儚げな少女、土足で踏みしめる
扉の向こうには、数多の宝物が山を成していた。金貨の海に浮かぶ宝石の数々、装飾された美しい武具、黄金で作られた像もちらほら見える。
それらは妖精の国に眠る宝に相応しく、喉から手が出るほど欲しいようなものばかりだった。しかしペパスイトスは眉一つ動かさず、その宝の山の上を、土足で踏みしめた。
「片付けねぇからこうなるんだよ。ったく、探すこっちの身にもなれってんだ」
その様子を見て、彼は本当の職人だということを分からせられた。彼は目先の餌になど目もくれず、人を損得感情無しで選び、自分の満足の行く仕事を、最高の形でこなすことに命をかけている。ーーそれら全てを、彼は自己満足だと自虐したけど、彼に武器を造ってもらった人達は、善人と呼ばれる人たちではなかったのだろうか?
「おいイグニス、見てねぇで手伝え」
「あっ、はい!」
呆然と立ち尽くしていた私は慌てて宝の山に登った。金銀財宝を踏みしめるというのは、貧乏ぐらしの私には刺激が強すぎた。輝きに目眩を覚えながら、そういえば私は、アイテムがどんなものかを聞いてなかった。
「ペパスイトス、アイテムというのはどんな……?」
「鏡だよ、でっかい鏡」
それだけ言って、また宝の山を散策する。ーー鏡、大きいなら簡単に見つかると思うのだが、見渡してもそれらしきものは見つからない。
顔を上げ、汗を拭う。天井を見上げ、また宝の山に目線を移した……その端に、それは映り込んでいた。
「……きれい」
思わずそんな声が出る程の完成美を醸し出すそれは、奥の壁に立てかけられていた鏡だった。




