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迷い込んだ異世界には推しがいました。

初めましての方も、お久しぶりの方も、楽しんで頂けたら幸いです。

「ごめんね、なんて言ってるか全然わかんないよ」


 何回目かの同じセリフを私は吐き出す。

 もちろん、この言葉が通じないのは分かっているけど、私には日本語しか喋れない。

 目の前のキラキラしい金髪イケメンお兄さんは、困った様子でなにかしらを伝えようとしているけれど……。


 全くもって何をおっしゃっているのか、皆目見当もつきません!!!!!!!


 しかし、このお兄さん、めっちゃ顔がいい。


 体つきも程よく筋肉質で、服装も個性的ではあるが品があり、センスも良いと思われる。

 何より、出会って数時間の付き合いだけれど、性格がとても良い。たぶんいい。ううん、すごいいいと思う。

 時々見せるお茶目な仕草もかわいいしカッコイイ。



 神は二物も三物も与えるのかな???

 けしからん。推してもいいですか???



*** *** ***


 二十五歳、しがないフリーターの私が、こんな推せるお兄さんと何故一緒にいるのかを説明する為には、少し時間を遡らなくてはならない。

  


 いつものようにバタバタと閉店処理を終えて。ラストメンバーの子とちょっとおしゃべりしてから駅前で別れて電車に乗る。

 遅い時間のせいで全く人が居ない最寄り駅から我が城……といっても、古いワンルームのアパートですけど。まあそれでも私にとっては思い出の詰まった大切なお城だ。


 二十五歳、彼氏無し。一人暮らしだったけど、三年前までは隣の部屋に幼馴染兼、親友が住んでいた。

 お互いの部屋を毎日行き来してわいわいと楽しく過ごしていたのだけれど、色々あって彼女は隣の部屋に帰ってくることはなくなってしまった。


 今は知らない人が住んでいるその部屋の隣に、私はまだ住んでいる。

 幼馴染が行方不明になって三年。おじさんもおばさんも、弟くんだってもう諦めてしまったけれど。私はまだ諦め切れない……違うか。認めたくないだけって分かっているけど、それでもずっと待ってる。


 あの大雨の日から、私の時間は止まったままなんだ。変わらないといけないとは思っているけど、二十二年間ずっと一緒にいたのに、そんなに急には変われないよ。


 さて、今日は帰って何食べようかなと考えながら歩いていると、視界の端にキラリと光るものが見えた。


 なんだか妙に気になって、少しバックしてよくよく見ると、いつもの道より一本それたブロック塀の上に小さな小鳥がいた。


「えっ、ちっちゃ!」


 思わず声が出てしまうほどに、その小鳥は小さかった。小鳥って呼んでいいのかなこれ。小小小鳥じゃないのかな。

 

 大きさはモンシロチョウくらいなんだけど、きっちり鳥のパーツを揃えていて、おりこうさんに塀の上に止まっている。小鳥そのものの可愛らしい動きで、小さな可愛らしい嘴で羽を整えている所だ。


「なんか、銀色に光ってない……?本当に生き物なのかな」


 街灯の届かない路地でもはっきり見える程、光をまとった鳥だった。銀色の体毛に見えるけど、そんな鳥っていたっけ。


「めちゃめちゃおとなしいね。いい子だけど、この辺はニャンもいっぱいいるから捕まっちゃったら大変だよ」


 可愛すぎるし、神秘的だし。もっと見ていたいけど、この辺は割と元気な猫ちゃんたちが多い。せめてもっと高い場所で羽休めをしないと危ない。そう思って手を伸ばすと……。


「あっ……」


 当たり前と言えば当たり前だけど、小鳥(仮)は小さな羽を広げてパタパタと飛んでいってしまった。

 捕まえようとかは一切思っていないけど、安全な所へ移ったか心配で後を追って路地の角を曲がると……そこには、全く見覚えが無い上に、人通りのない薄暗い路地裏が広がっていました。


 小鳥の影も形も見当たらず、というか本当に別の空間に飛び出してきたような異質な感じに気持ち悪くなる。


 トンネルくぐったら雪国じゃあるまいしと、慌てて回れ右をすると……さっき歩いていた道があったはずのそこには、高いレンガの壁があった。


 つまり、行き止まりの壁から、路地裏に出てきたような、そんな不思議な状態だったのだ。


 こんなの絶対おかしい。

 押したらティロロティロリロリ~♪とか鳴って通路が出てきたりするのでは???


 絶対そんなわけないと頭では理解しつつも、街灯の明かりを頼りに、なんとなく壁を触って調べていると、後ろから野太い声を掛けられた。


 振り返ると、ボロボロで汚れたシャツとズボンを着用された男性がいらっしゃいました。

 髪の毛がぺったんこでギトついてるところから察するに、少なくともここ数日はお風呂に入ってらっしゃらないと推測される。


 お世辞にも衛生的とはいえないし、見た目で判断しちゃだめよと、死んだばあちゃんが言っていたけど、ごめんねばあちゃん。もうね、見るからに素行の悪そうな顔つきをしていらっしゃる。


 さすがの能天気な私でも嫌な予感に顔がひきつる。

 

 男は猫なで声で何かを言っているが、何をいっているのかはさっぱり分からなかった。


 さっぱり分からないけど、猫なで声だなっていうのは分かるのすごいって頭のどこかで冷静に考えた。


 曖昧な笑みを浮かべる私に、男は路地の奥に何やら声をかけ……出てきたのは明らかに、なにかしらの犯罪を犯してそうな人相の大男その二だった。


 これって、極道漫画とかで見たことある。外国人マフィア的な組織ってやつでは……。


 後ろは壁ということもあり、あっという間に取り囲まれてしまう。最初の男がにやにや笑ったまま腕を掴もうとしたので、思わず振り払う。


 私の反抗的な態度が気に入らなかったのだろう。最初とは違い、今度は無理やりに腕を掴まれ、すごい力でねじり上げられた。


 ストップストップ!!!ノーモア暴力!!!


 心の中では大騒ぎしているけど、恐怖で小さなうめき声しか出てこない。

 あと、この人めちゃめちゃ酒臭いな!!!やめてっ!!!顔寄せないで!!!


 そのまま無理やり引きずられるように連れていかれそうになっていると、暗がりの中から新たな人影が現れた。


 女一人に男三人がかりってひどくないかなと、現れた三人目の男を絶望的な気持ちで眺めた私は、一瞬痛みを忘れた。


 暗いこの場所でも、光を集めて輝く金の髪。

 今は驚いた表情だけど、にっこり微笑みを浮かべたら卒倒する人が出てきそうに整った顔。


 あまり見かけない、コスプレのような外套から伸びる足はスラリと長い。頑丈そうな編み上げブーツもいちいち似合っている。


 え、何このイケメン。どこのイベント会場から抜け出してきたの?とか思っている間に、イケメンは何かを言う。

 

 私の腕を掴んでいる男が声を荒げて吠える。やっぱり何を言っているのかさっぱり分からない……。


 イケメンが、外套の下へと手を入れる。それを見た男の腕を掴む力が強まり、高い位置でポニーテールにしてある、私のチャームポイントくるくる天パーをぐいっと強く引っ張られ、そこでようやく私の口から悲鳴が出た。


「●×#”%!!!!」


 悲鳴を上げた私を見て、イケメンは大きな声で何かを言い、外套の下から取り出した銃らしきものの照準を男に向けた。

 テレビなんかで見る、いわゆる拳銃じゃない。

 ゲームとか映画とかで見るような、ちょっと変わった…大きめの銃だ。

 何かがはめ込まれていて、その箇所は青白く発光している。


 イケメンは銃を構えたまま、こちらに近づいてくる。


「……”$&×●!?」


 男が、何かに気付いたような表情で、イケメンに問う。

 イケメンは何も答えず、ニヤっと笑う。


 ニヤっと笑ってもかっこいいな。なんだこの人。


 それを見た男は、急に慌て出し、私を乱暴にイケメンのほうへと放り投げた。

 イケメンはボサボサ頭になった私をしっかりキャッチしてくれたのだけれど、やだ、すごくいい香りがする……。さっきの酒臭い男とは違う……。ここは天国かな??


 男は何かを手下に言い、そのまま連れ立って引き上げていく。


 どうやら、イケメンは私を助けてくれたらしい。


 とりあえずお礼を言おうと頭を下げるも、言葉は通じない。

 どうしようか。そう思って頭を上げるとイケメンの顔が曇っていて、彼の視線を追うと私の手首だった。イケメンの顔を曇らせるとは、私の手首め、なんと罪深いやつだ。


「うわ、痣になってる……」


 うっすらと手の形に痣がついていた。これは時間経過で濃くなる嫌なやつなきがする。ホラー映画みたいになるやつだ。

 痣ができていることに気づいてしまったので、腕もなんだかとても痛い気がしてきた。

 危機が遠ざかり、なんだか一気にどっと疲れが押し寄せてくる。


 イケメンはそんな私を見て少し考え、自身の外套を脱いだ。


 分厚い外套の下から現れたのは、細身だけれど、しっかり筋肉のついた均整の取れた体。


 腰のベルトから下がるホルスターにはずっしりと重そうな先ほどの銃が納められている。

 別のベルトには弾薬だろうか。微かな光を放つ色とりどりの小さなガラス管が納められている。


 彼は、脱いだ外套を私にそっと着せてくれた。

 痛めた腕になるべく当たらないように、注意を払って袖を通してくれたのには感動してしまった。


 ずしりと重たいけれど、それが心地よい。そしていい香りがする。さっきはいい匂いとしか認識できなかったけど、落ち着いて嗅ぐと香水とかじゃなくて、きちんと洗濯された、シャボンの香りだった。


 私の前に膝を付き、前のボタンまでキッチリと閉めてくれた。

 途中でお断りしようとしたけれど、ニッコリ笑顔で押し切られてしまった。イケメンの笑顔が眩しくて逆らえない。

 外套はぶかぶかだけど、緊張で冷え切った体にはとても暖かかった。


 外套を脱いだことにより、銃や何かが装填されたガラス管だとかナイフだとかが丸出しになるけれど、不思議なことに全く怖いとは思わなかった。


 銃を扱い、あの人相の悪い人たちを退散させるような人物。


 でも、この人は悪い人ではない。そんな、確信めいた気持ちがした。 

押しと推しに弱い、サックリ順応する系主人公でした。

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