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side莉々奈7

ここからは書きあがったら投下していきますので、ペースダウンです。すいません……。

お付き合い頂けましたら幸いです。

 守り人になるには契約を交わすことになると言われた莉々奈は最近聞いた言葉だと思い……ワンのことに思い当たった。


「ワンとしたのと同じやつのことかな」

「?」


 世界樹はコテンと首をかしげる。さらり、と金糸のような美しい髪が流れて流れていく。

 湖と同じ美しいエメラルドグリーンの双眸がワンを見つめ、不思議そうに瞬いた。


「莉々奈は、ワンに誓約をもらっているけど……契約はしていないよ」

「えっ、そうなの。ジョシュアさんがそう言ってたからてっきりそうだと思ってた」

「魔物たちを使う人は契約をよくするから間違えたのかな」


 この世界において、誓約は捧げた者の持つ力を大幅に上げるものとなる。

 単純にその者の器と呼ばれる魔力や聖力の器が増すものや、肉体的な能力が飛躍的に上昇することもあるらしいが、上昇率はその者が差し出した相手や条件によって変わる。


 ただし、うまい話には裏があるのは当然で、捧げた側は何かしらの誓いや供物を必要とするものだ。


 この契約とは違い双方の代償は必要とせず、差し出す方の代償とそれを受け取る側が居れば成立するものだ。


「ワンは何を差し出したの?」

(ワンは、りりなとずっとずーっと一緒!)

「?」


 嬉しそうに尻尾を振るワンに、莉々奈は少し困ったように首を傾げた。ここ最近すごく賢くなり、やりとりが楽にはなったが……やっぱり犬だからか疎通が難しい時がある。


「御身の近くから離れず、己の命尽きる時までお護りする」


 艶やかな女性の声が突然聞こえ、莉々奈ははっと隣を見ると……いつからそこにいたのだろうか。燃える紅蓮のような髪を持った女性が佇んでいた。世界樹と同じように、この世界の標準的な布を巻いた服だが溢れんばかりの色気を感じる女性だった。


「己の生きる時間全てと引き換えに、ワンはそれを愛し子に誓ったのだよ」


 女性が現れた衝撃は大きかったが、告げられた内容の方が衝撃が大きかった。


「炎の子。おはよう」

「おはようございます、我が主」


 世界樹の前に女性は恭しく片膝を付いて頭を垂れる。

 その様子から見るに、彼女は配下なのだと莉々奈は理解する。

 ただの幼い少女に見えるが、やはり人智を越えた存在なのだ。


「他の子たちはどうしてるの?」

「大地のは全てが終わってからご挨拶申し上げると。風のは落ち着いた頃に来ると。泉のは……」


 チラリ、とエメラルドグリーンに澄んだ湖に目を走らせ、呆れたように片手を振る。


「泉のは、愛し子にお会いするのが恥ずかしいそうです」

『違いますわ!!!!!敬愛なる母上様にご遠慮しているだけですわ!!!!!』


 炎の女性とは違うが、澄んだ女性の声が響いて莉々奈は驚いてキョロキョロと見渡したが誰の姿も見つけることはできなかった。


「敬愛なる我が主よ。横槍を入れてしまいました。私はワンとおとなしくしておりますゆえ」


 横に下がり、莉々奈の足元にいたワンに手招きをする。

 ワンは嬉しそうに大きなしっぽを振って駆けていく。


(赤いの、いっしょにあそぼう!!!)

「こりゃ、おとなしく座っとれ」


 はしゃぐワンに困った様子だが、嬉しそうな女性を見るにワンの言っていた赤い友達というのは彼女のことなんだろう、と莉々奈は納得する。愉快な森の仲間の動物と予想していたが、ヒト型だとは思わなかった。なるほど、確かに赤い。


「契約を交わす前にね、莉々奈に私の名前を付けてほしいの」

「えっ」


 予想外の申し出に驚くが、確かに名前が無いと不便だ。

 このかわいい女の子を世界樹ちゃんと呼び続けるのはワンと同じ轍を踏む気がする。


 名前、名前……そう思って目の前の少女を見つめる。

 よく晴れた日の陽だまりにいるような、そんなあたたかな気持ちにさせてくれる少女。


「うん。決めた。決めたけど……」


 後ろで楽し気に小枝を投げて遊んでいる炎の女性と、ものすごい勢いでキャッチするワンにチラリと視線を投げる。


「大丈夫。この世界で私の名前を縛れる程の力があるのは魔王だけ」

「えっ、魔王いるの」

「ふふふ、莉々奈のゲームみたいに悪い子じゃないよ」


 何かを思い出したのか、少女はくすくすと笑う。

 そして、ぽつりと呟くように言葉をつづけた。


柊奈(しゅな)も大好きだったよ。本当は二人を離したくなかった」


 しょんぼりとしてしまった少女の前に、莉々奈は膝を付いて片手を取った。


「ありがとう。私は、生きてここにいて。これから始まることにすごくワクワクしてるんだよ。一緒に楽しく生きよう……ね、小春ちゃん」


 シュルリ、莉々奈から少女へと光の筋が伸びていく。

 その見知った光景を見て、莉々奈は慌てる。


「あ。ちょっとまって、もう一つ足してもいい」

「なあに?」

黒須(くろす)小春(こはる)にしてもいいかな」


 それを聞いた少女は、零れ落ちそうに大きな瞳を更に見開き、次いで嬉しそうにほほ笑んだ。


「うん。私の名前は、黒須小春」

「私の名前は、黒須莉々奈」


 不思議と、何も聞かなくても何をすべきか莉々奈は理解できた。

 己の名前を言うと、莉々奈と小春の体から伸びた光の筋は繋がり、ワンの時とは違い一本の大きな光の束となりお互いを繋いだ。


「あったかい。小春ちゃんの力、あったかいね」

「莉々奈は私の力を受け入れてくれる。嬉しい」


 生きる者の中にある器とは、その者の潜在能力と寿命の基礎となるものだ。

 ただ、どんなに大きな器を持っていても、中に入っているものが微々たる力であればそれしか使役することはできず、命が果てるのも早い。


 莉々奈は、その巨大な器いっぱいまで聖力を満たすこととなった。

 そして、世界樹の加護を受け守り人となった彼女には、減れば減っただけ聖力がゆっくりと注がれていくのだ。

 これにより、ほぼ不老不死の存在となり、同時に精霊たちの加護を一心に受ける存在へとなったのだが……それを本人が知ることになるのはまた別の話である。



◇◇◇


 契約の後、莉々奈は改めて紹介された炎の精霊王、大地の精霊王と挨拶をし、それぞれに請われて名前を付けてやった。


 彼らは世界樹たる小春に全てを捧げる誓約を捧げているので、他者に名を知られても縛ることは不可能だそうだ。


 ワンも同じで、莉々奈に全てを捧げている為、他者が一方的に縛ることはできないと知り一安心したのだった。


 莉々奈も世界樹と契約を結び、守り人となった身だが、異世界より来た者は異例なので、やはり今まで通りリリーナ・クロスという通り名でいったほうが良いということとなった。


煌香(こうか)か、善き名を頂いた」


 炎の精霊王……煌香は満足そうに頷いた。


「名が無くとも別段不便を感じることはなかったのだが……友が名で呼ばれているのはちと妬ましいものがあったな」

(あかいの!!あかいのじゃなくなった!!コウカ!!)


「守り人よ……おっと、リリーナと呼ぶのであったな」


 この世界で守り人として生きることは決めたが、守り人として莉々奈の仕事は特にない。強いて言えば小春を楽しませることなので、これからリリーナとしてこちらの世界のことをよく知っていこうと思っている。


「リリーナよ。実は紹介したいやつがおってな」


 面倒臭そうに、煌香は湖の方を指さした。


「ほれ、泉の。お主もとっておきの名をもらうのじゃと息まいておったろう」

 

 しかし、煌香の言葉に返事はない。エメラルドグリーンの湖は波紋一つなく美しく在るだけだ。


「……はよせぬのなら、その湖、我が全て干上がらせても良いのだが?」


 少し苛立ったような煌香の声に、湖の一部が激しく波打ち、荒れ狂い……その水がたおやかな女性の姿を取った。


「炎のはいつも乱暴なのですわ!!母上様をお守りする湖を……わたくしの最高傑作をっ……!!!!」


 たおやかな女性は、なんだか口を尖らせ、両手をぶんぶんを振って怒っている。


(すごくきれいな人だけど、怒り方が小さな子供みたいでなんだかかわいい)


 莉々奈はそう思ったが、口には出さないのが華というものである。


「もう炎のではない。煌香じゃ。ほーれ、羨ましかろ?泉の!!」

「うぐぐぐ……!!!!」


 口をへの字に曲げた泉の精霊王は、しばらく怒りに打ち震えていた。

 何度か深呼吸を繰り返し、生来の落ち着きを取り戻したのだろう。

 たおやかな見た目に相応しい、落ち着いた大人の女性の笑みを浮かべたが、先ほどのやり取りを全て見てしまっていた莉々奈にはなんだか全て可愛らしく見える。


「お初にお目にかかります。守り人様。わたくしは水の精霊王となります」

「ああ、だから泉の」


 納得したように呟く莉々奈に、水の精霊王は慌てて手をぱたぱたと振る。


「ええっと、わたくし自身はただの泉の精霊だったのですが、先代が……」


 水の精霊王は言葉を濁し、美しい紫紺の睫毛を伏せた。


「先代が身罷られ、わたくしが継いだので……その名残でわたくしは泉のと呼ばれておりますの」

「そっか……大変だったんですね」


 水の精霊王は複雑な笑みを浮かべた後、莉々奈の前に片膝を付いて礼をとった。


「わたくしめにも、名を付けてくださいまし。敬愛なる母上様の愛する守り人様」

「ふふ、リリーナって呼んでください」

「まあ、嬉しいですわ」


 莉々奈は目の前の女性をよくよく観察する。

 水のようにたゆたう髪は美しく艶やかだ。しかしよくよく見ると所々に濃い紫色のメッシュが入っており、たおやかな中にも色気が漂う女性である。


 双眸はきらきらと輝く瑠璃色で、深い水の底のようにも。冬の空のようにも見える不思議な色だ。見つめられているとすべてを見透かされているような不思議な気持ちになる。その宝玉を縁取るのは、紫紺色の長い睫毛だ。


 だがしかし、先ほどまでのやり取りを見るに恥ずかしがり屋で、少し意地っ張りなのだろうと思うとこんな絶世の美女なのに可愛らしく思えてくるので不思議だ。


汐璃(しおり)

「あら、素敵ですわ。どのような意味があるのでしょう」


 片頬に手をついて、少し恥ずかしそうではあるが、その実とても嬉しいのだろう。少し頬が紅潮した水の精霊王……汐璃に莉々奈は答えた。


「汐は海のこと。満ち足たり引いたりするでしょう?あなたは感情豊かで、失礼かもしれないけれど可愛らしいから」

「……海」


 汐璃は何かを思いはせるように瞼を伏せる。

 しかし、振り払うように瞳をあけ、頷いた。


「わたくし、海は大好きですの」


 その言葉に、煌香が驚いたように目を瞠るが、汐璃はそのまま続けた。


「あとは、何か意味がありまして?」

「瑠璃っていう宝石があるんだけどね、あなたの瞳の色みたいでとっても綺麗だから……そこから一文字もらって汐璃だよ」

「まあ!素敵……素敵ですわ。わたくし、今日から汐璃ですわよ」

 

 おおはしゃぎの汐璃に、煌香は珍しく笑みを返しただけであった。


 

◇◇◇


 こうして、黒須莉々奈は世界を渡りリリーナ・クロスとなり、世界樹の守り人となった。

 

 聖域より自由に出ることのできぬ小春の為、リリアンの小屋と行き来をすることとなる。

 今までは信仰の対象であった世界樹と、外界を結ぶ唯一の繋がりが出来た瞬間でもあった。




水の精霊王はツンデレになりきれないデレ子ちゃんです。

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