無能、愚かなる回避
鋭利な爪、迫りくる大顎、鞭のように縦横無尽な尻尾。
巨躯に見合わないスピードで繰り出される攻撃の数々は、最早自分に追いつけるものではなかった。一撃を繰り出す前に二撃が来る、一撃をを防御に使っても、もう一撃が自分の体に突き刺さる。迎撃ができているだけで、手数では圧倒的にあちらのほうが上なのである。
加えて、この戦いは今までとは目的が異なるのである。今までは「目の前の敵を殺す」という単純なものであったが、今回は話が別だ。──「お互いが死なないように戦いながら相手を説得し、話し合いで解決する」という無理難題である。これが、もしも相手が自分より格下だったとしても、成功率は限りなく低いのである。相手との実力差が明確なこの戦いは、無謀という二文字で表すのが妥当だろう。
(それで諦められるほど、俺が捨てたものは軽くないんだよ……!)
迫りくる攻撃の嵐の中、俺は今一度決意を固めてみせた。絶対にやめさせてみせる、なんの意味も分からないまま、彼女を世界の敵にしてたまるか!
「うぉおあああああああっ!」
まずは、攻撃を見定める! どれだけ早くて威力が高くても、避けてしまえばなんの問題もない。というか、今回の俺の目的はこれが出来さえすればほぼ達成したようなものなのだ、攻撃のことを考えるな、迎撃と、防御……そして絶対的な回避に専念しろ!
(叩きつけの尻尾、振り下ろしの爪、追い打ちの体当たり!)
いける、やっぱりいける! 二重三重に組み上げられていた攻撃だが、避けてしまえばどうってことない! 間合いだ、とにかく間合いを図りながら回避し続けろ!
──大顎が、開く。
「──っ!?」
本能的に、ほとんど反射的に体が動く。赫雷によって強化された両足で飛び、そのまま俺は、大顎に収束されていく魔力の渦を見た。間違いなくそれは、俺のいる空中へと向けられた物であった。
(しまった、空中だから下手な身動きができない……!)
悔いる暇も、余裕も、次の瞬間には全て消し飛んでいた。複数方向に折れ曲がり迫りくる魔力の束に向かって、俺は剣を構えるしかなかった。




