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無能勇者  作者: キリン
大魔王エデン編
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アルカの記憶①

 これはまだ、俺に寿命という概念があった頃の、遥か遥か昔の話。

 主人であった神を裏切り、俺が俺自身の願の為に同胞を殺しまわる前の、穏やかで屈辱的で、それでも忘れられなかった日々の話。――誰もが忘れ去ってしまった、あの頃の記憶だ。


 憤雷の一族とは、神に作られた神造生物兵器である。


 人間が持つ感情という莫大なエネルギーを、神が与えた権能によって魔力に返還する。変換された魔力は神に匹敵する力を持っており、密度の関係で赤く染まっている。一族はこれを赫雷と呼び、自分達だけが持つ神聖な武器だと誇りを持っていた。

 人を超えた人として君臨していた俺たちは、莫大な土地と力を蓄えていた。一族を作り出した神の目的である、不老不死の薬を探すために。――俺はそんな裕福な一族の長の、息子に当たる存在だった。


 成績優秀、武芸百般。なによりすぐに怒りを露にするというその性格は、怒りを武器として使う俺たち一族にとっては何よりの宝であった。優秀な赫雷を放ち、将来を大いに期待されていたのが、当時の俺である。そしてそれを真に受け、自らを特別だとおごり高ぶっていたのも、俺である。――そして俺の輝かしい人生は、あの青い雷によって突如砕かれた。





 ◇





 俺はいつものように散歩をしていて、自由気ままに領土内を歩いていた。長に従う人間たちや同胞は、みな俺に頭を下げている。長に逆らえば生活が苦しくなるし、場合によっては殺されるからである。当時の俺はとても気分が良かったし、それなりに生意気なクソガキだったと思う。


「おいお前、踊ってみろよ」


 丸々太った一人が、嫌そうに俺の前で踊る。踊りそのものというよりは、踊ろうと藻掻き、無様に肉を揺らしているその様を見て笑った。適当に晒し、その後に大衆の列に蹴り飛ばした。俺の赫雷は肉を焼き、大衆をボウリングのピンのごとぐふっ飛ばしていった。


「へへっ、腰抜け共! 俺に不満があるなら、直接俺に殴り掛かって来いよ!」


 こうやって煽って、大衆の悔しげな顔を見るのが好きだった。何もできない、何もさせない。敵がいない文字通り「無敵」の状態を存分に楽しみ、これを日課にしていた。俺はこれを一通り楽しんだ後で、いつも通り家路に付こうとしていた。――その時だった。


「そこまでだぁー!」


 背後から、甲高い声が聞こえてくる。なんだ、俺に言ったのか? 振り返るとそこには、赤いマントを身に纏った白髪の女がいた。


「君みたいに生意気で他人様に迷惑をかけるクソガキは、私がぶっ飛ばす! 安心して、峰打ちで勘弁してあげる!」


 そういえば腰には高そうな剣を背負っているが、まさか拳士だと言い張る訳じゃないよな? 女が、何の価値も無い飯炊きの存在が?


「……何か言い残すことは?」


 俺は気分を害し、持っていた家宝の剣に手を掛ける。幸い気分が良かったためか、最後の言葉ぐらいは聞いてやろうと思ったのだ。――だが、その女は。


「私はイーラ! あなたと同じ『憤雷の一族』で、いつか最強の剣豪になる女の名前! 今のあなたは生意気だから、ぶっ飛ばす!」


 意味の分からない理由より、俺はまず「自分に逆らう存在」に腹が立って仕方なかった。俺は腰の剣を抜き放ち、赫雷と共に突っ込んでいった。――そして俺は、迎え撃つ太刀筋に宿るそれを見た。


(青い、赫雷……!?)


 ぶつかる二つの大雷霆、吹き飛ばされる人と建物。

 これが、俺とイーラの初顔合わせであり、同時に村一つを吹き飛ばす大事件の勃発であった。


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