯を放つ。
イカ男は慌てて、ビデオカメラを上へ持ち上げ避難させた。
タコ女は、笑っている。
「ラーティ。撮影されてるなら、早く教えてよ」
「ははは」
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実は、彼らはヤヤコとラーティが、仲良く2人でいるところをよく撮っている。
それをリビングで仲良く夫婦で見ているので
ラーティは自分も付き合って、見ている。
自分達の記録を見るのが楽しみだということは、ヤヤコには話していない。
さらに、彼らは写真も撮っている。
宇宙人の写真は、地球の写真と異なり、空中に画像を浮かび上がらせるという
3Dのような立体感がある。
ここへ到着したばかりのヤヤコの全身。
寝ている姿とか、可愛い姿勢のものとかイカ男が隠れて撮っている。
ヤヤコは知らないが、たらいのお風呂で寝てしまって沈みかけたところをタコ女が
慌てて助け、イカ男がその裸体をカメラに収めたので
今日の夜には、リビングで夫婦で今日の地球人鑑賞会で見るだろうから
楽しみだ。
ヤヤコは、身体を拭かれ、髪もタコ女に乾かせてもらい、パジャマドレスを着せさせられると
走ってペット部屋の個室へ逃げた。
そのパジャマドレスは、可愛いピンクのデザインだが
太ももまでしか生地がなく、下着がないことで
いろいろと見えてしまうからだ。
下着が欲しいと伝えられないもどかしさ。
面白い服は、どこで手に入れるのか分からないが、タコ女はヤヤコにいろいろな服を買い
着せ替えを楽しんでいる様子。
タコ女は、イカ男に
「地球人の女の子は、恥ずかしがり屋さんね」と言っていたことは内緒だ。
きっとまたヤヤコは恥ずかしくて、シーツを被って、ジタバタするだろうから。




