クマさんはとってもタフネス
ガバガバ設定により、ワンの存在がおかしな事になってしまってますね。すいません。あちこち修正中です。
ワンの祖先→自然に湧いて出た強大な2匹の魔物。時を経へて魔族へと昇華。魔王の祝福を受けるべく北の台地へ→無事に魔王の眷属となり、子を生み増えてフェンリル一族と呼ばれる様になる。その子どもがワンです。
精霊たちにとっては魔族も魔物も聖力を受け入れない、狭き者なので等しく魔なる者は嫌いなのですが、その辺りは本編でそろそろ触れるかと思います。
以上、追記でした。
手入れなんてほとんどされていない山道。
魔物の影響なのか、単に雨風に晒されたのか。直撃したら即死レベルの落石がそこかしこに転がっているその道をいつも通り特に揺れなく登っていく。いや、いつもよりは多少揺れている気がするけれど……でもやっぱり不自然なほどに快適な乗り心地だ。
ぐねぐねとした道のせいで、全然登っている実感の湧かない道をひた走り、もうそろそろ三十分くらい経った位だろうか。
ギルがバイクを止め、私も遥か前方を注視すると……巨大な熊が居た。そして、こちらに気が付いたのだろう。後ろ足で立ち上がり、臨戦態勢をとる。
熊っていうだけで恐怖なのに、動物園で見た熊より遥かに大きくて、おまけに腹から胸元までがキラキラ輝いていて……どうやら鉱石で覆われているようだ。
なるほど、ベアーパワーで超タフネス。しかもベアークローで攻撃力高めでお腹の鉱石で防御力増し増しなんですね、分かります。
「マカライトベアかー。ちょっと危ないし掃除しておこうかな。シュナちゃんはシルフィと待っててね。すぐ帰ってくるよ」
皿はオレが洗っておくねと、以前一緒に暮らしていた時のような気軽さでギルはヘルメットを外し、トコトコと熊の方へと歩いていく。
「ギル!」
「大丈夫だよ」
私の声に、ギルは軽く片手を上げて見せてから外套の下から最初に見た銃を取り出し、左手でひょいひょいと弾を詰め替えながら熊へと近づいていく。
看板の警告によってヒト族が出入りすることはほぼ無いのだろう。
突然現れたヒト族……。彼らにとっての主食となるもので、それが無防備に歩いてやってくる様子にマカライトベアは歓喜の雄叫びを上げてギルへと襲い掛かるべく駆け出した。
それと同時にマカライトベアの胸元を覆っていた鉱石の鎧から弾丸が打ち出され、あちこちに飛び散る。どうやら、銃弾のように自在に打ち出せるようだ。
いやそれ、鎧じゃないんかい!!!!!と心の中で盛大に突っ込む。
どうやら攻撃も兼ねる優れものだったようだ。
こちらにも流れ弾が飛んできたようだが、私よりだいぶ離れた位置で見えない壁により弾かれていたので、先程、ボタンに仏頂面で座った妖精さんの防御壁だと思われる。シルフィちゃんつよい。
当のシルフィちゃんは、ウキウキとした様子でギルを見守っており、小さな羽根が興奮で小さく震えている。かわいい。
一方で狙われたギルはというと、一撃ももらっていない様子。
まるで踊っているかのように軽やかに地を蹴って弾丸の雨を避け……巨大な熊の頭上をくるりと飛び越える。
一瞬見失ってキョロキョロするマカライトベア。気がついて後ろを振り返ろうとしたが、もう遅い。
鉱石に覆われていない背中にギルの一撃。
少しの間があって、熊の巨体がズシンという鈍い音と共に沈んだ。
「頭じゃなくて背中を一撃……。さっすがギルよく分かってるう」
胸元から天使のように小さな可愛い声が聞こえてきて、私は頭をぐいっと下へ向けた。
「シルフィちゃん……?」
「何よ」
初めて口を聞いてくれたシルフィちゃんは、ものすごく嫌そうな顔をしていたけれど、はちゃめちゃに可愛いお顔だったので、私的にはごほうびです。
「撃つのは頭より背中のほうがいいの?」
そう聞いている間にも、ギルはマカライトベアの近くへ寄り、ひっくり返して仰向けにしていた。あんな巨グマを軽々と……。力持ちの推し恐るべし。
私の質問に、シルフィちゃんは小さいけど長い腕を両方上げて、呆れたような顔をして教えてくれた。
「当ったり前じゃん!あいつ頭無くてもまた生えてくるからね!胸に核があるからそれを撃ち抜くのが一番なのよ」
「えっ、気持ちわる……。頭生えてくるの」
「頭だけじゃなくて、手も足も生えてくるわよ。時間稼ぎにはなるけど、その間も鉱石飛んでくるからね」
せめて爬虫類系だったらダメージ少なかったんだけど、熊の頭や手足生え放題は想像するとちょっと……いや、かなり精神的にくるものがある。うげえ……。
でも、なるほど。前面は鉱石で覆われているから、背面に回り込んで核を撃ち抜いたのかあ。
しっかし、シルフィちゃんツンツンしてるけど、ちゃんと説明してくれるのはありがたい。
ギルに目を向けると、マカライトベアが青い炎に包まれている所だった。
あの青い炎は王都に居た頃に何度も、何度も見たことがある。
最も貧しい地域である川岸では毎日のように青い炎が立ち上っていたっけ。
あれは、生きていたモノを焼く清めの炎だ。
ギルが弔いの炎を放ったのだろう。
「シュナちゃん、お待たせ」
「すごいね、ギル。あんなに強いなんて知らなかった」
私が興奮気味に伝えると、ギルは私の頭をぐりぐりと撫でた。
「心配ないって言ったでしょ」
「言ってたけど、あんなに大きな熊だったから」
ふわりとシルフィちゃんが浮かび、ぐりぐりしているギルの腕に止まった。
「ギル、貴石は取れた?マカライトベアたくさん貯め込んでたでしょ」
「んー」
「ま、まさか!全部一緒に燃やしちゃったの!?」
シルフィちゃんの言葉に、ギルはバツが悪そうに頭をかいた。
「うーん。たくさんあったけど、でもさ。貴石はあのマカライトベアが食べることもなく大事にしていたものだからさ。命は奪っちゃったけど、あいつのお宝は奪いたくなかったかな」
「ギルって、やっぱりへーん!胸元のブルーサファイアとか、すんごいお宝だったのにー!!!」
「放置していたら大物になって人里に降りたかもしれないから駆除はしたけど、宝石が欲しくて倒したわけじゃないからねー。今は依頼も特に受けていないし」
変わらず飄々としたギルに、悔しそうにばたばたとするシルフィちゃん。シルフィちゃん、宝石が好きなのかな……。
「さ、行こっか。」
◆◆◆
双頭の蛇、魔狼の群れ、小型のワイバーン、トロールやゴーレム。上に上がるにつれて魔物は大きさと凶暴さを増していき……。
山頂に巣食っていた、炎ブレスを吐くドラゴン型の魔物をすんなりと倒し「ここで今日は休もうか」と言われた時は、私の推し豪胆すぎない?って震えたけれど、強い魔物の縄張りだったから安全というのは理に適っていたし、まあいいんだけど……。
私の推し、ちょっと強すぎる気がする。
最後らへん、トロールとか出てきても「あ、はいはい。いらっしゃいませ」位にしか思えなくなっていたので、結構私の価値観が麻痺してきてたと思う。
いや、この世界の標準的な戦闘を見たことがないから分からないんだけど、私には最初のマカライトベアから逃げることすらできないと思うんだ……。
まあ、強かったらギルが万が一死んだりする可能性が下がるし、強ければ強いほど安心だし……あれ?むしろもっともっと強くなってください。
ギルにランクを聞きたくてたまらないけれど、聞くタイミングが無いまま危険な鉱山地帯を抜けてしまった。
「うん。この看板はしばらく必要なさそうかな」
おもむろに看板を引っこ抜くギル。
「なになに……この先危険地帯。聖力あるもの寄るべからず……最初の看板と全然違う、ってことは……」
もしかして、と思い当たった私に、ギルは眩しく輝く笑顔を向けてくれた。うっ、蒸発しそう。
「大当たり!ようこそシュナちゃん。エスカトレへ」
冗談めかして、ギルが紳士のように大仰な礼を取ってくれるので笑ってしまう。
「ここが……すごい、草が生えてる」
まだここは鉱山地帯なのだろう。荒れた土地なのに変わりはないが、所々に草木が生えているのだ。
ヴァルナ帝国ではまず見られない光景だ。
「あっちを見てみて」
指さされた方を見てみると……天を貫くほどの大樹が見えた。
「すごい……!もしかしてあれが世界樹?」
「そうだよ。あそこを目指してもう少し進もう。そうしたらすぐにコハルに着く」
シルフィちゃんがピュンと飛び、ギルの頭の上にどしんと座る。
最初の頃は、私が気に入らなくての行動かと思ったんだけど、そうじゃなくて元々の気質らしいとドラゴンの巣で野営をした頃には気がついた。
「私はおうちに帰っていーい?」
「ありがとう、シルフィ。また助けてくれる?」
「大好きで手のかかるギルの為ならもちろん!」
シルフィちゃんは、本当にギルのことを大好きで大切で、誇りに思っているんだなと思う。でも昔からの友人であるから遠慮の無い物言いをするし、信頼が積み重なっているからこその掛け合いなのかなと、見ていてちょっぴり羨ましくなったのは内緒だ。
幼馴染のことを思い出して、胸が少し痛んだのは、自分でも気づかないふりだ。
シルフィちゃんはふわり、とギルの額の近くまで浮かび上がる。そして、シルフィちゃん自身の小さなおでこをギルのおでこと合わせ……そうすると、彼女は緑色の光に包まれ、やがて光の玉になって消えた。
「シルフィちゃんは、普段どこにいるの?」
妖精の森とか村とかあって、そこで暮らしているんだろうか。
あのサイズのかわいい女の子がたくさん……うふふ。
「普段はね、留守番をしてくれてるんだ」
「留守番」
「オレが家に帰れたら、その時はシュナちゃんも行こう。シルフィにも会えるよ」
不可解そうな私に答えてくれたギルの笑顔が、なんだか泣きそうに見えて。私はそれ以上の質問をやめた。
「ずっと草原みたい。でも、もう少し行ったら何か……遠くてよく見えないけど畑かな?何かある」
「そうだね。この辺は水の精霊の加護が強くてね。あちこちに霊泉が湧いてる不思議な地帯なんだ」
確かに、あちらこちらに日を反射した泉が見える。そんなに大きくは見えないけれど、それぞれを繋いで水路のようになっている。
その泉は不思議なことに、世界樹の方向へと道を指し示すように点々と繋がっている様に見えた。
「土地も肥沃で、幻と言われる”輝きの実”も稀に採取できるんだ」
「輝きの実……!すごい、まだ知らないものがたくさんあるんだね。どうしよ、すごいワクワクしてきた」
私の知っているのは、緩やかに滅亡していく国と、本と地図の上だけの世界だ。
目の前に広がっているのは、この世界に来てから見たこともない生命に満ちた大地で、年甲斐もなくワクワクして、走り出したい気持ちになってしまう。いや、走り出したりはしないけどね。
「エスカトレは、全盛期に比べたらほとんど精霊の加護は消えてしまったんだけど、ヴァルナ帝国よりは格段に精霊に愛されているから」
言いながら、ギルがバイクに乗るように促す。
「とりあえず、コハルの町を目指そう。オレの育った町へ」
やっとエスカトレ王国へ到達です。
なんだか、見たことのある草原ですね!




