無能、会話を始める
放たれた魔力の束は、空中で折れ曲がりながら迫ってきた。まるで生きているかのように軌道を変え、あらゆる方向からの攻撃は不可避と言わざるを得ない。
「……っ!」
反射的に、俺はそこら中に赫雷を撒き散らした。最大限の怒りを、最硬度の防御に転換する。魔力の束のうち何本かは力づくで霧散させることは出来たが、残りの数本は威力こそ弱くなったものの、未だに俺の方へと向かってくる。
「だぁっ!」
剣をふるい、攻撃を斬り伏せる。咄嗟の対応だったため腕に鈍い痛みが走るが、俺は奥歯を噛み締めながら押し切った。不格好に着地をする頃には攻撃は止んでおり、俺は五体満足のまま荒い息をしていた。
──格が違う、その一言に尽きる。あまりにもレベルが違いすぎるのだ、魔力も、身体能力も、いいや生物としての在り方さえ違う。どんな魔物よりも速く、強く、硬い……流石は伝説に語り継がれるだけはある。納得の強さだ。
(でもそれは、諦める理由には成り得ない……!)
剣を握り、再び構え直す。
怒ってるならぶつけてくれればいい、なにか不満があるなら言ってくれればいい。何でもかんでも自分の中で消化するのは、ひどく難しい。──だからこそ、彼女の気持ちを、彼女が燻らせていた思いを全部聞きたいんだ。
牙と剣が何度も交差する。鍔迫り合いと呼ばれるものはほんの一瞬にとどまり、ぶつかって離れるを繰り返すその様は、最早人の範疇に収まるものではなかった。
それでいい、彼女が一人ぼっちなら、俺も一緒に化け物になってしまえばいい。疲れなんて知らない、痛みなんて忘れた。剣を振れ、もっとだ、もっと速く。
それから俺の頭の中はしばらく真っ白になって、しばらく何もないまま……俺は彼女との『会話』を始めた。




