表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能勇者  作者: キリン
無能勇者編
86/86

「最終話」無能勇者、伝説になる

 かくして、世界に平和が訪れた。


 大将首である大魔王エデン、それすらも葬った邪竜アルトが消滅したことにより、全ての魔物たちは火の粉を散らすように逃げていった。長き戦いに勝利した世界中の人間たちは、七日間もの間、踊って騒いだとか。


 しかし彼らの頭の片隅には、たった一つの疑問だけが残されていたのだ。

 そう、大魔王エデンと邪竜アルトを葬った勇者は、一体どこに行ったのだろうか?


 無論、世間一般において大魔王を倒したのは元勇者のアーサーだ。しかし、それを信じない人もいるという話である。全くわからない第三者の噂は、アーサーが勇者だという説と互角に語り継がれていたのである。

 名声と見返りを求めて玉座に座るわけでもなく、死体を晒して語り草になる訳でもなく……彼が残した成果だけが、輝かしい希望の炎として世界を照らしていたのである。


 後に晒される経歴、その過程を聞いた誰もが、『なぜ?』と声を漏らした。彼が成し遂げた偉業を、他の誰でもない彼自身が放棄した。彼らはそんな彼の謙虚にも思える愚かさと、無能が故に追放されたという過去を引用し……後に語られる伝説で、彼をこう語った。


『無能勇者』と。













 世間では、俺は死んだことになっている訳ではないらしい。

 何やら自分の偉業を自分でかなぐり捨てた『無能勇者』とか呼ばれてるらしい。町をいくつも点々としてきたが、風に流れてくる話題は、大体がそれについてのものだった。


『なぁ、ホントなのか? パーティから追放されるようなガキが、大魔王を倒しちまえるのか?』

『俺が知るわけねぇだろ。みんなそう言ってるけど、事実平和になってるんだ。アーサーだろうがガドだろうが、どっちにも感謝しとこうぜ』


 無論、それを信じている人は少ない。当然だ、成り行きとラッキーに塗り固められたこの旅路が、俺だけの成果として収束されるなんてとても受け入れがたい。疑惑の勇者、無能勇者として笑い話になったほうが、俺はいくらか気が楽だ。


「ガド」


 振り向くと、そこにはフードを被った彼女がいる。この世界で唯一人、俺を勇者だと言ってくれた大切な人。俺が全部を捨ててでも救いたくて、その結果救うことが出来た人。


「すみません、私も連れてきてもらってしまって……」

「いいんだよ、別に。元々は俺のワガママだし、むしろ謝るのは俺の方なんだから」


 と、そんなイグニスさんの顔が上がる。彼女が向ける目線の先には、華やかな『勇者御一行』がいた。──不屈の戦士フロスト、大魔術師マーリン……そして、大魔王を打ち倒した、勇者アーサー。


「……」


 人々の歓声を一身に受けるそいつらを、俺は涙を堪えながら見ていた。石ではなく、血の通った人間としてあそこにいる。ああ、謝りたかったな。なんて……俺はズルいと思いながらも心のなかで謝った。最後に彼らの顔を見たかった、そんな俺のわがままを聞いてくれたイグニスさんには感謝しかなかった。


「……もう、いいや」

「……はい」


 俺が踵を返すと、イグニスさんはついてきた。人の波に逆らうように、俺たちはただ黙って……町を出た。辺りは広い草原で、どこまで歩いても続いていそうだった。


「元気そうでしたね、アーサーさん」

「うん、よかった。……最後に償えて、本当に」


 イグニスさんは苦い顔をしたが、俺はそれを片手で静止した。これは、俺の問題だ。


「次は、どこに行こうか」


 どこにでも行ける、俺はもう勇者ではない。故郷にこっそり帰るのもよし、妖精国に行ってのんびり暮らすのもよし……意外と選り取り見取りな未来に、俺が胸を膨らませていると。


「……ガド」

「うん?」

「これからも、一緒にいてくれますか?」


 何を今更。そう言いかけた俺だったが……ここは少しユーモアを効かせて、それでいて彼女の心に響くような言葉を送らなければ。腰に携えた、俺だけの聖剣の柄を擦りながら、俺は手を差し伸べた。


「勿論。だって俺は、君だけの無能勇者だからね」


 彼女は再び泣きそうな顔をして、その後に少しムッとした顔で笑った。


「貴方は、無能なんかじゃないです」

「そうかなぁ? まぁ、頑張ってはいるかなぁ」


 ため息を付いてついてくるイグニスさんが黙ったまま、俺の目の前に立った。──ああ、なるほど。俺は何をしてほしいのかが分かり、少し咳払いをしてから、彼女の白いフードを剥がした。そこには少し赤くなった顔があり、彼女は目を閉じて唇を突き出している。


「……えっと、愛してる」

「なんですかそれ」


 イグニスさんはそんな俺を冷たい目で見てきたので、思わず目線をそらしてしまった。……だが、すぐに顔を掴まれて、引き寄せられて……柔らかい感触が唇に伝わってきた。一瞬の熱さを経て、それはすぐに離れていった。


「私も、愛してますよ」


 真っ赤にした顔を見られないように、俺は即座に彼女を抱きしめた。彼女もこれにはびっくりしたようで、変な声を出していた。でもすぐに力は抜けていき、彼女も俺の背中に手を回してきた。


「……」

「……」


 ずっとこうしていたい、と。速く離れないと心臓が爆発する! という思いが入り混じりながら、俺はどうでも良く素晴らしい事に気がついた。


(今の俺、幸せだなぁ)


 語り継がれる伝説、偉業を成し遂げた大英雄……そう、世界を救った『無能勇者』は、人知れず、人としての幸せを掴み取っていた。今はただ、無能な俺にとってはそれだけで十分である。


どうもキリンです。

三作目の完結作ですね。

いやぁ、『髪結いの魔女』の連載をノリで始めた時はどうなるかと思いました。またお蔵入り……エタった結果完結しないままなのかなーなんて思ってましたけど、こんな形で完結できて本当に良かったです。

完結作三作目となりましたが、なんだか読者様の中で「キリンはタイトルに『無』の文字が入るとヒットする」なんて法則があるとかないとか言われましたね。


いや、そんなことはないだろ(笑)


まだヒットすらしてない私には、なんだか嬉しいような悲しいような……それでも見てくれている人がいるという事実に、感無量でございますね。


さてさて、初期の頃から私を見てくれている読者様には銀河級の感謝を、この作品からキリンワールドに来てくれた方々には、その勇気と優しさに勲章と恒星級の感謝を捧げましょう。


これからも私は頑張っていくつもりです。

どうか、応援宜しくおねがいします!


改めまして、「無能勇者」完結しました!

ここまで読んでいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ